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異世界ドラゴン~この世界をひとつに~  作者: あんちおいでぃぷす
第二章 孤児院潜入編
23/34

背中の鱗





 ダンジョンの地下五階に降りた。

ここはセナにとっては戦いづらい場所になるだろう。

 この地下五階は“天井が低い”のだ。

 つまり、“龍殺しの一撃(ジャンプ)”を使うことが出来ない。

 ひとつ目オークは結構硬い。

簡単にはダメージが通らない。

そこそこの火力のある一撃で一気に倒す必要がある。

 そういう敵に対処するためのセナの“龍殺しの一撃(ジャンプ)”なわけだが、

 それが使えないとなると、三人はまあまあ手こずるだろう。


 

 ……


 さて、三人が五階に降り立つと、早速ひとつ目オークたちが三人に気がついた。

 ゆらりと、二匹いっぺんにジルに近づいてくる。


 これをどう捌くか……?

 格上の相手に対しどう対処するか、まさにジルの「戦いのIQ」の高さが試される。


 ――というわけで……、戦闘開始(ファイッ)っ!


 

 ……


 ――ティファニー、試しに“標的の誘導(チャーム)”を掛けてみてくれ――

 早速、ジルが指令を出す。


 ――いいよ~。あんまり効かないと思うけど~――


 「“標的の誘導(チャーム)――”」


 ティファニーがひとつ目オークAに魔導を掛ける。

 すると、ひとつ目オークAはゆらりと標的をセナに移す。

 …だが、案の定すぐに解けてしまう。

オークは再び、近くにいたジルに近寄っていく。


 「効きはするが、効き目は短い。大体2秒くらいか……」

 

 ジルがそう呟く。

 お……、

 “標的の誘導(チャーム)”が効く時間を測っていたらしい。

 なにか試すつもりだな……。


 「もうひとつ試してみるか……」


 ジルはそう言うと、小刻みにステップを踏みながら、二匹を惹きつける。

 技とすら言えない地味なテクニックだが、ジルはこの“敵の惹きつけ”がめちゃくちゃ上手い。

 すでに二匹のモンスターはジルに引っ張られ、ダンジョンの右側に寄っていっている。

 その合間にセナとティファニーは左に寄っていき、

 すでにパーティーはひとつ目オーク二匹を挟み撃ちする格好になっている。


 「“付与の魔導――雷”」

 

 ジィバッッ!


 ジルが剣に雷を(まと)わせる。


 ――と、そのとき、オークの一匹がジルに腕を振るった。

 ひとつ目オークの指の爪は鋭利に尖っていて、これに触れると簡単に肉が抉れる。


 ブウンッッ!

 

 「くっ…! 」


 わずかにかすったのか、ジルの腕から肉片が飛ぶ。

 ジルの身体も吹き飛ばされ、空中で仰向けになる。

 

 だが、ジルはその体勢から空中でくるりと一回転し、

 着地と同時に地面を蹴ると、――相手の腕目掛けて剣を振り下ろした。


 ジィバッッ!


 “付与の魔導”を伴ったジルの剣がオークの腕を切り裂く。


 ……が、相手の腕にほとんどダメージはない。

 ほんのわずかに雷による痺れはあったがようだが、――それも「硬直」と呼べるほどのものではない。


 「……剣も雷も効かないか……」


 ジルが呟く。


 ――さあ、いつもの戦法はことごとく封じられたが、どうする……?



 ……


 

 ……気がつくとジルは防戦一方になっていた。

 ひとつ目オークは二匹で代わる代わるジルに腕を振り下ろし、

 ジルがそれをすれすれのところで交わす。

 ――この一連の動きがさっきから延々と続いていた。

 セナとティファニーは呆然と見守るだけになり、……なんの策も打てずにいる。

 敵の攻撃を避け続けているジルもさすが疲れが見え、さっきからちょくちょく、足がもつれかかっている。


多分、本来ならそろそろ出ていくべきなのだ。

 さすがにこの三人ではひとつ目オーク二匹を相手するのは難しかったと判断すべきだろう。

 ……だが、気になるのは、ジルの目には諦めが見えないのだ。

 いや、それどころか、さっきからずっとなにかを小声で呟いている。


 「二、三……、一、二……」

 と、ジルは繰り返し数を数えていた。

 まだ、なにかを試すつもりなのだ。

 

 せめてその“なにか”を見届けてから助けに入ろう、と俺は三人を護りたい親心を必死に抑えた。


 

 ――ティファニー、俺の声に合わせてリズムを取ってくれ……――


 ジルが“反響の世界(ワールド・オブ・エコー)”でティファニーに指令を送る。

 なにか始めるらしい……。


 ――わかった――

 

 ティファニーが答える。

 すると、ふたりが“反響の世界(ワールド・オブ・エコー)”を使って、同じリズムを口ずさみ始めた。


 ――いち、に、さん……――


 ――いち、に、さん……――


 と、そのとき……、



 ――ティファニー、次の“さん”で、“標的の誘導(チャーム)”を撃ってくれ……! ――

 

 敵の攻撃をわずかのところで交わし、思わず姿勢を崩しながらジルが必死にそう命じる。


 ――わ、わかった、いち、に、さん……! ――


 「“標的の誘導(チャーム)”! 」


 ……すると、その瞬間、ジル目掛けて振り下ろされかけていたひとつ目オークAの腕が、

 なんと、

仲間であるひとつ目オークBの頭部へと振り下ろされた。


  


 ガシャァァッ! 


 鋭い爪でオークBの頭部がえぐられる。

 ……中からグロテスクな肉片が見えた。



 「がぁぁああ! 」

 

 頭部をえぐられたひとつ目オークBが天井に咆哮(ほうこう)する。


 「……上手く言ったな……」


 とジルが呟く。


 そして、瞬く間にオークの合間をすり抜けると、セナとティファニーにそれぞれを指令を送った。


 ――ティファニー。今のリズムで“標的の誘導(チャーム)”“を掛けてくれ。腕を振り下ろす瞬間に掛ければ、あいつらは同士討ちを始める――


 ――わかった、任せて! ――


 ジルとティファニーが遠くから目を合わし、互いに頷く。


 ――セナ、お前はこっちだ。

 ――うん、例のやつね……――


 セナもジルと目を合わし、静かに頷いた。




 ……すごい、としか言いようがなかった。

 ジルの「戦いのIQ」はかなり高いと思っていたが、俺の想像を遥かに上回るかも知れない。

 三人の今のレベルを考えると、ひとつ目オークはどう考えても格上の敵だ。

 それがジルの機転ひとつですでに圧倒し始めている。

 恐らくジルは、ひとつ目オークの攻撃パターンに一定のリズムがあることを見抜いたのだろう。

 それで、タイミングを合わせて最適のところで「チャーム」を掛けることに成功したのだ。

 ……まったく、呆れるほど有能な「戦闘センス」だった。

 それは魔導量やレベルといった価値観を越えた、「応用力」による圧倒だった。

 セナもティファニーも素晴らしい才能を持っているが、

 案外、ジルを拾ったことが俺にとっての一番の収穫(しゅうかく)になるかも知れない……。


 ――だが、このままでは「決め手」に欠けるのも確かだ。

 「同士討ち」でダメージは通っているが、ひとつ目オークの生命力は高い。

 頭の中身が見えたぐらいでは、あいつらは平気で敵に攻撃を続ける。

 このままでは「討伐」までは出来ないぞ。

 さあ、どうする……? 



 “標的の誘導(チャーム)”によって同士討ちをさせられたひとつ目オークは、

 怒り狂い、獰猛(どうもう)な雄叫びをあげていた。

 「がぁぁあ、がるるぅぅ……」


 オーク二匹の口元から、もたり、とした粘ついた唾が垂れる。

 まるで獲物を食い殺すのが今から待ちきれない、というように。

 

 そして二匹は、呼吸を合わせ一気にジルとセナに向かって突進した。


 ――ティファニー、タイミングを合わせよう。あいつらの足元を見るんだ。右、左、右……、いち、に、いち……――


 ジルがそう言うと、

 

 ――いち、に、いち……――

 

 と、ティファニーもリズムを合わせる。


 そして、


 ――ティファニー、今だ! ――


 ティファニーが頷く。


 ――“標的の誘導(チャーム)”! ――




 ガシャァァッ!


 

 ジルとセナのすぐそばまで迫っていた二匹のオークが、

 同時に相手の胸元をえぐった。その鋭利な指先で――。



 ……そして、この合間にジルとセナは次の行動を起していた。

 ジルはセナに合図を送り、自分の近くまで走らせると、

 突然、壁に向かって転がり込み、

 壁に背中をつけた。

 「セナ、来いっ! 」

 ジルがそう言うと、セナはジルに向かって飛び上がり、

 突き上げたジルの足に向かって降下して行った。


 そしてジルが、ぐっと脚を屈める――。


 「……飛び上がれる高さがないなら……


 と、セナが呟く。

 そして――セナとジルの足が合わさる。

 

 ……別の推進力(すいしんりょく)を見つければ良い……」



 ……その次の瞬間、セナはものすごい勢いで二匹のオーク目掛けて翔んでいっていた。

 ジルに蹴り飛ばされ――ジルの脚をまるで、ロケットの射出台に見立てて……。




 ドグシャァァッ!!


 セナの突き出した槍は、ちょうど二匹の眼球を綺麗に貫いていった。

 まさにその瞬間、二匹の眼球が縦に並んだのをセナは見逃さなかったのだ。


 ……そして二匹のオークは、同時に床に膝をついた。

 セナによって空洞になった頭部から、壊れた蛇口のように液体が(あふ)れる。紫色の、黒みを帯びた魔物の血が――。


 交差する二本の魔物の血の噴出(ふんしゅつ)の向こうで、セナが立ち上がった。

 槍を持ち直し、素早く地面に振る。

 槍に付いた血が、地面に振り払われる。ピピッ


 「……やった、な……」


 壁にくっついていたジルが、疲れ果てた、というように呟いた――。




 ……



 ……まったく、拍手したいくらい素晴らしい戦闘だった。

 俺の知らないところで、ジルとセナがこの攻撃を練習していたのだろう。

 ということは、ジルたちはすでに“龍殺しの一撃(ジャンプ)”の弱点を見抜いていたのだ。

 「天井の低いところではこの技は使い物にならない」――と。

 

 ……子供とは思えないほど準備の良い子どもたちだった。

 ……いや、多分これも、ジルの才能だろう。

 あらゆる場面を想定し、あらゆるシミュレーションを常に頭のなかで働かせているのだろう。

 それも、誰に教わるでもなく……。

 まったく、「戦いのIQが高い」としか言いようのない、優れた子どもだった。




 ……



 だが、こういう場面こそが、戦闘においては「危ない」。


 このとき、この場の全員が油断していたのだ。俺も含めて――。


 

 セナに貫かれたオークは膝をついたが、

 その一匹は完全には絶命していなかった。

 ひとつ目オークは“本当に”生命力が高いのだ。

 例え頭部を槍で貫かれても、まだ敵を殺そうと動き出すほどに……。


 「セナ、危ない――」


 ジルがそう呟いたときには、オークは中腰のままセナに腕を振り下ろしていた。

 セナは完全に油断していた。

 槍を降ろし、足元についた砂を払っていたのだ。

 そして、セナが敵の攻撃に気づいたときには、すでにオークの爪はセナのすぐそば――右肩にまで迫っていた。


 「まったく…‥」

 「まだ甘いな――」

 俺は自嘲気味(じちょうぎみ)にそう呟く。



 「……古代の火の魔導、“フレイャ”――」


 そう詠唱すると、

 

 セナに迫りかかっていたオークは一瞬にして消し飛んだ。

 そして空中には、セナの背中を掠めていた、オークのその腕だけが残った――。

 その腕も、……「ぽとり」と地面に落ちた。



 「う、嘘だろ……? 」

 その威力に呆然として、ジルが呟く。

 「レオン、すご~い……」

 と、ティファニーも呆然としている。

 奥の壁では、俺の詠唱した“フレイャ”の火がまだ燃え盛っている。


 「こっちのオークも始末しとくか……“フレイャ”――」


 一瞬にして、もう一匹のオークも消し飛ぶ。


 ――前を向くと、セナはジルたちとは違った意味で呆然としていた。

 自分が油断していたこと、敵の爪が自分の背中を掠めていったことー―。

 そのことにこそ激しくショックを受けていたのだ。


 


 ……



 「もう大丈夫だよ、セナ」

 近づいていってそう話しかけると、

 「……」

 セナは怯えた顔でなにも言わない。

 「……大丈夫か? 」 

 屈み込んで傷がないか調べると、セナの背中の衣服がぱっくりと開いていた。爪が掠めていった跡らしい。

 

 ふと、……切り裂かれたその衣服のなかを見た。

 俺はその身体が妙なことに気づいた。


 「これは……、(うろこ)……? 」


 バッ!

 咄嗟に、セナが背中を隠す。

 

 「……? 」

 「……」

 

 妙な沈黙が流れる。

 

 「なんだ……今の……? セナ、お前、いったい……? 」

 

 セナが俺を見ている。

まるで敵を見るような目で。

 

 「お前、いったい、何者だ……? 人間じゃ、ないのか……? 」


 なにか妙なものが見えたのだ。

 人間の皮膚に似たもののうえに、鱗のようなものが無数に張っているのを。

 

 すると俺を睨んでいたセナが、


 「隠し事をしているのはわたしだけではない。……レオンも一緒。……違う? 」

 と言った。


 なんだ?

 なにを言ってる……?

 セナは俺のなにを知っているんだ……?


 「お前、いったい……」

 俺がそう呟くと――、


 

 「お~い、大丈夫かあ~? 」

 とジルが俺たちのところに駆け寄ってきた。

 咄嗟に、

 「大丈夫だ」

 「大丈夫」

 とセナとふたりで応答する。


 ……今はまだジルたちにも知られるわけには行かない、というわけか……。

 

 俺はこの場でセナに問いただすのを諦めて、その場を取り(つくろ)った。


 「危なかったな、お前たち……。油断は禁物だぞ。だけど、良くやった。成果は、充分だ……」

 「レオン、いつの間に来てたんだよ。全然気づかなかったぜ」

 「ほんとよ~。わたしも、全然わからなかった~」

 「あ、ああ……」


 俺がそうしてジルたちふたりの相手をしていると、セナは黙って、ポケットから布を取り出し、破れた衣服のところが隠れるように身体に巻き付けていた。

 その表情は寡黙(かもく)で、なにも読み取れない。

 なにを考えているか、なにもわからない……。

 そしてあることを思い出して、俺は思わずハッとした。

 (セナの髪が脂ぎっていたのは、そのためか……)

 と気づいたのだ。

 (身体の鱗をひとに見られたくなくて、孤児院でも風呂に入っていないのか……)



 「……」

 

 (セナ、お前はいったい、何者なんだ……? )

 

 俺はなにかを探ろうとセナの顔を見つめるが、

 当のセナは、「なにもなかった」というように澄ました顔で衣服の土埃を手で払っていた――。



 


 

 

 


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