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異世界ドラゴン~この世界をひとつに~  作者: あんちおいでぃぷす
第一章 フローゲン編
12/34

伝説のタンク、ガーディリオン



 私は伝説のタンク、ガーディリオン。

 この国の最高の兵士のひとりと言って良いでしょう。おそらくは国中で私の名前を知らない者はいませんでしょう。そう、――少々通りを歩くだけで私を呼ぶ声が聞こえるほどなのです。


 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ


 ――と。


 特にこの国の淑女たちは私を放っておくことが出来ない。

 ん? 

 なぜかって?


 簡単さ――。私が少々“美しすぎるから”さ。


 茶色く染まった柔らかくウェーブする髪。

 真っ白な肌。

 高い身長。

 筋の通った鼻――。

 そのどれもが超一級の美しさを兼ね揃えている。

 

 だから、この国の人々は私を見かけるとこう呼びかけずにいられないのです。


 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ


 ――と。



 ふふっ。どうも私は自分の美しさに惚れ惚れしてしまう。今も鏡を見てつい自分に微笑みかけてしまった。


 「う、美しい――」

 

 ふふっ。鏡のなかの自分に向かってついそう話しかけてしまった。ふふふ、まったく、私ほど美しい男はこの国に一人たりともいないと言えるでしょう……。



 ……



 実は今日私がここに――城の裏手のひっそりとした洞窟――に来ているのはわけがあるのです。

 簡単な周辺調査――。

 最近、このちいさな洞窟で街の住民が老いたゴブリンを見かけたというのです。

 だから、こうして私が軽く様子を見に来た――。と言っても、ゴブリン程度に苦戦する私ではありません。こんなもの、廊下を雑巾がけするほどの労力も掛からない。ただちょっと散歩に来たぐらいのことなのです。


 さて、洞窟に着くと私は大胆になかに入っていきました。

 そうです、――“大胆であること”。それこそが私のタンクとしてのモットーなのです。おっと、モットーはもうひとつありました。それは、タンクなれど“美しく”あること――。そう、このふたつを持ってして、私は私であることを誇らしく感じることが出来るのです。

 ふふっ。

 思わず微笑んでしまう。

 私自身の徹底した美しさゆえに、私自身の徹底した美しい哲学ゆえに――。


 ……洞窟のなかは湿っています。非常にじめじめとしています。まったく(けが)らわしい。だからゴブリンは嫌いなのです。彼らは性格が暗く、ねちっこく、湿っぽいところを好む。そしてなにより、容姿がとても醜い。そう、彼らは私とはまったく真逆の存在なのです。言ってみればこの私ガーディリオンは、逆ゴブリンなのです。そしてゴブリンとは、逆ガーディリオンのことなのです。整理しましょう……。


 ・ゴブリン=逆ガーディリオン


 ・ガーディリオン=逆ゴブリン



 というわけです――。ふふっ。



 思わず微笑んでしまいます。

 こんなにわかりやすい図式があるでしょうか? ふふふっ……。



 ……



 さて、洞窟内は100mほど真っ直ぐ続いています。

 私は大胆に――なにしろそれがモットーですから――前に進んでゆき、そして突き当りにぶつかりました。

 おやおや、どうやらこの件の元凶がいたようです。そう、一匹の老いたゴブリンが地べたに眠っていたのです。


 「まったく、穢らわしい存在ですね――」


 私はハンカチーフで鼻を覆った。それも城下町で買った高級ハンカチーフで。このハンカチーフは花柄が模してあって、非常に高価なのです。そしてなにより肌触りがとても素晴らしい。まるで柔肌の女性の胸元に顔を寄せているような、麗しい淑女の膝に顔を乗せているような――そんな素晴らしい夢心地がするのです。


 さて、私はそのハンカチーフを鼻に当て、こうつぶやきました。

 「まったく、く、さ、い、生き物ですね……」と。


 当然、ゴブリンは私の声に驚いて――目を覚ましました。

 そして背中にしょっていた剣の柄を握り、――まったく愚かですね……この程度の魔物が私に傷一つ付けられるはずがないのです。

 なにしろ私は、あの伝説のタンク、



 “ガーディリオン”


 なのですから――。



 ザシュッ――。


 ゴブリンの首元に目で見えないほどの細い切れ間が生まれ、その切れ間に沿ってゴブリンの頭部がゆっくりと横滑りしていく。そして、頭部は彼の首を離れ、足元へ転がってゆく。洞窟の天井に向けて全身の血を噴き出させながら――。


 「と、う、ば、つ、完了――っと」


 ふふっ。まったく簡単な仕事でしたね……。いや、仕事とさえ言えないほど簡単な出来事でした。相変わらず私は行動のすべてが美しい。まったく無駄のない動きによって苦痛を感じる間もなくゴブリンを切り捨ててしまった――。ああ、自分の才能と美しさが憎い――。


 ふふっ。

 「帰るとしましょうかね」

 そう呟いた私は、剣の血を地面に素早く振り払うと、その剣を鞘に収めました。

 そしてくるりと振り返り、洞窟の出口へとその一歩を踏み出したのでした。



 “異変”が生じたのはまさにそのときでした――。

 突如、洞窟の入り口から謎の火の玉が飛んできたのです。

 

 ですが、私は伝説のタンク、


 “ガーディリオン”


 ですから、すぐに一級障壁魔術(ガーディ)を唱えました。


 「一級障壁魔術(ガーディ)!」


 ブオンッ


 バシュッ!!


 放たれた火の玉は、私の詠唱した魔術によって天井へと弾かれました。幸い、なんの怪我もありません。


 「なんですか、今のは……? 」


 もしかして私の倒したゴブリンのほかに別のゴブリンが洞窟に潜んでいたのでしょうか? しかし、洞窟内の道は一本道で、ほかに隠れるようなスペースもありませんでした。それに洞窟内に入る前に辺りを散策しましたが、この辺り一帯にほかに魔物が潜んでいるような気配もなかったのです。

 それが、なぜ急に火の玉――おそらくはフレアでしょうが――が飛んでくるのでしょうか……? 


 「……」



 ――まあいい。そう、“まあいい”のです。

 いずれにせよ洞窟の出口まで行けばすべてわかることです。いったい誰がフレアを放ったのか、いったいなんの目的があってそんなことをしたのか? なにしろ、私は伝説のタンク、


 “ガーディリオン”


 ですから、こんなちっぽけなフレア程度では傷一つつけられるはずがないのです。

 したがって、この魔術を唱えた人物は、私を傷つける目的でその魔術を唱えたはずがないのです。


 さて、今一歩を踏み出しました。これは犯人を突き止める偉大(いだい)なる一歩と言わざるをえないでしょう。なにしろ私は私にフレアを放った人物に向けて一歩近づいたのです。ふふっ。まったく私はなんて美しいのでしょう。あまりにも完璧な一歩を踏み出してしまった――。もうほんとみんなで合唱しながら見て欲しいくらいです。一歩一歩踏み出す度に、


 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ

 ガーディリオンっ


 ――と囃し立てて欲しい。もうほんとにそれほどに私の一歩一歩は美しいのです……。



 ところが、異変はそれでは終わりませんでした。

 すこしの小休止があったあと、今度は立て続けにフレアが洞窟の入り口から飛んできたのです。

 私は思わず唱えました。


 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ


 

 なななな、なんなんでしょうか、これは???

 ななななぜか、一分間に50発ほどのフレアが洞窟の入り口から飛んでくるのです。

ななななんですか、これはいったい? なな、なんの目的があってそんなことをするのでしょう???


 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ



 「……」


 おや……?

 どうやらやっと収まったようです。

 どうやらなにかの手違いだったのでしょう。

 それはそのはずです。フレアをこれほど連続して唱えること事態なにか異常なことなのです。それが延々と続くはずがありません。

 ふふっ……。さすがの私も焦りましたが、どうやら困難は去ったようです……。

 

 ――ところが、困難はそこで終わらなかったのです……。

 というか、ここから地獄の時間が始まるのです……。思い出すだけで激しい吐き気が込み上げてきます……。


 「ん、あれは……? 」

 

 そう、再びの小休止――おそらく十秒ほどの休息です――のあと、再びフレアが連続して入り口から飛んできたのです。

 しかもなにやら、さっきよりほんの僅かに火力がアップした状態で……。

 私は再び“一級障壁魔術(ガーディ)”を唱え、絶え間なく飛んでくるフレアを弾きました。


 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ


 ……ですが何発めかのフレアに、私は敢え無く食らってしまいました。


 「ガッ、カハッ――」


 初級魔術とは言え、無防備に喰らえばそれなりのダメージを負います。私は胸元にそれを浴び、一瞬、息の詰まる想いをしました。ですが、即座に”“一級快復魔術(ヒール)”を唱え、その場をしのいだのです――。


 「ヒール!」



 ヒィィィイィィィン――。


 ですが、休んでいる間はありません。フレアは絶え間なく入り口から飛んでくるのです。だいたい一分ごとに五十発ずつ、そして謎の小休止を挟んで……。


 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ……



 そこからは文字通りほんとうに地獄の時間でした。

 いったいなぜフレアがこんなにも飛んでくるのか、いったいなぜ私がこんな目に合わなくてはならないのか、なにもわからないままフレアを弾き続けなければならないのです。

 しかも、理不尽なことに少しでも気を許せば途端に私はフレアに身体を傷つけられるのです。つまり、極度の集中力を保ちながら、この不可解な困難に対処し続けなければならないのです……。


 どのくらい時間が経ったでしょうか……。

 おおよそ二時間か三時間くらい。そのあいだもフレアは謎の小休止をはさみながら、延々と私に向かって飛んで来続けています。

 私は洞窟の構造を恨みました。なにしろなかは完全な一本道で、ほかに避けるようなスペースもないのです。せめてもうすこしのスペースでもあれば、私も休むことが出来たでしょう。しかし洞窟にそんなスペースはなく、フレアはその狭い洞窟を真っ直ぐ私に向かって流れてくるのです。


 ……いったい、人生とはなんなのでしょうか……。なぜ老いたゴブリンを討伐しに来ただけで、こんなにも不可解な困難に合わねばならないのでしょうか……。

 私は飛んでくる――そして謎の小休止のある――フレアを弾き続けながら、“人生そのもの”について考え始めていました。

 あまりにも長く果てしのない単純作業を続けるうちに、私は次第に、人生とはこの洞窟そのものかもしれない、と思い始めていたのです……。

 

 理由のわからないフレア。

 理由のわからない小休止。

 そしてなぜか小休止を挟むたびに威力の強くなるフレア……。


 考えてもなにもわかることはありません……。私に出来るのはただひたすら目の前の困難――フレア――を弾き返し続けることだけなのです……。


 考えてみると、人生もまたそういうものではないでしょうか……。

 ひとつひとつの困難の正体など、いちいち判明したりはしないのです。誰がなんのためにこんな困難を与えるのかも、滅多に判別出来ることもそうありません。

 そう、人生とはきっと、意味不明なフレアが飛んで来続ける洞窟みたいなものなのです……。



 ……


 どのくらい時間が経ったでしょうか……。

 私は時計を盗み見しました。すると時刻は12時半を指し示していました。

 私がこの洞窟に来たのが朝の5時半くらいでしたから、およそ8時間ほどが経っています。その間、私はフレアを弾き続けていたのです。


 そのうちに、私は考えることをやめにしていました。

 なにかを考えること事態に意味を感じなくなっていたのです。

 一分ごとにやってくる十秒ほどの小休止のあいだに、私は少しずつ洞窟の出口に向けて歩んでいたのですが、フレアの威力が上昇してあるラインを越えたとき、それを弾く私の身体は洞窟の奥へ押し戻され始めていたのです。そしてついさっき、ついに私は私が殺した老いたゴブリンの遺体のもとまで押し戻されたのに気づいたのです。まさにそのとき、私は考えることをやめにしました。

 

 気づくと、私は淡々と無意識的に作業をこなすようになっていました。考えることを一切やめにして、なにやらとてつもなくぼおっとしていたのです。

 一種の流れ作業に没頭していたとも言えるでしょう。

 ちょうど城下町にある工場で作業員がお弁当の隅っこにギザギザの緑の飾り細工を入れ続ける行為に似ているような気がします。

 手だけをひたすら動かして、頭では“考えている”とも言えないようなあやふやなことを思い浮かべているのです。

 そのうちに私はあることに気が付きました。

 この単純作業――フレアのことです――に没頭すれば没頭するほど、時間は早く過ぎてゆくのです。 

 一方で目の前のこの現象――フレアのことです――に意識を集中してしまうと、かえって時間の流れが遅くなるのです。

 ですから、この困難を上手くやり過ごすこつは、とにかくフレアのことについては考えずに淡々と流れ作業をこなし続けることなのです。手だけを延々と動かし続けるのです。そうして、頭の中では考えているともいえないようなあやふやなことをぼんやりと思い浮かべ続けるのです。そうすると、多少は時間が早く過ぎてくれるのです……。


 

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ……


 

 子供の頃、私はこの惑星の外にはなにがあるのだろう、と考えたことがあります。

 当時幼かった私は、その広大な謎のスペースを謎の探偵が飛んでいると夢想しました。

 そう、そのナイトに当時の私は、“宇宙探偵・ギズロー”と命名していました。流れ作業に没頭していた私は、いつの間にか子供のころに思い浮かべたこの夢想の続きを考え始めていたのです。

 宇宙探偵・ギズローは自らの愛馬ヒヒーンに乗って(どうも当時の私にはネーミングセンスがなかったようですね……)宇宙を飛び交っています。そうして宇宙に散らばった宇宙海賊ギャズローの一派を追いかけているのです(ギズローとギャズローは名前が似ていますね……。やはりネーミングセンスがなかったようです……)。ひたすら飛んでくるフレアを弾き続けながら、私はギズローがギャズローを追い詰める風景を頭のなかに思いうべ続けていました。そうしてついに、ギズローは宇宙世紀804年、惑星パンパカパーンにてギャズローを追い詰めたのです。


そう……ついにやったのです……。

私が子供のころに創り上げたキャラクター宇宙探偵・ギズローは、長い時を経て、ついにその悲願を達したのです……。


 そして、まさにそのときでした。

 唐突にフレアが止んだのです――。


 始まりが大いなる謎に包まれていたように、終わりもやはり大いなる謎に包まれていました……。

 


 私はしばらく、フレアの止んだ洞窟内に佇んでしました。そして次第に、ほんとうにあの苦難が終わりを告げたのだと実感しました……。


 そして、急に涙が溢れてきました。

 ほんとうに、ほんとうに辛い時間が去ったのです――。


 「ああ、あああっ! 」


 そう言って、私はその場に泣き崩れました。あまりにも過酷な時間、あまりにも意味のない単純作業をし続けたことによって、私の精神はすれすれのところまで追い込まれていたのです……。


 「ああ、ああああ、神よ、生きることの、喜びよ――!」

 

 私はそう叫びました。そして、ついにフレアの飛んでくることのなくなった洞窟の出口に向けて、くたびれたよろよろとした一歩を踏み出したのです。


 段々と、洞窟の出口が見えてきました。

 時刻は夕方の6時。すでに陽は沈んでいます。時間にしておおよそ12時間強。私は意味もなくフレアを弾き続けたのです。いったい、なんという一日でしょうか。いったい、「フレアを弾き続けた一日」などあって良いのでしょうか……。

 ですがとにかく、私はこの過酷な一日を終えたのです――。



 そしてついに、洞窟の出口に差し掛かったとき、遠くに月が見えました。

 

 「な、なんて美しいんだ…! 」

 

 思わず、私はそう呟きました。

 月は空に小さく浮かんでいるに過ぎませんでした。

 ですがその光景を、私は月を初めて見た人間のように感動的な気分で見つめていたのです。



 そしてそのとき、

 これまでとは比較にならない規模で、

 威力で、

 破壊力で、


 謎の火の玉が私の目の前に飛んできたのです――。


 

 今度は身を護る暇さえありませんでした。もし私が命を一度だけ護ってくれる伝説のネックレス、“人魚の首飾り”をつけていなければ、あっけなくここで命を落としたでしょう。ですが、まさか、あの伝説のアクセサリーをこんなところで消費するとは思いもよりませんした……。



 シュボッ……。


 とてつもない火力で、フレア――いや、おそらくはフレアよりも上位の魔術によって――この洞窟の入り口と私は吹き飛ばされました。

 とてつもない火炎が私を包み込みました。そのときも、私はもう考えることをやめにしていました。いったいなぜ今度の小休止は長かったのか、いったいなぜ最後の一撃はこんなにも高火力なのか、もうなにも考えないことにしていたのです……。


 そこからの記憶は完全に途切れています。

 後から聞いた話によれば、私は駆けつけた憲兵によってガレキの山から引きずり出されたそうです。

 それから一週間、私は軽い昏睡状態に陥っていました。憲兵にものを尋ねられると、うつろに言葉を返したそうですが、私自身はなにも覚えていはいません。

 ただ、一週間の浅い夢のなかでも、私はフレアを弾き返し続けていました。フレアは絶え間なく私の目の前に飛んできて、私はそれを魔術で弾き返し続けたのです。


「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ

 「ガーディ!」バシュッ……



 ……



 一週間後、私は完全に意識を快復しました。延々とフレアが飛んでくる謎の夢ももう見てはいませんでした。

 そのときちょうど憲兵のひとりが私の病室に食事を運んできてくれました。

 そして彼は、私に向かってこう言ったのです。

 「ガーディリオン様、今、城下町であなたをこんなめにあわせた犯人を探し出しています。きっとすぐに見つかるはずです。どうか、もうしばらくお待ち下さい――」

 「さ、探し出している……? で、でも、いったい、どうやって? ぼくにもなにもわからなかったのに……」

 「私たちが駆けつけたときには犯人の姿はありませんでした。ですが、ガーディリオン様から犯人の顔の特徴とその名前を口にして頂いたので、幸い、現在捜査ははかどっております」

 「顔と、名前、だと……? 」

 「ハイッ」

 


 顔と名前……。

 そうか、どうやら私は、あの最後の瞬間に犯人の顔を目撃したのだ。

 そしてその人物が誰かを特定したのだ。

 そしてこの浅い昏睡状態のなかで、捜査に携わる憲兵たちにその名を告げていたのだ。まったくの無意識状態のままで……。


 「そうか、そうか――!」

 感激して、私はついそう声を荒げました。

 「そうです、そうです!」

 憲兵も私の喜びを感じて、一緒になってハイテンションになってくれていました。

 名前と顔さえわかっていれば、犯人の特定はそう難しくありません……。

 「そうか、して、その名前はなんと言うんだ――? 」

 私は憲兵にそう尋ねました。すると憲兵は、

 「ハッ。ここにガーディリオン様の証言を元に作成した、手配書があります。どうか、これをご覧に――」

 そう言って、憲兵は私に一枚の手配書を差し出したのです。



 ……確かに、そこに描かれていたひとりの男の肖像画は、私にも見覚えがありました。

 というよりも、その人物について私は誰よりも良く知っていた、と言わざるを得ません。

 

 「ぼくがこの男の顔と名前を何度も口にしたというのかね? 」

 私は憲兵にそう尋ねました。

 「ハッ。ガーディリオン様は非常に疲弊した身体で、必死にその男の特徴と名前を繰り返し述べておりました。ハッ、今まさに犯人は捕らわれるかと思われます。もうしばらく、お待ち下さい――」


 「そうか、ぼくが、ぼくが――」

 そう言って私はベッドのうえで泣き崩れました。

 憲兵はそんな私の姿を見て、非常に狼狽していました。

 「そうか、ぼくが、ぼくが――」

 そう言って、私はもう一度手配書の絵に視線を落としました。


 そこに描かれていたのは、私が子供の頃に思い浮かべた宇宙探偵ギズローの敵対者、宇宙海賊ギャズローだったのです。肖像画の下にもはっきりと、「ギャズロー」と記されてしました。 


 私は非常な徒労を感じました。どうやら憲兵たちは、私の言葉を頼りに、この世界に存在しない謎の宇宙海賊ギャズローを追いかけ回しているのです。


 「ああ、はあっ」


 私はなぜか言葉にならないそんな嗚咽を漏らしました。


 「はあっ、はあんっ」



 そして気がつくと、再びベッドの深く後ろ向きに突っ伏して昏睡していたのです――。






 



書き溜めていた分を放出し切ったので、しばらく書くペース遅くなります。

ゆっくりやっていきます(´・ω・`)オス

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