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異世界ドラゴン~この世界をひとつに~  作者: あんちおいでぃぷす
第二章 孤児院潜入編
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旅立ち

「死んだのはいつだ? 」

 「二時間ほど前だ」

 ティファニーの遺体を抱いたジルが答える。

 「……ティファニーは最後まで、俺のことをレイゲンだと思っていた。多分もう、目が見えていなかったんだろう」

 「……」

 俺は崩れ去った町並みを眺めた。

 俺とセナが転移されてきたのはリントン地区の孤児院のすぐ近くにある川辺だった。

 リントン地区の家屋はすべて焼き払われていた。

 見渡す限りの景色が平らな焼け野原となっている。

 そして瓦礫の上や下に、膨大な数の黒焦げとなった死体が横たわっている。

 この土地全体に異様な匂いが充満していた。

 数え切れないほどの死体が燃えている匂いだ。

 (ここまで、するのか……)

 (戦争は、ここまで都市を蹂躙するのか……)

 軍勢はすでに去ったらしく、リントン地区には俺たちのほかにひとの姿は見当たらなかった。

 軍勢が去ったあとの凄まじい暴力性に俺はあっけにとられていた。



 「フィルスたちは、どうなった……? 」

 「フィルスさんたちは最後まで俺たちを待ってくれた。だけど、もう軍勢がすぐ近くまで迫っていたから、先に行くと言って、街の住民を出来るだけ船に乗せて西に旅立った」

 「そうか。無事なら良いんだ」

 「出るときに、レイゲンに伝えてくれと言われた」 

 「なにを」

 「フローゲンにはまだ王子が残っている――と」

 「そうか……」

 俺は近寄って、眠ったように目を閉じているティファニーを見つめた。

 長い睫毛。

 ぷっくりとした可愛い唇。

 顔は綺麗なままで、とても死んでいるとは思えない。

 今にも甘い声で俺に語りかけてきそうだった。


 「ティファニーが子どもたちを護ってくれたのか? 」

 「……そうだ。軍勢がこの近くを通ったとき、俺は港でフィルスさんたちと居た。駆けつけたときにはすでにティファニーは死にかかっていた」

 子どもたちは全員無事だった。

 ミクロンが立ち上がり、俺に言った。

 「ティファニーが地下にぼくたちを隠してくれたんだ。そして、攻めてきた兵士たちと戦ってくれた……。だけど、こんなことに……」

 

 「ごめん」

 と俺が言った。

 「俺が近くにいれば、ティファニーは死なずに済んだのに」

 「レイゲンのせいじゃないよ」

 ジルが言った。

 無力感から、みんながじっと押し黙っていた。

 ふと東の地平を眺めると、空が真っ赤に染まっているのが見えた。

 あれはフローゲンの城が燃え上がる赤みが、空に映っているものだった。



 「……レイゲン。教えてくれないか」

 ジルがティファニーを担いだまま言った。

 ジルは俯いていて、泣いているように見えた。

 「お前がいつか、この世のすべての出来事には意味があると言っていたのを覚えているんだ。この世には意味のないことなんてない。すべての事象に意味があるって」

 「ああ、言ったな」

 「俺はその言葉に感動したんだ。石が転がるのも、草が木から落ちるのにも意味があるんだと思うと、なんだかこの世界が素晴らしいものに感じられたんだ」

 「ああ、わかるよ」 

 「なあ、教えて欲しいんだよ。この死に、――ティファニーの死に、いったいどんな意味があるんだ? 十歳にも満たない女の子が両親を殺害され、人身売買のために孤児院に連れてこられて、自分と関係のない戦争に巻き込まれて死ぬことに、どんな意味があるんだ? レイゲン、このことの意味を教えてくれ」

 「……」

 俺が言葉を失って視線を逸らすと、

 川の上流からなにかが流れてきた。

 遠くにあるときそれは黒い物体に過ぎなかったが、目の前まで来ると東で殺されたフローゲンの国民の死体だった。

 一体流れてきたと思うと、やがてそれが二体に増え、ついには川全体を死体が満たし始めた。

 次々と流れてくる死体を俺たちは黙って見つめ続けていた。

 どれくらい時間が経ったのか、とうとう死体は川いっぱいに流れ始め、ついに川岸に折り重なり始めた。

 そして二時間後には、川辺には死体の山が出来上がっていた。

 

 ヴォェゥ……

 誰かが嘔吐する声がした。



 俺は川辺を下っていって、膨大な死体の山を見下ろした。

 誰かも知らない死体。

 どんなふうに生き、どんなふうにこの国で暮らしていたかも知らない、たくさんの人間。

 それが紛れもなくここで死んでいる。

 ……ふいに、涙が垂れた。

 「……意味なんて知るか……」

 と声が出た。

 「ティファニーが殺される意味なんて、俺が知るもんか……」


 俺は子どもたちのもとを離れて、よたよたと川に沿って歩いて行った。

 

 その後ろを、子どもたちが戸惑いながらついたきた。

 


 やがて海辺に出ると、港には川よりも遥かに膨大な数の死体が流れていた。

 死体は港の窪みに引っかかり、うつ伏せに浮かび、静かな波に従って揺れていた。


 

 俺は港の地面に腰を下ろし、体育座りをし、膝を抱えて泣き始めた。


 子どもたちが俺の背中で、立ち尽くしているのがわかった。

 子どもたちには、俺しか頼る人間がいないのだ。

 そんな俺が、ここで完全に心折られているのだ。

 そんな彼らは、ただ立ち尽くすしかないのだ。



 やがて夜が明け始めた。

 水平線の彼方で陽が昇り、徐々に明るくなっていく光景をじっと見ていた。

 子どもたちは誰も話さなかった。

 俺もなにも言わなかった。

 ただひたすら延々と海を流れて来る、東からやってきた死体の山を見つめていた。


 「レイゲン、ごめん」

 隣に座ったジルが言った。

 「なにが……? 」

 泣きはらした顔を上げてそう尋ねると、

 「お前にばかり責任を負わせちゃって……。お前と俺は同い年だ。その年齢で背負いきれないものがあるのは俺にもわかる」

 「……うぅっ」

 俺はなにも答えられなかった。ただ嗚咽を漏らした。

 本当は四十を過ぎた大人なのだと、口が裂けても言えないと思った。

 そう思うと、無力さのあまり声にならない涙が溢れた。


 「レイゲン、少しは俺を頼ってくれ……」

 隣でそう言うジルの言葉が余計に辛くて、声を殺して泣き続けた。



 ……



 その日の昼過ぎ、港で焚き火をしていると、

 「レイゲン、ちょっと良い? 」

 セナが俺を隅に呼び出した。

 子どもたちから離れてふたりきりになると、

 「これからどうするの」

 とセナが言った。

 「わからない。とにかくフローゲンから離れようと思う」

 「……そう」

 「セナ、お前はセイラの娘だったんだな」

 「うん。……母さんは、私がまだ卵のなかにいたときにレイゲンの話を良くしてくれた」

 「……セイラは、未来が見えたのか? 」

 「うん。でも、完璧にわかるわけじゃないとは言ってた。未来は常に変化する予兆をはらんでいる、と」

 「……この先の俺たちについてもセイラは話していたのか? 」

 「母さんは、自分が死ぬところまでしか見えていなかったみたい。だから、この先のことは、誰にもわからない」

 「セナ、お前はどうするんだ? どうしたい? 」

 セナは短く黙ったあと、俺を見つめて言った。

 「……母さんは、私は産んだ頃にはすでにかなり年老いていた。だから、未来予知能力もかなり衰えていた。……だけど、自分が死ぬことや、私がどこかに捕らわれることに関してははっきりわかっていたみたい。

 それで、“いつかあなたをひとりの少年が助けに来る”と母さんは繰り返し話していた。今思うと、母さんは卵が盗まれることがわかっていてもそれを止められないほど弱っていたのだと思う」

 セナがなにを言おうとしているかわからず、俺は黙っていた。

 セナは言葉を探すように、途切れ途切れになりながら、話を続けた。

 「……それで、母さんは、私に良く“最後は自分で決めなさい”って言ってた。あなたを迎えに来る少年に協力するか、ひとりで好きに生きていくか。……人間は残忍で凶悪だから、必ずしも協力しなくて良い、って」

 「そうか……」

 俺は焼け野原になったリントン地区を振り返った。

 人間は残忍、か……。

 その通りだ。反論のしようもないほどそうとしか思えない。

 「龍は卵から孵り、人間として生き、60年掛けてゆっくり龍になっていく。それでも、私にも一応龍の力がすでに備わっている。レイゲンが望むなら、私は母さんと同じように龍の加護も慧眼も与えられる。……つまり、レイゲンに続ける気があるなら、私たちはまだ戦える」

 「……そうか」

 自分でも、どうしたら良いかわからなかった。


 「セナ。お前はどう思う」

 助言を求めてそう尋ねると、

 「私には未来は見えない。龍になりきれば見えるっていうけど……」

 と俺の目をはっきりと見据えて言った。

 「だけど、私は確信してる。レイゲンがこの世界をひとつにする――と」

 「この世界をひとつにか……」



 その夜、ヒルケスはフローゲンの街々に軍隊を派遣し、次々と街を蹂躙していった。

 そして約三ヶ月を掛けて、フローゲンの国民は僅かに逃げられた者を除いて、すべて皆殺しにされた。なかには激しい拷問を受けた者もいたという。ブルーヘルケスの軍隊に殺されたフローゲンの民の数は述べ五十四万人に及んだ。こうして、文字通りフローゲンの国はこの世界の地図から完全に消滅した。

 

 それから三ヶ月後、ヒルケスは教会に招集されて「勇者」の称号を得た。

 勇者。三十万以上の「敵」を殺害した者にだけ与えられるという称号――。

 これによってヒルケスは教会が数百年保管してきたアブラゼミの秘宝を受け取り、教会が推奨する「青教」をより一層世界に流布することを誓ったという。

 

 青教を国教とするブルーヘルケスでは連日パレードが続いたという。

 

 そして俺たちは、フローゲンの国を離れ、ブルーヘルケスと冷戦状態にあるタラガンの国へ向けて砂嵐激しい荒野を南進した。



 



ここまで書いてきたのですが、ここで一旦休止しようと思います。

「なろう的なもの」と「謎を解き明かしていく大きな物語」をミックスさせた小説を書いてみたかったのですが、どうも上手く合わせられなかったという反省があります。もう少し上手く読者を引っ張っていける話に出来たような……。

というわけで、ごく少数の読者に支えられて書いていたのですが、話を一旦終わりにします。

数少ない読者さん、ブクマしてくれた方、その数字が本当に支えでした。

本当にありがとうございますm(_ _)m


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