ヒスイを越える
「さあ、いつものように基礎訓練から始めるぞ。ん――どうした、そんなところにあぐらをかいて……」
「ヒスイ、今日は少しお願いがあるんだ」
俺はそう言った。
「お願い……? ふむ、話を聞こうじゃないか」
そう言うとヒスイは、俺の前に腰を降ろした。
……しかし、つくづくヒスイは美人だと思う。
今でこそ当たり前のように話しているが、ふとしたときにその美人さに驚いて萎縮してしまうことがある。
もしもとの世界でヒスイと知り合っても、俺なんか話しかけも出来ないだろう。
これだけの美人なのだ。
あの世界にいればヒスイも芸能界に行くか、モデルになるか――少なくとも一般人ではいられなかっただろう。それほどにヒスイの容姿は抜群に綺麗だった。
「簡単に言えば、今から何度も何度も俺のことを瀕死すれすれに剣で突き刺して欲しいんだ」
ヒスイの容姿に見惚れていた俺は、ついそんな雑な説明をした。
自分のことながら、バカすぎる……!
「はあ? お、お前、自分でなにを言っているかわかっているのか? お前……いよいよ来るところまで来たな……」
ヒスイが完全に引いている。苦いものを口に含んだように眉間に皺を寄せ、今にも吐き出しそうな顔をしていた。
「ち、違う違う。そうじゃなくって……」
「お前、私には良いがほかのやつには自分の妙な性癖をひけらかすなよ……」
「違う。これは性癖じゃない……!」
「本当か? 」不審そうにヒスイが睨む。
「ほ、本当だ……! だいたい、そうだとしても、真っ昼間から頼むか! 」
「ほお……、夜だったらお願いしていたというわけか? 」
「だ、だから――そうじゃないって……! 」
すると、
「ぷっ」とヒスイが噴き出した。
「え? 」
「あははは。――わかっているよ。すこしふざけたんだ。お前のことだ、どうせ新しい訓練方法でも思いついたんだろう? 慌てるお前の顔が可愛くてな、すこしからかってみたんだ」
「か、からかっただと? お、お前、俺は本気で慌てて……」
「ははは。すまん、すまん――」
「まったく……」
ヒスイはいかにも面白いというようにのけぞって笑っていた。
……まったく。この娘はどこかSっぽいところがあるんだよな。
――だけど俺はヒスイが心を開いてくれていることが嬉しかった。
出会ったときは完全に心を硬直させていたのだ。それが今や、俺をからかってくれるくらいリラックスしてくれている。
ま、待てよ……。そう言えば今、俺のこと「可愛くて」って言ったな……。
そう気づくと、俺は急に胸が熱くなり、顔が赤くなってきた。
マズい……。こんな顔を見せたら、またヒスイにからかわれてしまう――。
「と、とにかく説明を始めるぞ……! う、ウォッホン……」
「ああ、そうしてくれ。私としても、楽しみでもあるんだ」
そう言うと、ヒスイは好奇に目を潤ませて身を乗り出してきた。
俺は自分のアイディアの概要をヒスイに説明した。
“龍の加護による超快復”――。これを用いた素早い能力アップには条件がある。
それはつまり、瀕死の原因となった箇所だけが超快復する、ということだ。
例えば、単純にHPが減少したことによって死にかけた場合、龍の加護が発動すると、HPはもとの値よりも大きくなって快復する。
これはLPのときにも同じことが起こった。魔術量が減少し、それが原因で俺が死にかけると、やはり龍の加護によってLPはもとの値よりも大きくなって快復する。
つまり龍の加護による超快復は、「なにかよって俺が死にかけたか」が発生条件なのだ。
魔術の枯渇が原因で死にかければ、魔術量が増大して快復するし、HPの枯渇が原因で死にかければ、HPが増幅されて快復する。
俺はこの原理を利用して剣術の熟練度を一気にあげられないかと考えたのだ。
「だが、剣術の熟練度が減少することで死に至るということはありえないぞ? 」
ヒスイが口を挟む。
「ああ。その通りだ。そこで、今から龍の目を欺こうと思う――」
「龍の目を、欺く……? 」
「そうだ。それにはヒスイの持っている剣術スキル、“アビリティブレイク”を使用してもらう」
「ふむ。ほほお、はあ――。なるほどな……」
感づいたようで、ヒスイがニヤリと笑う。
“アビリティブレイク”。
これは戦闘中、一時的に相手の熟練度を下げる技である。
デバフの一種だが、今はほとんど使われていない。わざわざデバフを掛けるよりも相手にダメージの通るスキルを直接用いたほうが効率的と思われているからだ。今や誰も使わない産業廃棄物と化していると言っても過言ではない。
だが、俺にとっては違う。
アビリティブレイクによって俺の瞬き派の熟練度を下げ、――その下がり切るすれすれのタイミングで俺が瀕死になれば、恐らく、
龍の加護によって熟練度自体も超快復する――。
「なかなか面白いことを考えたな。ふうむ。ひょっとしたら、上手くいくかもしれんな……」
「そうだろう? このやり方を用いれば、ステータス上の数値だけ見れば俺は熟練度の減少が原因で死に至るように見えるんじゃないかと思うんだ。
つまり、龍に錯覚を起こさせるわけだ。アビリティブレイクによって瞬き派の熟練度が下がり、それによって俺が死にかけている、と――」
「なるほどなるほど。それでさっき言ったあの言葉か。つまり龍の目を欺く、と……」
「そういうことだ」
「上手くいくかわからんが、試してみる価値はありそうだ。それじゃあ、早速やってみるとするか」
そう言うとヒスイは立ち上がり、腰に差した瞬き派専用の剣の柄に手を掛けた。
「あ、ああ……」
だが、こうして改めて対峙すると、ヒスイの強さにあっけなく慄く(おののく)。
やっぱり、この娘、とんでもなく強い――。
ヒスイの身体からびりびりと風のようなものが吹いてくる。単純に、俺は圧倒されている……!
「行くぞ――」
ヒスイが言った。
そして次の瞬間、
“アビリティブレイク――” ズシャッ
“アビリティブレイク――” ズシャッ
“アビリティブレイク――” ズシャッ……
「あ、あがっ、かは――」
たった、三発――。
それだけで簡単に瀕死にまで追い込まれた。
“敵わない”、なんてものじゃない。そもそもヒスイが動いたことすら感知出来なかった。
対向車にパッシングされたように、眩い光が三度瞬いただけだ――!
あとはなにも見えなかった……!
そして瀕死による激しい苦痛が起こる……。
これは何度味わっても慣れるものじゃない。著しい全身の痛み。死んだほうがマシだと思わされる著しい鬱症状。
龍の加護が発動するまでの短い間、俺の身体が全世界を憎悪し、――水にあげられた魚のようにのたうち回る。
――ヒィィインン……
龍の加護が発動した……。
俺はほっと息をする。
助かった――。
瀕死から快復するたびに、いつも泣きそうなほど心が緩む……。
「……どうだ? ステータスを確認してみてくれ」
なんとも言えない顔で瀕死から快復する俺を見ていたヒスイが言った。
「ああ。今確認する。ちょっと待ってくれ」
「……」
HP 120→133
体力はこんなふうに増えていた。
これに関しては当たり前の話だ。体力が減少して、超快復したのだから。
問題は次だった。アビリティブレイクによって一時的にデバフを掛けられた瞬き派の熟練度。
剣術 5→7
おおっ……。剣術の熟練度が増えている……!
ということは……?
草陰派 1
応身派 1
ま、まあ当たり前だが、このふたつは増えていない……。
そして次は……
瞬き派 7→11
「ふ、増えてる……! 」
「ほ、ほんとか!」
「あ、ああ。増えてる、増えてるよ……! 」
「やった、やったな……!」
そう言って、ヒスイが俺の腕に抱きついてくる。か、可愛い…!
「ん……? この項目はなんだろう? 」
「どうした? 」
瞬き派 7→11
の項目の後ろに、ふたつ別の項目が増えているのだ。
払腰 1
見切り 1
「それは瞬き派の技だな。恐らくはこのやり取りのうちに習得したのだろう」
ヒスイが言った。
「技。なるほど……」
どうやらその流派の熟練度が上がっていくと、それに伴って流派特有のスキルも身についていくらしい。そしてそのスキルの熟練度も、使用頻度にあわせてますますあがっていく。
「やっぱり、このやり方で熟練度をあげられるみたいだな。よし、じゃあヒスイ、どんどん行こう! 今日中に行けるところまであげてしまおう! 」
だが、急にヒスイの顔が暗くなった。
「あ、ああ……」
「どうした、ヒスイ? 」
「いや、――私は別に構わないが、その……お前は、――お前の身体は本当に大丈夫なのか? 」
心配そうにヒスイが言った。多分、さっきの瀕死の俺を見てその辛さを察してくれたのだろう。確かに、見ていられないほどの惨状だったに違いない……。
「俺なら大丈夫さ。さっきのを見て引いたのか? あれは大げさに痛がって見せたのさ。実は全然痛くなんてないんだ。さあ、ほら。早くやろう。自分の腕がどんどん上がるのが楽しくて、俺は早く続きがやりたいんだ」
俺はわざと明るく努めてそう言った。
だが、よっぽど苦しい言い訳に見えたのだろう。
ヒスイの顔は暗いままだった。
「お前が良いというのなら良いが……。――そうだな、わかった。さっさとやっってしまおう」
そう言うと、ヒスイは再び俺の前で直立して対峙した。
……
そこからは文字通り地獄の時間だった。
ヒスイと対峙し、そのたびに全身が切り刻まれる。
瞬き派特有の剣で皮膚を剥がされ、切り取られ、突き刺される。
ヒスイは剣を振るうとき、一切の容赦をしなかった。
つまり俺と対峙しているこの美しい女の子は、今は残忍な凄腕の暗殺者に戻っているのだ。
彼女の剣が俺の耳を削ぐ――。そして喉を掻っ切る。
俺の喉元に空いた空洞から血がとぽとぽと溢れる。ヒスイはそれを冷酷な目で見下ろす。
きっと、少しでも感情的になれば、この訓練の続きが出来ないと考えたのだろう。ヒスイは徹底的にプロに徹していた。
何度皮膚を剥がれ、半分ほど首を裂かれ、眼球を片方潰されただろう。
いったい何リットルの血を地面に垂れ流したのだろう。
何度も何度も地面に突っ伏し、そのたびに冷酷なヒスイの目を見上げた。一切の妥協のない、完璧に任務を遂行する、冷徹な暗殺者――。風の暗殺者ヒスイ。
二十度目に地面に突っ伏したとき、辺りには血の海が広がっていた。
ヒスイも俺も、血のプールのなかで相手を見ている。
(もう、殺してくれ……)
何度も、そう懇願しかける。
だがぐっとこらえ、龍の加護が発動するのを待つ……。
――ヒュゥイィィィン……
そしてステータスを確認する。
HP 133→160
剣術 7→32
瞬き派 11→38
払腰 1→5
見切り 1→8
さらに新しいスキルが項目に加わっていた。
弾き刀 1
引き払い 1
死者の呼吸 1
「ん……? なんだこの“死者の呼吸”というのは」
「死者の呼吸? お前そんな技を身につけたのか? 」
「なんなんだ、これは? 」
やれやれ、というようにヒスイが首を振った。
「死者の呼吸というのは瞬き派の奥義のひとつだ。死の瀬戸際を何度も経験したものだけが得られる秘儀だというが……まあ、お前はその条件には合っているかもな」
「なるほど――。それで、どんな効果があるんだ? 」
「発動してみろ。頭の中で念じるだけで良い」
「こうか……? 」
(死者の呼吸……!)
ブオォォオン……。
なにか、オーラのようなものが身体にまとわり付いた。
そして、身体の奥深くから力が漲って(みなぎって)くる。
「それは簡単に言えばバフ効果だよ。多分お前の身体の全能力が今上昇しているだろう。戦闘前に使うようにすると良い」
ヒスイが言った。
「なるほど。確かに身体から力が溢れてくる……」
俺はヒスイを見つめた。
「さあ、ヒスイ。続きをやろう」
一瞬、ヒスイがたじろぐ。
「そうだな。――よし、掛かってこい……」
……
異変が起こったのは陽が傾きかけたころだった。
俺たちは昼食も取らずにこの訓練をやり続けていた。
軽く8時間以上も。
そのあいだにヒスイに瀕死にされた回数は、ざっと54回。気の遠くなるような回数だった。
だがそのとき、今までほとんどなにも見えなかったヒスイの剣先が、一瞬確かな形で俺の目にも見えたのだ。
――キィィンイィィィン
俺の剣が、ヒスイの剣を弾いた。
思わず、ふたりで見合った。
――だが、この辺りは流石に暗殺家業をこなしてきたヒスイだった。
こんなアクシデントにとらわれず、次の瞬間には俺のこめかみを突き刺していた。
「ぐ、ぐふぅ……」
哀れなそんな嗚咽を漏らし、俺は口から血を溢れさせる。
そしてさらに辺りの血の海が深くなる。
――ヒュゥイィィィン……
龍の加護で快復し、ステータスを確認した。
HP 160→209
剣術 32→67
瞬き派 38→77
払腰 5→12
見切り 8→25
弾き刀 1→6
引き払い 1→4
死者の呼吸 1→36
ものすごい早さで剣の熟練度が上昇している。使った分だけスキルの熟練度も上昇していた。
実力の向上は数値だけで感じるのではない。
瞬き派の独自の間合いの取り方、剣の振るい方が、どんどんと身体に馴染んでいくのだ。
そしてそれに伴い、ヒスイが次にどう動くのかもどんどんと分かってきている。
そしてさらに、そこから二時間が経った。
……
キィンキィンキィンキィンキィンキィン……!
キィンキィンキィンキィンキィンキィン……!
キィンキンキン……
ヒスイとの剣の応酬はすでに一進一退となっていた。
俺は何度も何度もヒスイの剣を弾き、そしてヒスイもまた俺の剣を弾く。
そんなやり取りが二分ほど延々と続く。
キィンキィン!
「くっ、……」
ヒスイがそう苦しい声を出す。
ヒスイの剣術は確かに素晴らしい。ほんとうに、天才としか思われない。
ブシュッ……
敢え無く一歩が届かず、俺はヒスイに瀕死の目に合わされる。
だが、この一日で俺の剣術もかなり腕前が上昇していた。
「はあ、はあっ……! 」
息を継ぎながら、ステータスを確認する。
能力的には、
HP 209→223
剣術 67→81
瞬き派 77→94
まで増えている。
そして瀕死になるまでの時間が長くなるに連れて、今度はスキルの熟練度の方が上昇が早くなってきていた。
払腰 12→35
見切り 25→78
弾き刀 6→43
引き払い 4→34
死者の呼吸 36→54
特に“見切り”の熟練度の成長が著しかった。
(行ける……!)
そのとき、俺はそう確信した。瞬き派の剣の腕が熟練した結果、ついにヒスイを上回る瞬間が近づいてきている――。
そして次の対峙のとき、まさにその瞬間が訪れた。
キィンキィンキィンキィンキィンキィン……!
キィンキィンキィンキィンキィンキィン……!
“見切り”と“弾き刀”を駆使しながらヒスイの攻撃を交わしていたそのとき、
俺はヒスイの身体に一瞬の隙きが生じるのに気がついた。
そしてその一瞬の隙きを突き、
パシッ
ごく簡単に、あっさりと、ヒスイの剣を上向きに弾いた。
「行ける――」
ヒスイはあっけに取られて、腹をノーガードにしていた。
ついにこのときが来た。
完全に取った――。
まさに俺がそう思ったとき、
――シュパッ
「は? 」
……一瞬にしてヒスイが遥か後方に退いた。
「ちょ、ちょ~~~~~~!??!?」
俺は思わずそう叫んだ。
「ヒスイ、今草陰派の技を使っただろ! この勝負では瞬き派しか使わない約束だぞ! もう少しで勝てそうだったのに……! 」
「だ、黙れ黙れ! 」
遥か遠くでヒスイが叫ぶ。
「だいいち、一日でこんなに強くなるお前が悪いんだ。ずるさで言えば、お前の方がずるいだろう! 」
やられた。完全に逃げられた。俺はすたすたとヒスイの方に近づきながら言った。
「ずるいよまったく、ヒスイ。今俺は完全にヒスイを捉えたと思ったのに。――というか、今度こそ、完全に一発当てて、ヒスイとキス出来ると思ったのに……」
「……」
ヒスイはなにも返さなかった。
やっと目の前までやってくると、
「キ、キス……? 」
暗闇の中で顔を真赤にしたヒスイが呟く。
「え、お前もしかして、忘れてたの? 」
「いや、え、あ――。そうか、確かに、そんな話――あったな……」
前髪を激しく撫でながらヒスイが言う。
ああほんと、もういちいちが可愛い……!
そして、ヒスイが急にハッとなった。
「お前、――まさかそのためにこんな無茶な特訓をしていたのか……? 」
「へ? そうだけど……? 」
カァァァァア……
見ていて音が聞こえるほど、明らかにもう1段ヒスイの顔が赤くなった。
「おま、おま、お前はほんとに――まったく、馬鹿だな……」
ヒスイがしどろもどろにそう言う。
「馬鹿なもんか。お前とキス出来るためならなんだってやるさ。何回瀕死になったって良い。とにかく俺はお前とキスがしたいんだ。キスがしたくて仕方ない。もうとにかくキスしたくてキスしたくてキスしたくて自分をキスしないように抑えているのに精一杯なくらいさ」
至近距離でそう言うと、
「ちょ、わかった、わかったからもうキスを連呼するな――っ! やめ、やめろ……! 」
ヒスイはそう言うと真剣を振り回して俺を攻撃した。それももう、凄まじい殺人術で――。
ヒュンヒュンヒュン……
そして俺は“見切り”を使ってそのすべてを交わした。
そしてヒスイの身体に背後からしがみついた。
「ひゃぁっ! 」
とヒスイが完全に乙女の声を漏らした。
「ヒスイ。次は約束してくれ。ヒスイは草陰派も使って良いから、この次に俺がヒスイに勝ったら……」
ヒスイの耳元にそう囁く。
「か、勝ったら……? 」
俺に後ろから緩く羽交い締めにされながら、ヒスイが振り返る。
「ちゃんと約束を守ってくれ」
「つ、つまり……? 」
「俺の唇に唇をつけて、“参った”と言ってくれ――」
「ま、参ったも言わなくちゃ、駄目なのか……? 」
「いや」と俺は言った。「チュウだけでも良いよ」
すると、ヒスイは耳まで真っ赤にさせて、俺を振りほどいた。
「わ、わ、わかったよ、――わかった、わかった。つ、次はズルをしない。それで、約束するよ――」
ヒスイはそう言って、後ろ向きに剣を振り回し続けていた。
……
さて、最終的なスキル上昇値は、このくらいだ。
HP 223→変わらず
剣術 81→83
瞬き派 94→95
払腰 35→変わらず
見切り 78→88
弾き刀 43→46
引き払い 34→変わらず
死者の呼吸 54→変わらず
まあ一日で“姿の見えない殺し屋”とまで恐れられたヒスイに匹敵する剣術を身に着けたのだ。
悪くないだろう。
「さあ、そろそろ帰るとしよう」
俺がそう言うと、ヒスイが俺たちが訓練していた場所を見つめていた。
「まったく。ものすごい一日だったな。お前の努力には驚かされるよ。見てみろ、あの呆れるほどの血の量を……」
そう言ってヒスイが指し示していたのは、ほとんど軽い沼と言えるほど大量に溜まっている俺の血があるところだった。
誰かがここを知らずに通りかかったら、大量殺人が行われた跡だと信じるかも知れない。
「今日くらいはお前を褒めてやるよ。仮にこのやり方を知っているやつがいても、多分そうたくさんのやつはお前の真似をしないだろうからな。今日のお前の成果は、お前の根性が勝ち取ったと言っても良い。我が弟子よ。褒めてやろう――」
「まあ、ヒスイとイチャイチャしながらチュウ出来なかったのが残念ではあるけどな――」
俺がそう言うと、
「誰がイチャイチャしながらチュウすると言ったんだ……! か、勝手に付け加えるな――!」
とヒスイはまた顔を赤くしていた。
だが、このときの俺はまだ気づいていないのだった。
俺がこの世界にやってきてからずっと一緒だったヒスイとの別れが、もうすぐ近いということに――。




