港の毒
フィルスは奥さんの掛かった“謎の病”について話し始めた。
その病が港付近で流行り始めたのは今から半年ほど前だという。
その病は次々と漁師やその家族に掛かっていった。咳が出て、熱が上がり、一日中悪夢にうなされる。
やがて港中にその病が蔓延したころ、あるひとりの医者が家を往診しまわったという。
その医者は病人たちの病を次々に治していった――。
「だが、今思うと、それがすでに罠だったんだな……」
フィルスが悔しそうに呟く。
その後、快復した病人たちの健康は長くは続かなかったのだ。
病人たちは再び病を発症し、再びベッドのうえで寝込むことになる。
――恐らくは、そのころからその医者の処方する錠剤は本物の「薬」から「毒」へと切り替えられていたのだろう。
医者は、
「今度の病は前回のものより重い。薬は処方するが、高額なうえに、持続的に投薬しないと治らない」
と漁師たちに説明した。
漁師たちは、その医者の言葉にすがりつくしかなかった。
誰も病に関してなんの知識も無かったのだ。
「おかげで、――すべてを搾り取られたよ……」
フィルスは浅く笑ってそう言った。
「それは、元締めの直轄の漁師たちの間でも起こったのか? 」
俺は気になってそう尋ねた。
「どういう意味だ? ――いや、待てよ……」
フィルスが腕を組んで考え込む。
「確かに、元締め直轄の漁師たちのあいだでは、病は流行っていないな……。家族が病に掛かったのは俺たちみたいな、直轄にならずにみかじめ料だけ払っている独立した漁師たちだけだ」
「どうやら、元締めのやつらが意図的にやったことらしいな」
「クソッ! やり方がきたねえぞ! 」
フィルスが机を叩く。
「フィルスさん、感情的になっているところ悪いんだが、ほかに病を抱えた家を教えてもらえるか? 」
フィルスの顔がぱあっと明るくなる。
「もしかして、そいつらの家も治しに行ってくれるのか……? 」
「ああ、そのつもりだ。――そしてその後でその漁師たちを……」
と言いかけて、やめにした。
“あとでその漁師たちをフィルスがまとめあげてくれ”と言いたかったのだが、これはそのときが来たら言おう。
これから周るのは独立心の強い漁師たちだが、彼らの病を治してやれば、俺に恩を感じてきっと力を貸してくれるはずだ。
そしてそのときは、フィルスにその漁師たちを束ねて欲しい。
フィルスは立ち上がると、奥から街の地図を持ってきた。
そこにひとつひとつ赤い丸印をつけていく。
ザッと二十軒ほど。
「この印の家が病を抱えた家だ」
「わかった。早いうちに治しに行っておくよ」
するとフィルスが深刻な顔になって、
「こいつらは昔からの仲間なんだ。そりゃあ喧嘩したり、言い争ったこともある。だけど、こいつらの不幸を願ったことなんて俺ぁ一度だってねえつもりだ」
フィルスが深々と頭を下げた。
「俺からも頼む。俺の仲間やそいつらの家族を、もとの健康に戻してやってくれ。船を売ったり、人生に絶望するあいつらを見ていると、俺はやりきれねえんだ……」
……
フィルスの家を出る頃には、空が白み始めていた。
「急いで戻らないとな、セナ」
そう言うと、セナが頷いた。
それから、急に後ろから抱きついてきた。
「ど、どうした……!?」
「人助けするレオン、……私、嬉しくなる」
まるで動物のように、セナが俺の後頭部にぐりぐりと頭を押し付けてくる。
な、なんだこの愛情表現……。
セナは美人ではあるが、イケメンというか、どちらかというと男よりの整った顔をしている。それで、いつもキリッとしている。
だから甘えられるとすごく可愛い。
「そうだな」
笑いながら俺はそう答えた。
「ひとが幸せそうに笑うのを見ると、俺も嬉しいよ」
俺はこの世界に来る前の自分を思い出していた。
まったく、
こんなふうに人助けのために奔放するなど、以前の俺には考えも及ばなかったことだ。
(さて、どこまで上手くいくか……)
だが、すべてはまだ俺の頭のなかにしかない。
それが良い方、悪い方、どちらに転ぶかはまだ未知のところにある。
「すべて上手く行くと良いんだがな……」
俺は時計を見てハッとする。
「と、とにかくセナ、急いで戻ろう! 陽が完全にあけちゃうよ……」
そう言って、俺たちは孤児院に急いで駆けていった。
……
それから数週間が経った。
俺はムルナウ伯爵にかなり長い手紙を書いて、思い描いている計画についてかなり詳しく説明した。
俺名義の水産業者をつくること。そのために、フィルスに資金を出資して欲しいこと――。
後で知ったことだったが、ムルナウ伯爵は俺の計画に乗り気でなかったらしい。
フィルスに出資することに関しても、否定的だったという。
だが、最終的にゴーサインを出してくれたのは父親のヒクシーだという。
「息子がひとりで駆け回ってくれている。上手くいくかわからないが父親としてあの子の考えに乗ってあげたい」と言ってくれたらしいのだ。
手紙を送った数日後にフィルスのもとを訪ねると、フィルスはすでに四隻の船を取り戻していた。
これから以前働いていた従業員のもとを駆け回って雇い直すつもりだと話していた。
隣で微笑む奥さんはさらに血色が良くなっていて、フィルスも嬉しそうだった。
フィルスは何度も何度も「た、頼む、ここまでしてもらってただで帰すわけにいかねえ。なにか礼をさせてくれ」と言っていた。
「じゃあすべてが上手く行ったら、一緒に酒でも飲もう」と俺は笑った。
もちろん、この年齢で酒など飲めるはずがない。
ジョークで言ったつもりなのだ。
だが、フィルスは真に受けて、
「酒は駄目だ」と笑った。「酒を飲んで眠っちまったら、全部が夢になりそうでな」
俺は改めてフィルスと握手をしてその場を後にした。
……
この間に、様々なことが進展してきた。
まず、ヒスイとのやり取りが今も続いていた。
ブルーヘルケスに戻ったヒスイは疑われないままもとに任務に戻ったという。
ただし、一度も殺しはしていない、と話していた。
与えられた任務通りターゲットのもとに行くが、殺しを偽装して国外に逃しているという。
ヒスイは話すたびにフローゲンを懐かしがった。
ブルーヘルケスはあまりに殺伐としているという。
なにやらヒルケス国王の周辺が慌ただしく、なにかの準備を進めているように思えてならない、とも話していた。
「危険を感じたらすぐに戻ってきてくれ」と俺が言うと、
「気持ちで言うと、今すぐ戻りたくらいだ」
とヒスイは寂しそうに笑った。
……問題は時折送られてくるメールの方だった。
だんだんと顔文字や記号が増えていって、ついには2000年代初頭の日本のギャルが使うようなギャル文字になってきていた。
このあいだ送られてきたメールなど、
ゃレよ″レヽ、日乍日全然目民れナょカゝっナニゎマ゛/″ゃレよ″レヽ、っτカゝ∠ィヶ″・/全然乂─」レ<れナょ<τゃレよ″カゝナょιレヽゎзゎз丶)─ωぅレまレまレまぁレよ″レよ″レよ″才ッス⊇ωレよ″ωゐ─マ゛/″ぁレナ″レま°ょ
(も、もはや、なにが書いてあるか読解すら出来ない……)
(あいつブルーヘルケスでギャル男に寝取られでもしてんのか……??? )
あ、諦めよ……。
ちらっとだけ読んで諦めると、俺のステータスの言語のところに新しい項目が加わっていた。
ギャル語 1
……
もうひとつの進展はジルとティファニーのことだ。
ふたりも早々に孤児院の障壁を通り抜けることに成功したのだ。
これで、セナを含めて三人が外に出れることになった。
これは嬉しい誤算だった。
セナはともかく、ジルやティファーにまでこれほど早く障壁をくぐり抜けられるとは思っていなかったのだ。
(なら、早々に考えていたあのプランを試すか……)
その晩、俺は三人をリントン地区の外れにある草原に連れ出した。
……
「こんなところに連れ出して、なにをするんだよ」
ジルがぶーぶー言っている。
「ここからは実戦形式だ。特に“連携”についてお前たちには学んで欲しい」
俺は三人に魔導を掛けた。
「“反響の世界”――」
「な、なんだこれ! 頭のなかに、声が聞こえる……」
「そうだ。この魔導で三人の意識を繋いでおいた。頭のなかでやり取りしながら上手に敵を追い詰めるんだ」
「そ、そんなこと、どうしてお前は出来るんだ……??」
ジルが不思議がっている。
俺は無視して続けた。
「昼の間にこっそり抜け出して三人のために武器を調達しておいた。ほら、自分のものを取ってくれ」
アイテムボックスから三人の武器を取り出す。
ジルには初歩的な剣、ティファニーには杖、そしてセナには――。
「これは、槍……? 」
セナが槍を手にとって呟いた。
「そうだ。勘だが、――お前にはそれが合っていると思う」
――槍。
この時代にこれを扱えるものは少ない。
大昔には流行したこともあったらしいが、今では廃れているのだ。
その理由は、槍の大技である“龍殺しの一撃”を使えるものがいなくなったからだ。
それほど難しい技でもないのだが、魔導力を足に込めるのに多少のコツがいる。
それに関しては“この世界をひとつに”のなかに詳細に記されていた。その部分を、俺は予めセナに伝えていた。
この世界では、槍の使い手が減るのに伴って歴史的には剣術が発展してきた。
そのころ、同時的に草陰派、応身派、瞬き派が興ったのだ。
「槍、か……。皮肉な、ことね……」
セナがぽつりと呟いた。
「なんだって? 」
そう聞き返すが、セナはもう草原の遠くを見ていた。
この草原にはちょうどゴブリンの巣がある。
巣からは延々とゴブリンが出てくる。
群れの大半を倒すと、奥からゴブリンロードが出てくる。
これを三人だけで倒せるようになると、かなりの進歩なのだが、どうだろう――。
ちょうど森の奥から二匹のゴブリンがこちらに向かって歩いていた。
俺たちの姿に気がつくのも時間の問題だろう。
「セナ、ジル、ティファニー。お前たちだけの力であの二匹のゴブリンを倒してみろ」
そう言うと、三人は力強く頷いた。
まず、先に気づいたゴブリンが三人のもとに突進する。
ゴブリンと言えど、魔物には違いない。その動きは人間よりもずっと早い。
瞬く間に、先頭に居たジルのそばにまで来ている。
そして、ゴブリンは持っていた混紡を振り上げる。
だが、ジルは簡単に身を翻し、それを交わす。
――ティファニー、もう一匹もこっちに惹きつけられるか? ――
頭のなかで、ジルの発する声が響く。
――わかった! まかせて!――
――“標的の誘導”――
ティファニーは杖から魔導を出すと、それをジルに向ける。すると、セナの方に向かっていたもう一匹のゴブリンが方向を変え、ジルの方に向かって走り始めた。
ジルは二匹のゴブリンを惹きつけると、ステップを踏み、素早く二匹の間に割って入る。
――セナ、俺が惹きつける。とどめを頼む! ――
――わかった――
ジルの指令に、セナがそう応答する。――と、そう答える間にセナは空中高くに飛び上がっていた。
「ほら、来いよゴブリンども! 掛かってこい」
ジルがそう挑発する。
二匹のゴブリンは激高し、バックステップで遠ざかろうとするジルを追いかけていた。
……と、そのとき、空高くできらりと光りが瞬く。
――それはひとりの少女が加えた一撃だった。
天高く舞い、降下の速度を利用して与えられる、重たい一撃。
セナが空から地面に着地するのに合わせて、辺りに軽い(かるい)地響きが生じる。
セナの与えた衝撃派に吹き飛ばされ、一匹のゴブリンは身体の半身を失い、もう一匹はすでに避難してるジルの足元にうつ伏せに倒れた。
「よし、こっちは俺がもらうぜ」
ジルはそう言うと、剣を素早くゴブリンの頭部に突き刺した。
……ずいぶんあっけなく三人はゴブリンを討伐してしまった。
三人の実力が高かったのも嬉しいことだが、なにより、連携が上手くハマっていることが嬉しかった。
俺が思っているよりも遥かに、三人の互いへの信頼は強いのだろう。
これほど即座に状況に対応できるとは思っていなかった。
俺の不安視などどこ吹く風で三人は平然とタッチを交わしていた。
彼女たちにとっては当たり前の結果だったようだ。
「ジル、どうだ? 行けそうか? 」
そう聞くと、
「ねえ、ゴブリンって、こんなもん? これならいくら居ても、俺たち負けないよ! 」
と、すでに生意気なことを口にしている。その横でティファニーも得意そうな笑みで頷いていた。
「セナ、槍の使い勝手はどうだ? 」
セナにそう問いかけると、
「悪く、ないかも……」
と槍を持ち上げて感慨深そうに眺めていた。
まさか口頭で説明しただけで一発で“龍殺しの一撃”が扱えるとは思わなかったが、さすがセナと言ったところだった。身体的な能力が頭ひとつ抜けて、高い。
……
その晩は、夜明けが近づくまでゴブリンの討伐を続けさせた。
三人の連携はさらに洗練され、ジルの言うように、すでにゴブリン程度では三人の相手にならなくなっている。
セナの一撃が強いのはもちろんだが、ジルの司令塔としての役割が大きい。
状況を俯瞰しながら、ティファニーにデバフを要求し、上手に敵を一箇所に集めるのだ。
そしてセナもコツを掴んだのか、ジルの誘導を先回りして、早い段階で“龍殺しの一撃”をしておく。
集まったゴブリンたちがセナの一撃で一挙に吹っ飛ぶのを見るのは快感ですらあった。
だが、相手は最弱の魔物であるゴブリンだ。
敵が強くなればそう簡単にはいかなくなってくる。
この日、さんざんゴブリンを倒すと、巣の奥からついにゴブリンロードが顔を出すのが見えた。
と言ってもこちらに向かってくる気配はない。
あくまでも様子を覗きに来たのだ。
そのころ、ちょうど夜が明ける予兆が始まっていた。
「ジル、セナ、ティファニー。そろそろ帰ろう。――次に来るときはあそこで顔を出しているゴブリンロードを相手にするぞ。それまでにまた鍛えておけ」
そう言うと、
「はいッ」
三人は元気よく素直にそう返事をしていた。
……
ある晩のことだった。
大広間に子供が起きている気配がして、寝床から抜け出した。
静かに階段を降りていくと、誰もいない大広間にひとりティファニーだけがいた。
ティファニーはカーテンを全開にし、夜空を見つめていた。
「なにしているんだ。ティファニー」
後ろから近づいてそう声を掛けると、
「あ~~ん、レオン~~。ちょっと眠れないのぉ~」
と、いつもの甘い声でティファニーは振り返った。
「そうか」
俺はキッチンで乳製品を温めてあげ、それをコップに入れてティファニーの隣に腰を降ろした。
「これを飲みな。良く眠れるから」
「ありがとお~。優しいね」
そう言うと、ティファニーはにこっと笑った。
そしてまた、遠くの星空を眺めている。
一口飲み物を啜ると、「美味しい! 」と呟く。
「……嫌な過去を思い出しているのか? 」
俺がそう尋ねると、
「ちょっとねえ~……」とだけティファニーは答えた。
それから、また黙ってしまった。
それから五分ほど経ったときに、ティファニーが突然振り向いて、自分の過去を話し始めた。
「あのね、レオン。聞いてくれる……? 」
「どうした……? 」
俺はそう頷くと、セナのここに来るまでの経緯を耳にした。
――それは、耳を疑いたくなるような凄惨な話だった。
ティファニーはフローゲンの外れの村、キトンの出身だった。
そこは農業が盛んで、村人の大半は農作物で生計を立てている。
ティファニーの両親も同じように農作物を育てて生活をしていた。
あるとき、彼女の実家の前にひとりの旅人が倒れていた。
男は衰弱し、餓死しかかっていた。ティファニーは両親を呼び寄せ、男に食事を与えた。
男は一週間、彼女の家に滞在し、英気を養った。
そのうちに男の身体は快復し、ついには歩けるようになった。
男は「お礼がしたい」と言って、翌日から街から食料品を持ってきてくれるようになった。
都会でしか手に入らない肉、甘いジュース、高級なスープの素材……。
両親は男の持ってくる食べ物に喜び、男が来るたびに彼をもてなした。
――が、次第に両親は病に伏せるようになった。
母親は寝床から起きられなくなり、父親は農作業を休むようになった。
所有地である田畑は荒れ、病気の薬を手配するのにものを売らなくてはならなくなった。
だが、不思議とティファニーだけは病気に掛からなかった。
後で分かったことだが、男が家を出るときに必ず、
「お嬢ちゃん。都会の飴をあげるよ」
と、甘い塊をくれたのだが、――どうやらそれが解毒剤だったらしい。
男は持ってくる食材のなかに毒を混入していたのだ。
ある晩、ティファニーは家の外の物音で目を覚ました。
深い、身体を動かせないほどの眠気のなかで、誰かが家のなかに入ってくるのがわかった。
暗闇のなかで誰かが、家のドアを開き、ティファニーと両親の眠る寝室へ入ってきた。
その男があの男なのだと、抗いがたい眠気のなかでティファニーは確認した。
男は、嬉しそうにティファニーに頷くと、懐からナイフを取り出した。
そして、ゆっくりと――まるで魚でも捌くように――両親を殺害していった。
自分の身体に麻痺的ななにかが掛けられていると気づいたのは、そのときだった。
いくら身を起こそうとしても、叫ぼうとしても、すこしも身体が動かせないのだ。
ただひたすら重たい眠気だけが瞼を閉ざそうとしてくる。
そして薄く開いた視界のなかで、ゆっくりと両親は男の餌食に掛かっていった。
「ブチブチ……」という、肉を引き裂く音をティファニーはその場で聞き続けた。
ふたりを殺し終わると、男はティファーの目の前にやってきた。
「やっとお嬢ちゃんを“さらえる”よ」
と男は言った。
ティファニーは気づいた。この男は始めから自分をさらうためにこの家のまえで倒れたのだ、と。
ティファニーの父親は剣術の心得があったから、それを警戒していたのだろう。
「こんな可愛い子、さらわずにいられないもんなあ~」
男はそう言うと、不気味ににたりと笑った。
殺してやりかった。
だが、身体は言うことを聞かない。ただあまりの怒りに、手だけがずっと震えていた。
間もなく男の仲間が家のなかに入ってきた。
ティファニーは大きな袋のなかに入れられた。
「それで……、運ばれてきたのがここというわけか? 」
俺はそう尋ねた。
ティファニーが頷く。
そして、静かな涙が彼女の頬を伝った。
「やっと、やっとこのことがひとに話せた……! 今までずっと、話そうとしても誰にも話せなかったんだもん――」
ティファニーはそう言うと、刻印の記された舌を見せた。
「これが掛けられてから、一生、誰にも話せないと思ってた……! 目の前に私の両親を殺した男がいるのに、どんなに力を込めても、あのことが話せないの。だけど、やっと、――やっと誰かに伝えられた! 」
ティファニーは声を震わせながら言った。
「レオンちゃん、魔術を解いてくれてありがとう。私、やっと少し救われた~」
ぐしゃぐしゃの顔でティファニーが笑った。相変わらず話し方はバカみたいだ。
俺は思わずティファニーを抱き寄せた。
「ティファニー。辛かったな。だけどもう大丈夫だ。俺が守ってやる」
すると、ティファニーは俺の胸に顔を当てて大泣きし始めた。
「うわああああぁぁんっ……! 」
当たり前の反応だ。そんな体験をして、笑っていられることの方が異常なのだ。
五分ほどそうしていただろうか。
「その男は、この屋敷にいるのか……? 」
俺がそう尋ねると、ティファニーは何度も頷き、
「あの、医者のふりをしている男が、グスッ……、そう――」と言った。
あいつか……と俺は呟く。
「ティファニー。この件は必ず俺たちの手で片をつけよう」
ティファニーが胸のなかで頷く。
ふと、
フィルスたちに毒を与えていた男も医者の格好をしていたな、と俺は思い出していた――。
言売ωτ″<れτぁ丶)カゞー⊂~




