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異世界ドラゴン~この世界をひとつに~  作者: あんちおいでぃぷす
第二章 孤児院潜入編
29/34

作戦の終わり




 その晩は事件の収束で忙しかった。

 あれから俺はムルナウ伯爵のもとに戻り、悪人たちを拘束した。

 これからセバスチャンを王城に連れていき、簡単な裁判に掛けるという。

 そこには俺も立ち会うつもりだ。

 ムルナウ伯爵は、

 「それじゃあ王城で」

 と言って忙しそうに去っていった。

 ガーディリオンは俺の背中を叩くと、

 「私も先に王城に戻ります。そこで少し、話をさせて下さい」

 と言った。

 「わかりました。なるべく早く戻ります」

 と俺は答えた。

 ガーディリオンは弟を見るような目で静かに頷いた。




 ……


 それから、俺は再び孤児院に戻った。

 すでに女は拘束してある。

 来てくれたムルナウ伯爵の部下に引き渡し、

 こいつも裁判に掛けられるという。

 残りの男ふたりだが、ひとりは最後に無様に俺たちに攻撃してきた。

 そこを現行犯ということで、やはり逮捕された。

 最後にルッソだが、この男をどうするかで俺は悩んだ。

 ルッソはなにも抵抗しなかったのだ。


 「ルッソ、お前はどうしたい? 」

 悪に加担したに違いないが、この男は悪人とも言い切れなかった。

 俺の裁量(さいりょう)で見逃してやっても良かった。

 「ど、どうしたいっていうのは、どういうことです……? 」

 「お前は取引の日を教えてくれた。完全な悪人でもなさそうだ。見逃してやっても良いよ」

 「あ、兄貴……」

 い、いや、兄貴になったつもりはないんだが……。

 「だけど、ど、どうするかな……オイラには行く先なんてないし……」

 「家族や親戚はいないのか? あるいは故郷とか」

 「オイラは戦争孤児でね。家族も親戚も、仲間もいねぇや」

 そう言うと、ルッソは哀しいほど明るく笑った。

 そうか。

 お前も元孤児だったのか……。

 だからと言って許される行いではないが、俺はやはり、この男を責めきれない……。

 甘いのかもしれないが……。

 

 「ルッソ。俺のもとに来るか? 仕事なら山程ある」

 「えっっ!? 」

 とルッソは絶句する。

 「ただし子どもに手を出すのはナシだ。改心するなら今だぞ。お前にはまだ善良に生きる道が残されている」

 「オイラが子どもに手を出すのを、やめる……? 」



 え、

 そこ……!?



 「兄貴はひまわりから太陽を奪うつもりですか…‥? 」

 な、なんだろう、

 この詩的なゲス発言は……!!

 子どもは太陽かも知れないが、お前はひまわりではないだろう……!

 

 「だけど、へへ……、“善良に生きる道はまだ残されている”か……。その言葉、響きやしたぜ。兄貴――」

 ルッソは手を差し出してきた。

 「見た目だけ幼女みたいな合法ロリババア、紹介してくだせぇ! 」

 「あ、ああ……」

 ――と、話の流れに持っていかれて思わず握手する。

 ご、合法ロリババアをしょ、紹介してくれ……?

 あまり言葉をきちんと検討せずに握手してしまった……。

 「今日から改心しやすぜ! 捕まらないロリにね! 」

 

 な、なんだろう……。

こいつと話していると、どっと疲れる……!



 ……



 孤児院の障壁を解いてやると、

 子どもたちが一斉にそとに駆け出た。

 なかには3年ぶりに施設の壁のそとに出た子どももいた。

 そのころにはすでに夜が明けかけていて、

 薄っすらとした蒼白いものが空に広がっていた。


 子どもたちは大はしゃぎだった。

 本物の「自由」をこれでもか、と謳歌(おうか)している。


 彼らはいろんなところを歩き回りたがった。

 リントン地区の公園、平凡な通り、単なる茂み、――ありとあらゆる取るに足らないところを。

 そう、彼らにとってはこのごく普通の景色が、素晴らしく自由な草原なのだ。


 時間はあまりなかったが、彼らの楽しい姿を見ていると、

 それを邪魔する気にはとてもなれなかった。


 そのとき、ふとあることに気づいた。

 「ちょうど今頃の時間だな……」

 と俺は呟く。

 「なにが~? 」

 ティファニーが俺の顔を横から見つめる。

 「ふふ~、内緒だ」

 俺はみんなに呼びかけた。

 「海辺に向かって、ダッシュだ! 」



 ……そう、この時間はちょうど、フィルスたちが漁に出る時間なのだ。

 そして子どもたちと港に着くと、まさにフィルスたちが船に乗り込むところだった。

 その数、約70隻。

 俺はフィルスに子どもたちの話を説明した。

 フィルスはすぐに事情を理解してくれた。

フィルスが子どもたち全員に向かってこう叫んだ。

 「おい、小僧ども! 船に乗ってみたいか? 」

 子どもたちはその大声にびっくりし、一瞬、萎縮(いしゅく)する。

 それから、その顔を最高の笑顔に弾けさすと、

 「の、乗りたい、乗らせておじさん! 」

 と次々と雄叫びが起こった。


 「フィルス、今日の分の給料はちゃんと払うから、子どもたちが満足するまで、船に乗せてやってくれないか」

 「馬鹿言っちゃいけねえ。恩人の頼みに金なんか受け取れるか」

 そう言うと、フィルスは辺りにいた漁師みんなにこう語りかけた。


 「おぉい、みんな! この子たちはレオンさんが救った孤児院の子どもたちだ! 

 この子たちはまだ船に乗ったことがねぇらしい!

 一度もだ!

 ――ってことはだ、お前ら!

 “この子たちはまだ海を知らねぇ”ってことだ! 」


 そして息を吸うと、

 

 「この子たちに海を教えてやりてぇって粋な漁師は、てめぇの船に子どもを乗せていってくれ! ……今日は漁なんかやめだ! 全員で、海に遊びに行くぞ! 」


 すると、漁師たちが突然腕を挙げて雄叫びをあげた。


ウォォォォオォォオ!


その声が港中に響く。


漁師たちは次々と子どもを抱きかかえ船に乗せていった。

 子どもたちはまるで誘拐される子どものようにきゃぁきゃぁ言いながら船に乗せられていった。


 それは楽しげな誘拐だった。

 子どもたちが味わった、残忍な、血に濡れた誘拐ではなく……。


 船が一斉に出ていくとき、フィルスが振り返ってにやりとし、俺に親指を立てた。


 俺も同じようににやりとし、親指を立てた。


 船は子どもたちを乗せて、真っ赤な朝焼けへと出て行った。

 


 ……


この日、珍しく港では一匹の魚も獲れなかったという。

一日の漁獲量が少なかったのではない。

一切どんなも魚も獲れなかったのだ。

 そのため、リントン地区のレストランや魚屋の主人はその日の食事作りに苦労した。

 なかには港まで文句を言いに行った主人もいたという。

 だが、そんな彼らが港で見たものは、

 一匹も魚が獲れない異常事態にも関わらず、

 嬉しそうに笑い合うたくさんの漁師たちの姿と、

 その回りを駆け回る少数の子どもたちの笑みだったという――。


 


 ……


 

 「お前らは乗らなくて良いの? 」

 港に残った俺が言った。

 セナと、ジルと、ティファニーが頷く。

 「俺は乗ったことあるしね」とジル。

 「わたしは~船、苦手~」

 「わたしは、濡れるの、いや」とセナ。

 そうか。

 そういう子もいるか。


 「じゃあ、俺は一回城に行くよ」

 「一回って、……レオン、戻ってくるの~? 」

 不安そうに、ティファニーが言う。

 そうか。

 まだ身分を明かしてなかったな。

 

 ――というわけで、やっと指輪を外した。



 「「!!!!!!!!」」



 「ちょ、ちょま、え……? 」とジル。

 ティファニーは両手で顔を隠し、完全に絶句している。

 「というわけで、俺はこの国の王子なんだ。身を隠して孤児院に潜入していたんだよ。任務も終わったから、城に戻ることにする」

 「お、お、王子って、おま、れ、レオン……」とジル。

 「そうそう。名前も本当はレオンじゃなくて、レイゲンなんだ」と俺。

 「あのときに見た、男の子……」とティファニーが呟く。


 「ずっと隠していて悪かったな。悪人にバレると潜入にならないからさ」

 三人はあっけに取られてまだ黙っている。

 「……お前たちはこのあと、孤児院に戻ってくれ。しばらくは面倒を見てもらうよう伯爵の部下に頼んである。もちろん、障壁はもうないから自由にしてもらって良い。

 それで、いろんなことが済んだら、お前たちを城に出迎えるよ」


 「し、城に、出迎える……? お、俺たちを……? 」

 やっと、ジルがそう言った。


 「そうだ」

 「だ、だけど、俺たち、孤児の平民だぞ……? 」

 「それがどうした? ジル、お前は俺が見たなかで最も有能な人間のひとりだよ。お前が断っても、無理矢理にでも連れていくつもりだ」

 「そ、そうか……? 」

 まんざらでもなさそうに、ジルが頷く。


 「それに、お前らにはいずれ俺の“私兵”になってもらうつもりだ」

 「し、私兵……」

 「そうだ」と俺が頷く。

 「も、もしかして、俺たち、いつか貴族になれるのか……? 」

 「ん~」と俺は唸る。 

 「そ、そんなわけないか……」とジルが笑う。

 「そうじゃなくて……、俺はいずれ、貴族と平民の区別をなくすつもりだ」

 「貴族と、平民の区別を、なくす……? 」

 「そうだ。少なくともフローゲンに関してはな」

 「そ、そんなこと、出来るのか……? 」

 「難しいだろうな」

 きっぱりと、俺は言う。

 「え」

 と絶句するジル。

 「だけど、不可能じゃない。少なくとも俺は可能だと思っている。それには平民出身の有能な人材がたくさん必要なんだ。ジル、お前みたいにな」

 俺がそう言うと、

 ジルはぱっと顔を輝かせて笑った。


 俺は続けて言った。

 「ジル、俺はお前のことを友人だと思っている。

 お前はどうなんだよ?

 俺のことを友人だと思うなら、俺の仕事を手伝ってくれ」


 俺がそう言って手を差し出すと、

 照れくさそうにジルが笑って言った。


 「――お前のことを友人と思ってるかって? 

 そんなの、お前がティファニーを助けてくれたあのときから、

 とっくに思っているさ」

 

 ジルの手が伸びてきて、俺の手を握った。

 その手は、子どものとは思えないほど、

 力強かった――。



 ずい、とティファニーが一歩前に進む。

 「レオンちゃん、……いや、レイゲンちゃん」

 「な、なに……? 」

 「ってことは、わたしがあの話したとき~、全部~わかっていたってことぉ~? 」

 あの話……。

 ああ、あれか……。

 パレードで王子様を見たとかいうやつ……。

 そんで、恋したってやつ……。

 「全部~わかってぇ~わたしの話聞いてたの~? 」

 ティファニーはぷう~と頬を膨らませた。

 そりゃあ怒るか。

 当然だよな――と思ったそのとき、

 ティファニーが顔を近づけてきて、俺の目を見つめて言った。

 「バカ」。


 ……それから、俺の耳元でこう囁いた。


 「……(だま)した責任取ってね、私の王子様」


 

 そして、柔らかいピンクの髪のなかでくにゃっと笑った。

 頬の皮膚も薄いピンク色に染まっていた。

 

 

 ちら、

 とティファニーの唇を見る。

 ぽてっとしたちいさなピンク色の唇。

 ぷるっとしていて熟れた美味しい果実みたいな唇。

 その唇が微かに開いていて、中から魅惑的な色の舌が見えていた。


 


 あ、あぶねぇ……!

 今普通にキスしそうになった……!


 

 「ちゅう、したい?」

 俺の視線に気づいたティファニーがころっ、と首を傾げる。


(……!??)


危うく、「うん……」と言いそうになる。


 おおおおおい、

 ダメだろう俺……!


 ひ、ヒスイに殺される……!


 

 「お、大人になったら、ちゃ、ちゃんと考えよう……! 」

 慌てて、必死にそう言った。

 ティファニーは、「残念」と言って一歩下がった。「レイゲンちゃんがしたいなら、いつしても良いからね」

 そう言ってテイファニーは、あの可愛い唇を指でとん、とんと叩いた。

 

 ……こんな娘を近くに置いておいて、理性が保てるのだろうか……!



 「のろけているところ、悪いのだけれど……」

 と、突然セナが言った。

 「ど、どうした……? 」

 「お城にはわたしもついていく」

 え?

 なぜだろう?

 「……大切なことだから」

 とセナは念を押す。

 ……そうか。 

 まだここには“セナの謎”が残っていた。

 なぜセナが孤児院にいて、なぜ売られることもなくずっとあそこにいられたのか……。

 セナはあの確信に満ちた力強い目で俺を見据えている。

 ……結局、少なくともセナは敵ではなかったな……。

 じゃあ、どういう存在なんだ……?

 

 「これで終わりか~」 

 俺が考えに耽っていると、ジルがそう背伸びをした。

 「なんか~、寂しいね~」

 とティファニーも言う。

 

 俺たちは三人でぼんやりと夕焼けの海を見ていた。

 ……不思議なことだが、

 どことなく寂しい気持ちがした。

 孤児院での暮らしなど、幸せなはずがないのだ。

 だが、あの生活のなかにもほのかな楽しいものがあった。

 同世代の子どもたちだけで生活を組み立てること。

 未来は不安だらけで、頼れるひとは誰もいないこと。

 ――それでも、大好きな仲間に囲まれているあの暮らしには、

 ずっと続く修学旅行みたいなわくわくがどことなくあった。

 そして、それは今終わるのだ……。

 

 「大丈夫だよ」

 と俺が言った。

 「必ずまたみんなを城に呼び寄せて、一緒に暮らせるようにするから」

 ――だが、俺がそう言っても、

 ジルたちはそこまで嬉しそうにしなかった。

 (……? )

 ……そうか。

 この子たちはもう、未来に期待することをしない癖が付いているのだ。

 俺に甘いことを言われても、そんな未来は来ないのだと自分に言い聞かせているのだ。

 だから、こんなにも寂しい顔をするのだ。

 そしてこの子たちには、もう帰る場所も家族もいないのだ。


 ……こんな子どもたちが、国中にあとどれくらいいるのだろう。

 このころから、

 俺はフローゲン国内にある孤児院の子どもたちを使った、

 「軍隊」の組織化を考え始めていた。

 ジルやティファニーを教師にした、

 孤児院出身の子どもたちだけで作る軍隊だ。

 

 「待っててくれよ。すぐだから、ほんとうに、すぐだから……」


 俺がそう言うと、


 「うん……」


 とジルとティファニーが力なくそう頷いた。



 


 

 

 



 

 


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