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異世界ドラゴン~この世界をひとつに~  作者: あんちおいでぃぷす
第二章 孤児院潜入編
28/34

孤児院の戦い




 


 ――ジル、聞こえるか、応答しろ――


 ――……レオン、ああ、聞こえてる――


 ――まずいことが起こった。今急いでそっちに向かっている。恐らく、敵が取引失敗の報せを仲間に伝えた。

 施設内でも、大人たちがどんな行動を取るかわからない。注意しろ――

 

 ――知ってる――


 とジルが呟く。


 ――知ってる……!? どういうことだ? ――


 ――今、孤児院長がナイフを持って階段を降りてきた。俺たちを、殺すつもりだ……! ――


 ――ジル、俺が行くまで耐えろ! いいか、勝とうなどとは考えるなよ……――


 だが、ジルからの応答はもうなかった。


 クソッ! 

 完全に油断していた……!


 孤児院までの距離はどんなに急いでも15分は掛かる。

 クソッ!

 間に合うか……?



 ……



 「ごめんね~」

 孤児院長が不気味に笑いながら言った。

 「急いであんたたちを始末しなくちゃいけなくなっちゃった~。証拠を残すわけにいかないからね~」


 ジルが“反響の世界”でティファニーとセナに呼びかける。



 ――いいか、俺たちだけで倒すぞ。多分、この女は俺たちより格上だ。……慎重に掛かれ――


 ――わかった――


 セナとティファニーが同時に頷く。



 ……



 

 孤児院のリビングで、ジルはセナとティファニーに後ろに下がらせた。

 それよりさらに後ろには、孤児院の子どもたちが固まって(うずくま)っている。

 ルッソともうひとりの男は、戦いに参加する気はないらしく、慌ただしく身の回りのものを集めている。……この施設から逃げだすつもりなのだ。


 「ひとまず、様子見だな……」

 ジルはそう呟くと、予め隠していた剣を手に持った。


 「おや~? 戦う気かい? まったく、無謀だねえ~」

 と孤児院長がにたりと笑う。


 ――その瞬間、一瞬でジルは間合いを詰め、孤児院長に剣を振り下ろした


 キィイィィンッ!


 「っと!! ――なかなかやるねぇ。……どこかで修行したことがあるのかな……? 」

 再び、孤児院長がにたり、と笑う。

 「だが、その程度の腕じゃあ私には勝てないねえ……」


 ヒュバッッ!!


 ――と、孤児院長の剣筋はかなり速かった。

 ジルはかろうじてそれを交わすが、腹のあたりから細かく血が吹き出す。……わずかに掠ったのだ。


 「へへ、交わしたか、だが、次は命をもらうぜ……」と孤児院長。

 もはや最初の面影などどこにもない。



 ……そこから、孤児院長の素早いラッシュ攻撃が続いた。

 この女はナイフの特性を熟知していた。そう、ナイフを使うメリットは剣よりも早く攻撃出来ることなのだ。

 ジルは必死にその猛撃を交わすが、……徐々に追い込まれていく。

 致命的な一撃は食らってはいないものの、身体中に次々と切り傷が増えていく。



 「ジル、血だらけ……! 」

 思わず、ティファニーが悲鳴を上げた。


 「くっ! 」

 ジルが苦しそうに、そう歯を食いしばる。そして一歩後退する。

 ジルの腕から黒黒とした血が流れる。

 肩から肘に掛けて長い切り傷が(あら)わになり、中からあかあかとした生肉が見えていた。

 ジルが下がったのに合わせてセナが前線に出て、女の相手をする。

 ……だが、ナイフ使いとセナの相性は悪い。

 相手の素早い手数に槍では応戦し切れないのだ。

 「つ、強い……! 」

 思わず、セナがそう零す。

 ……そして横腹を切られる。

 「グッ、カハッ……! 」

 セナの腹の肉の一部がざっくりと切り取られた。

 

 一方、ジルは後ろに下がってティファニーの快復を受けていた。

 だが、明らかに攻めあぐねている。

 隙きがあれば一気に間合いを詰めようと機会をうかがっているが、

 相手に油断は見当たらない。

 (まずいな。想像以上に強い……)

 ジルは内心でそう思う。


 やりようもなく、ジルは前に出た。

 とにかく戦いながら弱点を探るしか無かった。

 素早く、――今までのどの瞬間よりも素早く動く……、そう決意して、剣を振り下ろす。

 


 キィィィンッ!


 

 ……だが、振り下ろした剣をあっけなく弾かれる。

 そして弄ぶように、腹に蹴りを入れられる。 

 女は「ケタケタ」と笑った。……明らかに戦いを愉しんでいた。――いや、戦いを、というより、「殺し」を。


 女は腕をだらりと降ろし、

 ナイフを握ったその手をぶらぶらと振った。

 余裕の表れだろう。

 いつでも殺せるぞ、というわけだ。


 「くっ……」


 攻め入る隙きが見つからず、ジルとセナが硬直する。

 孤児院全体に嫌なムードが漂う。

 それは「パーティー全滅の予感」だった。

 「自分たちはここで死ぬのかもしれない」という確信に似た絶望が、どす黒い煙となって部屋全体に匂い立っていた。

  

ジルがセナに意識を送った。


 ――セナ、“あれ”をやるぞ。それしかない……! ――

 

 ――わかった……――

 

 セナが頷き、そう応答する。



 ザッッ!



 ジルは女から一気に後退し、壁を背にした。


 「おっとぉ~、逃げるつもりかぁい? 」

 女が言う。だが、

 「なんだぁ? なんのつもりだぁ~? 」

 ジルが突然地面に仰向けに寝転び、足を上向きに突き上げる。

 そう、ダンジョン攻略で見せたあの技を見せるつもりなのだ――。


 「来い、セナッ! 」

 

 すると、セナがそこに飛び降り、

ジルの脚を射出台にして、あの技を放った――。



 「“龍殺しの一撃(ジャンプ)”――! 」




 

 ドシュゥゥゥゥッ!!!!




 ……ところが、


 

 ガキィィィインッ!!


 「ふぅ~危ないところだったぜ……」

「こんな技を隠して持っていたとはな……」

 女がそう呟く。

 女の唱えた“一級障壁魔術(ガーディ)”から顔を覗かせながら……。


 「おらぁ! 」

 女は拳でセナの頬を殴りつけた。

 あっけなく、セナが壁に叩きつけられる。

 「おらぁ! おらぁ! 」

 女はセナを何度もナイフで突き刺す。――肩を、肘を、耳を……。

 そのたびに血の飛沫(しぶき)がセナから噴き出し、

 「いっ、ぅ……! 」

 という悲鳴ともつかない嗚咽(おえつ)が口から漏れる。

 ……そしてまさに女がセナの命を奪い取ろうとナイフを振り上げたそのとき、

 

 ジババァッッ!


 ……女の背中にジルの放った雷の魔導が当たる。


 「ぐっ!!! 」


 一瞬の沈黙……。


 「気に食わねぇガキだぜ~。まずはお前から殺してやる……」


 女は振り返ると、興奮しているのか、鼻息荒くジルに一歩を進めた。


 ジルは精根尽き果てていた。顔中が汗に濡れ、疲れ果てた身体はぐったりとしていた。

 そのとき、ティファニーが突然女に飛びかかった。

 ‥…だが、あっけなく蹴り飛ばされ、セナのいる方角へと吹き飛ばされる。

 「キャッぁ……! 」

 そして、たった一発で気絶した……。



 女は再びジルの方を向いた。

 空気がぴんと張り詰める。

 ジルたち以外の子どもたちは部屋の隅に固まって恐怖に震えている。

 死――。

 それが今まさに、目の前の女の形を取って自分たちの前に表れたのだ。

 “本当に死ぬのだ”という恐怖で、子どもたちが「ひっ……ひっ……! 」と静かに泣き始めた。

 その恐れが伝わったのか、ジルが壁に沿って、じり、と身を動かす。


 「おっと~逃げられねぇぜ……」


 それを女がゆっくりと追いかける。

 まるで獲物をなぶり殺すのを愉しむように……。

 ジルは壁沿いに身を這わし続け、少しずつ台所の近くにまで近づいていた。

 そして、こう呟いた。



 「クソッ……終わりか……。手は尽きたぜ……」


 女がにたりと笑う。

 そしてジルの足元に立った。


 「へへ……、どこから抉ってやろうか……」


 すると、

ジルがにたりと笑った。


 「ほんとにほんとに手は尽きたぜ」

「“俺の手”はな……」

 

 女が黙る。


 「“俺の手”……? なんのつもりだ~? まったく負け惜しみを言いやが――」



 ……と、まさにそのときだった。

突然巨大な火の玉が女の背中を襲った。



ボシュゥゥゥ!!!



 女はその火の玉にぶち当たり、のけぞり、


 「グ、グハッ……!? 」

 と嗚咽を漏らす。

だが、この攻撃に女は完全に無防備だった。

ジルを攻撃しようとしていた、まさにその背中を撃たれたのだ。

 「ググググッ、」

 と女はしばらく耐えていたが、やがて……、


 「グググ、グギャァァァァッッ!!! 」


 と火の玉に追いやられてその火のなかで、“()ぜ”た。


 

 ボワシュゥゥゥゥウウ!!!!


 

 膨らんだ火に包まれながら、女が叫ぶ……!


 「あ、あちぃぃ、あちっぃっぃい!!! い、いったい誰が……、ここにはもう戦闘要員はいない、はず……!? 」


 ――と、女が必死に振り返ったそこには、

 両手を構え、全員の魔導を集めてひとつの“フレイャ”を撃った、

 8人の子どもたちがいた――。


 


 「確かに尽きたよ、“俺の手”はね……」

 

 満身創痍で、ジルがそう呟く。


 「だが、“子どもたちの手”は残っていた。……まんまと掛かってくれて助かったよ」

 「あんたの敗因は、怯える子どもを敵と見做さなかったことだ――」



 「ば、馬鹿な……始めからそれを狙って、この場所に誘導していた、のか……? 」


 



 ……そしてまさにその瞬間、

 俺が孤児院に到着した。

 玄関のドアを開くと、真横にセナとティファニーの身体が横たわっていた。 

 (気絶している……! ジルは……!? )

 そして玄関の真正面の壁際を見ると、

 ジルが孤児院長に追い詰められていた。

 孤児院長はナイフを振り上げていた。

 (クソッ、間に合わなかった――か? )

 だが、孤児院長の女は炎に包まれ、真っ黒な体となり、

 ゆっくりと、静かに、後ろ向きにぐらりとした――。

 

 孤児院長の身体が倒れ掛かるのに合わせて、

 そこに壁に背を預けた疲れ果てたジルの身体が現れた。

 そしてぐったりと疲れ果てた声で、ジルが言った。


 「レオン、約束は守れなかった」



 「なにせ、自分たちだけで倒しちまったからな――」


 

 そう言うと、ジルはにやりと笑った。


 

 ホッとした俺は、思わず笑みを浮かべる。



 「ジル、お前はまったく――」




 「呆れるほど優秀な子どもだよ」


 

 

 そして黒焦げとなった女の身体が、

 

 ゆっくりと床にひれ伏した。



 ズシィィィィン……!


 

 







 


 



 


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