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始まりのゆき
冬の始まりの頃だった。
空は今にも降り出しそうな曇天だった。気温は低く、降るとしたら雨でなく、確実に雪であろうと思われた。夕方というわけでもないのに、やたらと薄暗い。実際には昼を少し過ぎた頃だった。時折冷たい風が吹き、秋の最後の名残のように、枝に食らいつく枯葉を揺らした。その時のカサカサという音が、あちらこちらで聞こえていた。
アキラは、小さなナップザックを背負ってそんな山道を歩いていた。普通の人間が山に入るような時期は過ぎていた。かといって、彼が人並み外れて山登りが好きなのでもない。ただ、それが、今、彼が目的地を目指せる唯一の交通手段だというだけのことだった。
アキラはいくつもの交通機関を乗り継ぎ、最後のバスを降りて三十分ほど歩き続けていた。カサカサという枯葉の鳴る音を聞きながら、彼はその道を、歩いていたのだ。
他に連れがあるという事も無い。鼻歌を歌うでもない。ただ黙々と、白い息を吐きながら歩いていた。