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異世界ドラゴン~この世界をひとつに~  作者: あんちおいでぃぷす
第二章 孤児院潜入編
32/34

そしてさようなら




 城門で激しい衝撃音が聴こえた。

 足元が大きく揺れる。

 

 ……俺たちのいる中屋上へと続く階段を、すでに敵の歩兵隊が駆け上がり始めていた。

 そして両者の兵隊がぶつかり合う。


 すぐ目の前で、血なまぐさい戦闘が始まっていた。

 


 城の奥へと逃げていくパニックとなった群衆に紛れ、俺もセナと一緒に城の中屋上を走っていた。

 城内にいた人間が一挙に城の奥へと向かったから、辺りはひとで溢れていた。


 そして振り返ると、この群れの最後尾で、次々と悲鳴と血飛沫と――切り払われた手や首が宙に上がるのが見えた。

 それを見て群衆はさらに興奮し、半ば発狂状態となり、気狂い染みた絶叫を上げながらひとを押しのけて奥へ奥へと向かっていた。



 ……だが、騒ぎはそれほど長くは続かなかった。


 俺たちが王宮内に駆け込むと、そこにいたみんながぴたり、と静まったのだ。


 「……なにも、聴こえない……」

 誰かが呟いた。

 「……もう殺された、みんな」

 誰かが再び、そう呟く。

 俺と手を繋いだセナが言った。

 「兵隊はもうみんな死んだと思う」

 「数千人はいたぞ」

 と俺が言うと、

 「関係ない。あいつらは、フローゲンの民を皆殺しにする」



 そして、王宮の入り口を、さっき城門の外の橋のうえを歩いていた三人が静かに入ってきた。


 

 「誰だ、お前は……」

 玉座の前に立ったヒクシーが静かに言った。

 

 スキンヘッドの男が答える。

 「ヒルケスだ。……本物の龍の卵はどこだ? 」

 「……本物? ……とにかく、ここに龍の卵はない」

 「……言わないなら拷問するとしよう」

 「……信じないかもしれないが、私たちは卵の場所を知らない。盗まれたんだ」

 「……拷問すれば、真実は自ずとわかるだろう……」

 「やるしかないなら、戦おう……」

 そう言うと、ヒクシーとその周辺にいた兵士、大臣、乳母たちが、一斉に剣を抜いた。

 


 ――そして次の瞬間、

 ヒルケスの隣に立っていた長い白髪の女と、フードを被った何者かが、一斉に動いた。


 白髪の女は素早く――目に見えない速度で剣を横に振った。

 


 ……すると、その場にいた全員の首に異変が起こった。

 

 立っていた大人の首に細い切れ線が入り、

 その切れ線に従って、ゆっくりと頭部が横滑りしていった。

 首を切られた大人たちは身体を硬直させ、

 凝縮された時間のなかで静かに自分の死を理解していった。

 そこにいた80人ほどの大人たちが一斉に、

 「あ、あ」

 と呻いた。

 そしてゆっくりと、

 風に吹かれた木の実のように、

 ぽとぽとと首が落ちていった。



 ――もうひとり、白髪の女と同時に動いたフードを被った敵は、

 真っ直ぐに俺とセナの方に向かってきた。



 ……それは味わったことのないほどの素早い動きだった。

 そしてそのフードを被った敵は、

 見慣れない形の短剣を両手で握りしめると、

 真っ直ぐに俺の元へ駆けてきて、

 ――俺の胸元を突き刺した。


 

 ……そして、その勢いで玉座の後方へと俺――と俺と手を繋いでいたセナ――は吹き飛ばされ、長い垂れ幕の後ろへと転がり込んだ。



 (死ん――だ……? )


 と思ったそのとき、


 俺を吹き飛ばしたフードを被った敵が俺の上に跨ったまま、

 フードを外して言った。


 「……レイゲン。逃げるぞ」


 「……ヒスイ……! 」

 

 胸元に手をやると、そこに傷はなかった。


 「血糊(ちのり)だ。……だが、すぐにバレる。行くぞ。この先に出口がある」


 ヒスイは真っ青な顔で、垂れ幕の奥にあった細い通路の奥を指し示した。




 ……



 通路の先に、地下へと続く階段が隠してあった。

 ヒスイが蓋を外すと、長い梯子が掛かっているのが見えた。


 階段の蓋を中から閉めると、俺とセナ、ヒスイの三人で梯子を下っていった。


 「ヒスイ、なにが起こっているんだ? 」

 梯子を降りながら俺がそう尋ねる。

 「詳しいことは、私にもわからない。昨夜、突然ヒルケスがフローゲンに攻め入ると言い出したんだ」

 「なぜ“反響の世界”で応答してくれなかったんだ? 」

 「したかったさ……。だが、出来なかった……。さっきのあの女いただろう。あの女の前で“反響の世界(ワールド・オブ・エコー)”を使えば、微弱な魔術に反応されて、すべてが見つかりそうだった」

 「あの女、いったい誰なんだ……? 」

 ヒスイが軽く躊躇してから言った。

 「さっぱりわからないが、恐らく、刹那だ。一週間前に突然ヒルケスのもとに現れた」

 「刹那……? 瞬き派の、創設者の……? まだ生きているのか? 」

 「……たぶん、噂は本当だったんだ」

 「なんの噂だ……? 」

 「前も言っただろう。瞬き派の連中は紙一重の命のやり取りを求めている――と。瞬き派の創設者の刹那は、特にそれを体現したような女だったと言われている」

 「だから、どこかで、誰かに負けて、殺されたんじゃないのか……? 」

 「……違う。刹那に関する噂はこうだ」

 ヒスイが焦燥した声で言った。

 「刹那はまだ誰にも負けてはいない。死んでもいない。今もこの世界のどこかにいて、誰かと命のやり取りを続けている――と」

 そしてこう続けた。

 「あの噂は本当だったんだ。刹那はまだ生きていた。そしてどういう事情か知らないが、ヒルケスに手を貸しているらしい。……あんな強いオーラを纏った生き物、初めて見た……。私なんか比にならない強さだ……」

 「ヒスイでも、勝てないのか……? 」

 「……逃げることで精一杯だよ」

 ヒスイは力なくそう答えた。




 ……



 「なんだ……ここ……」

 梯子を降りきったところは、広い空間が拓けていた。

 神聖な空気が満ちていて、正方形の部屋の中心になにかものを置くような器があった。

 「ここで、龍の卵を、保護していた」

 突然、セナが喋った。

 「レイゲン、咄嗟の判断で、この娘も連れてきたが、いったいこの娘は誰なんだ……? 」

 「良くわからない」

 「良くわからない? お前の仲間じゃないのか? 」

 「仲間だ。そうには違いない。だが、この娘はなにかを隠している」

 「私はなにも隠してはいない」

 セナが言った。 

 「どういうことだ? 」

 ヒスイが問う。

 「もうすぐわかる。全部わかる。母さんはこの先の――もう少しの先の未来まで見通していた。私は助かる。“私たち”は助かる。でも、あなたはそうじゃない」

 「なんだ……? この娘はなにを言っている……? 」

 ヒスイが困惑した顔で俺を見た。

 俺は首を振った。

 「わからない。セナは、さっきからなにも答えてはくれない」



 セナが器の前に立って、俺たちに振り返った。


 「フローゲンはここで龍の卵を保護していた」


 俺たちは、なにかあっけに取られていた。セナが話すことに釘付けとなっていた。


 「あいつらは――卵を盗んだヒルケスの部下たちは――知らなかった。龍の卵は60年掛けて孵化し、――そして、孵化したとき、まずは人間の形を取って産まれる、ということを」

 セナが続ける。

 「約50年前、この場所で保管されていた龍の卵はヒルケスの部下によって盗み出された。そしてその卵は、この国の別の場所で孵化するのを待たれていた。敵の手に渡ったまま――」

 

 「セナ、お前はいったい……」

 セナは俺の問いに答えずに、続けた。


 「やがて龍の卵が孵化を迎えた。だが、龍の卵を盗んだヒルケスの部下たちは、卵から孵った生き物を見て困惑することになる。

 なぜなら、その卵から現れたのは、彼らの期待する龍の子どもではなく、

 明らかに人間の子どもだったから――」



 「私は母さんからこの話を聞いた。まだ生まれる前に。そしてこの先の――もう少し先の未来のことまで母さんは話してくれた」


「卵を盗んだヒルケスの部下たちは、慌てて、狼狽し、自分たちが誤った卵を盗んだと誤解した。この卵は龍の卵ではなかったのだと考えた。

だが、そのことをヒルケスに報告するわけには行かなかった。すでに龍の卵を手に入れたとは報告してあるのだ。卵は自分たちの手元で管理し、孵化するときを待っている――と。

 彼らはヒルケスにそうごまかしを続ける一方、卵から生まれた人間の子どもを、ある場所で保護し続けた。

 彼らはその子どもの取り扱いに困っていた。

 果たしてその子どもは龍とは無関係なのか。あるいはなにか関係があるのか……。

 彼らはその子どもを経過観察する特別な施設を必要としていた。

 出られないよう障壁で取り囲み、具体的なことは話せないよう特別に魔術を掛けた状態で……」


 「そうして、彼らはある孤児院を作った」




 ……そのとき、頭上で激しい物音がした。




 ドガァン……!


 「行くぞ……入り口が壊されたようだ」

 ヒスイが頷いた。

 俺たちは部屋の出口に向かって走り始めた。



 セナを見ると、セナは再び虚ろな表情に戻っていた。

 さっきまでの饒舌さが嘘のように――。



 「ヒスイ、なぜお前はこの場所を知っているんだ? 」

 走りながらヒスイに尋ねた。

 「……私が暗殺者としてこの国に侵入したとき、私は城中をくまなく調べた。この場所を知ったのはそのときだ」

 「そんなことをしていたのか……」

 「いざというとき逃げられる道を探しておくのは暗殺者の鉄則だからな。……だが、さっきこの娘がいったような話は知らなかった。龍の卵か。この国にそんな秘密があったとはな……」 

 長い通路を走りながら、ヒスイが続けた。

 「この先は外に続いている。そして城の裏側に出られる。そこは海と繋がっている」

 「俺たちは、逃げられるのか……? 」

 「前にここに来た時に、私は小舟を隠しておいた。そこまで行ければ、逃げられるだろう」

 「そうか……」



 唐突に、家族が死んだことが悲しくなった。

 「みんな死んでしまった……。みんな、みんなだ……」

 「……」

 「誰も助けられなかった。ヒクシーも、ムルナウ伯爵も死んでしまった……」

 「……」

 「誰も……! 誰も……! 」

 涙がぼろぼろと溢れてくる。哀しみが抑えられない。

 「……私のいた地獄はこんなものじゃなかった」

 ヒスイが、ぽつりと言った。

 「なんだって……? 」

 その言葉に、深い怒りが湧く。

 「いや……、すまない。言葉を誤った」

 そしてヒスイが続けた。

 「レイゲン。まだ終わりじゃないんだ、とだけ伝えておく。生きている限り、終わりじゃない。生きることを諦めるな。……私から言えるのは、それだけだ……」

 励ましてくれているのか……。

 「そう、だな……」

 俺は涙を拭い、出口に向かって走り続けた。



 ……



 やがて通路の先に光が見えてきた。

 「出口だ。助かるぞ」

 ヒスイがそう呟く。

 三人とも疲れ切っていた。

 ……仕方のないことだ。

 あまりにもいろんなことが起こったのだ……。


 通路を抜け切ると、俺たちは外に出た。

 そこは屋根だけがある通路となっていた。

 近くに水の気配がある。どうやら海が近いらしい。

 「この先に海に続く階段がある。そこまで走ろう」

 ヒスイが呟いた。


 

 ――レイゲン……――


 ……と、そのとき、突然頭のなかに声がした。


 ――セイラ……? 生きていたんですか……? ――



 ――もう、生きているとは、言えない、かな……もうすぐ、死ぬ、よ……――


 セイラは続けた。



 ――レイゲン、今から、最後の力を使って、あなたを別の場所に転移するよ――


 ――転移? なにを言っているんですか。俺たちは小舟に乗って、ここから脱出するんです――


 ――あなたは小舟には乗らないよ。そっちの未来は、あなたには良くない――


 ――そっちの未来? セイラ、あなたには未来が見えるのですか? ――


 ――見えるのは、もう少し先まで……。選択肢はたくさんある。レイゲン、君はいつも最善の選択肢を選んできた。だから今、この場所で、まだ生きている――


 ――セイラ、あなたにはなにが見えているんですか……――


 ――レイゲン、セナの手に掴まって。セナと一緒に、遠くに転移するから――


 ――セイラ、話を聞いてくれ。小舟はもうすぐそこなんだ――


 ――5,4……――


 (なぜ、話を聞いてくれない……? )

 俺の話を聞かずに、セイラがカウントダウンを開始した。

 俺はその位置から城の頂上を見上げた。

 (セイラ、もう、目が見えないのか……? )

 セイラは城の頂上でぐったりとひれ伏し、その長い首を城壁の外にだらりとぶら下げていた。

 その脳天には槍が突き刺さり、そこからどす黒い血が垂れ続けていた。


 「レイゲン。私と手を繋いで。もう時間がない……! 」

 すぐ横で、セナが叫ぶ。

 「セナ……今のが聞こえていたのか? 転移って、どこに行くんだ……? 」

 「マズイぞ」

 ヒスイが呟いた。



 「刹那だ。こっちに来る」



 ――3、2……――


……今もセイラのカウントダウンが続いている。


 ――……レイゲン、私は終わりから二番目の龍。終わりの龍をよろしくお願いね。老いた私は、障壁のなかに隠された自分の子どもを探し出せなかった……。だけど、あなたが、私の最も望んだ未来通りに、娘を見つけ出してくれた……。あとは、お願いね……。終わりから一番目の龍、最後の龍、私の娘を……――



 そのとき、セナがぎゅっと、俺の手を握りしめた。

 (終わりの龍……? )

セナが俺を見上げ、ゆっくりと頷いた。

「そうか……竜の卵から生まれた子どもは、セナのことだったのか……)

 俺はセナの身体にあった鱗を思い出していた――。

 (あれは、龍の鱗だったのか……)



 振り返ると、俺たちの歩く道の遥か後方に、背中の剣に手を掛けた刹那の姿が見えた。


 「見つけた」

 刹那の口がそう動くのが見えた。

 「ヒスイ……! 」

俺はそう呟いた。

「俺と手を繋いでくれ。龍が――セイラが俺たちをどこかに転移させてくれるらしい……! 」

 呆然としているヒスイに俺は手を伸ばした――。





 ……その瞬間は、まるで三枚の写真のようだった。


 一枚目は、遥か遠くで、刹那が軽く身を屈めた姿だった。

 それはあまりにも遠く、あまりにも小さな人影だった。

 その姿を見ても、とても俺たちを攻撃しようとしているとは思えないほどに――。



 二枚目。

 さっきまで遥か遠くにいたはずの人影が、もうすぐ目の前まで迫っていた。

 その人物は髪の長い白髪の女だった。

 そして長い刀を両手で持ち、空中で、まさに俺たちに向けて刀を振り下ろそうとしていた――。



 二枚目と三枚目の間。

 誰かが俺の身体を押した。

 ドンッ……。



 三枚目の写真は、

 真っ赤な花の写真だった。

 赤い赤い、綺麗な花。

 その花は俺たちのすぐ目の前に咲き、そして一瞬にして散り始めていた。

 花の表面は艷やかに光っていた。

 そして花は鮮やかに広がり続けていた。


 その赤い花を咲かせたのはヒスイだった。

 刀を振り下ろした刹那と、俺たちのあいだに立ち、両手を広げたヒスイ――。

 

 だから、赤く咲いた花はヒスイの血だった。

 だから、その花は、ヒスイの背中に隠れて俺からはあまり見えなかった。

 

 「転移する……ヒスイ、俺と、手を繋いでくれ――」


 首元から脇腹に掛けて刹那に切り裂かれたヒスイに必死に手を伸ばす。

 ……だが、ほんの僅かな距離で、その手が届かない。


 「ありがとう、


 ヒスイが軽くこっちに振り返って、笑って言った。

 

 そしてさようなら」




 ――レイゲン、君を転移するよ――



――イチ……――



――……ゼロ――



 


 

 







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