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異世界ドラゴン~この世界をひとつに~  作者: あんちおいでぃぷす
第二章 孤児院潜入編
33/34

私はティファニー





私はティファニー。


 私は生まれつき、可愛い。

 私は生まれつき、可愛い。



 私は自分が可愛いということを知っている。

 なぜならみんなが私を「欲しそう」に見つめるから。

 男の子の目がいつも私を「可愛い」と訴えているから。



 私はティファニー。

 母さんと父さんが好き。

 ふたりが愛し合っているのが好き。

 私もいつか誰かと愛し合いたい。

 母さんと父さんみたいに。



 私はティファニー。

 

 私は男の子を落とす方法を知っている。


 ちょっとだけ甘い声を出すのだ。


 ちょっとだけ、鼻に掛かったように声を出すのだ。


 私は私の声が可愛いことを知っている。

 だって、私は見た目も声も生まれつき可愛いから。



 私が男の子に向かって甘い声で話すと、母さんは怒る。

 「そんなことをしていると、いつか痛い目に合うわよ」と言う。

 だけど、私は気にしない。

 だって男の子は喜ぶし、

 そうするとみんな私のことを好きになってくれるから。


 

 私はティファニー。

 

 男の子を落とすのなんて、かんたん。

 すこし上目遣いに見て、すこし甘い声で話すだけだから。


 母さんはたびたび言った。「いつか痛い目に合いますよ。簡単に男の子を誘惑しちゃダメですよ」


 

 私はティファニー。

 私は甘い声を出す。



 ……だから、あの男に見つかったのだ。



 あの男は私を「可愛い」と言った。

 私はその男にも甘い声で話した。

 男は嬉しそうだった。私も嬉しかった。

 私の可愛さや、私の甘い声は、同い年の男の子だけでなく、

 大人にも通用するんだとわかった。

 それが嬉しかった。

 この世の中の男の子はみんな私のことを好きになれば良いのに、と思った。



 ……そして私は母さんの言う「痛い目」にあった。

 男は真夜中に私の家に入ってきた。

 私を見るとにたりと笑った。

 私の父親の首にナイフを当て、横に引き裂いた。

 同じことを母さんにもした。

 それが終わると男はもう一度私を見た。

 そしてにたりと笑った。


 

 ……私はティファニー。

 

 私は、――お父さんとお母さんが殺されたのは私のせいだ、と思った。


 私が「甘い声」を出していたから、こんなことが起こったのだ。

 母さんが言っていた「痛い目」は、このことだったのだ。



 男は私を誘拐した。

 私を売るためだ。

 可愛い見た目をした、可愛い声を出す女の子。

 その娘を誘拐するために、男はその娘の両親を殺害した。

 ……両親を目の前で殺された女の子の名前は、ティファニー。

 そう、私だ。



 私はティファニー。

 私はティファニー。

 両親を目の前で殺された女の子の名前もティファニー。

 そのティファニーは私。

 私はティファニー……。



 私は、巨大な袋に入れられて、どこかに連れさられた。

 

 私は袋のなかで泣いていた。


 全部私のせいだと後悔していた。


 私が甘い声を出したから、

 私が男の子を安易に誘惑したからこんなことになったのだ――と。



 私はティファニー。

 私は袋のなかで、二度と甘い声を出すのはやめにしようと決意していた。

 母さんの言うように、簡単に男の子を誘惑するのはやめにしようと思っていた。

 もっと早くそうすればこんなことにならなかったのに。



 

 私はティファニー。

 私は孤児院に連れてこられた。

 連れてきた男は、私の両親を殺害したあの男。


 その男が、私の身体を検査すると、

 「殺されたくなかったら、大人しくするんだよ」

 と笑った。

 ……私は怖かった。

 その男の笑みが怖かった。

 それで、私は「はあい」と言った。

 ……甘い声で。

 ……もう出さないと決めていた、鼻に掛かった声で。

 ……そうすれば、男は私を殺されないでくれると思ったのだ。

 男は嬉しそうににたりと笑い、私の頭を撫でた。

 私は必死に涙を抑えて、

 「私、がんばるぅ」と言った。

 甘い声で。 

 鼻に掛かった声で。

 ……男に可愛いと思ってもらうために。

 ……男に殺さないでもらうために……。



  

 私はティファニー。

 孤児院での暮らしは孤独だった。

 先にセナという不思議な子や、数人の子どもたちがいたけど、

 私たちは自分の境遇についてはなにも話せなかった。

 ……あんなにも辛かったのに。

 あんなにも苦しかったのに――。



 あるときレオンと名乗る男の子が孤児院にやってきた。

 なんだか妙な顔をした男の子だった。

 どことなく、連れてこられる前に城下町でパレードしていた男の子の姿に似ていた。

 ……だけど、ちょっとだけむかつく顔だった。

 


 レオンを名乗る男の子は、不思議な力で次々と問題を解決してくれた。

 私たちに掛けられていた魔術を解き、私たちに学問を教えてくれた。

 この世界の歴史と、外国の言葉と、魔術の使い方を教えてくれた。



 そして私に、「話し方が可愛い」と言ってくれた。

 


 ずっと後悔していた「この話し方」を。




 その男の子が「その話し方のままで良い」というから、

 私はこの話し方を続けた。

 ずっとしていた後悔が、すこしだけ晴れた。

 この男の子のためにずっとこの話し方をしようと思った。

 だって私は本当はこの話し方が今でも好きだし、

 この男の子が私のこの話し方を好きだと言ってくれるから。



 

 私はティファニー。


 私はもう目が見えない。



 薄っすらと見えているのは、

 あの男の子。


 レオン、いや、レイゲンだった。



 「レイゲンちゃん、遅いよぉ~ 」

 と私は言った。

 だって、私はティファニー。

 甘い声で、――鼻に掛かった声で話す女の子だから


 「もう私、死んじゃうよぉ~」


 ぼやけた視界のなかで、レイゲンちゃんがなにか言った。

 

 でも、なにを言ったかは、わからない。


 私はティファニー。


 甘い声で、――鼻に掛かった声でなにかを言おうとする。


 だけど、声がもう出ない。


 「レイゲンちゃん。最期に会えて、良かった~」


 その声が出ない。


 私はティファニー……。






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