2◇あれ?これ何もやってなくない?
「よっ、と」
気軽な声を出しながら電脳の世界に降り立つ。
まだアーリーアクセスだということもあって、私以外の人はいないけど……
それでもNPCはいるから街として違和感はない。
というか夢のVRMMOを魔法で再現するってあれだね。
魔法はやっぱり科学の代わりになる?
まあそんな小難しいこと考えてても仕方ないか。
それじゃあ早速配信を始めていこう!
タイトルは……
【初配信】『VRMMOって何?』【説明しよう】
うん、若干2ちゃん感が出たけどいいでしょ。
私はシステムに搭載されている『配信』のボタンを押して、記念すべき初配信を始める。
ちなみに所謂『待機所』は既に解放されているので、そこそこ人も集まって……
──5219人が待機中
……目の錯覚かな?
深呼吸して、目を一度閉じてから再度開けて見る。
──5271人が待機中
……いや増えてるじゃん。
全然目の錯覚とかじゃないじゃん。
……ま、まあ始めちゃったもんは仕方ない!
恥も何もかも掃き捨てて始めるぞー!
「ご、5000人以上も私の配信に集まってくれてありがとうございます!」
『こちらこそあるがとうございます』
『初めまして』
まだコメントを打つ仕組みに馴れてないのか誤字が見られるけど、それでもコメントがつくことが嬉しい。
……それにしても文が固くない?
「視聴者のみなさん!もっと軽くていいですよ!」
「それこそ普段家族と話す───」
あ、そういえばこの世界だと、家族同士でも敬語使う人多いんだっけ。特に貴族とか。
「──のとは違って、すごく砕けた言葉でいいですよ!」
「それこそ私は雑用係とでも思って下さい!」
言い過ぎな気がしなくもないけど、これぐらいしないとコメント欄が半お通夜になるからしょうがないよね。
『わかった』
『りょうかい』
さて、いい感じに場が暖まって来たから、自己紹介をしようじゃないか!
「というわけで、改めまして。私はVRナビゲーター、セラスです!」
『ナビゲーターって?』
『VRとは?』
ほむほむ…まあここの人からしたら当然の反応でしょ。
そして残念ながら『バーチャルリアリティー』という説明でも理解してもらえないだろうから、多少誤魔化しながら伝える。
「まあ簡単に言えば、魔法で作った仮想の現実みたいなものです」
だからこんな感じに、と言ってから自分で自分を軽く殴る。
すると、血が出るかわりに赤いポリゴンが散り、赤い文字で『1』と表示される。
「こんな風にダメージを受けても問題ないですし、何なら死んでも復活できます」
今死ぬ方法はないので実践は出来ないんですけどね。
そんな前置きをして場をなごませ……和ませられてるよね?
まあそんな感じで話をしつつコメントを読む。
『ブイアールすごい』
『僕たちにも出来るんですか?』
「一般解放は明日からですね。今やってるのは私が人柱になってるだけです」
一日やって見てリアルの方の体にバグが発生したら……って配信直前に言われたけど、
え?今さらだけど体、バグる可能性あるの?
終わって戻ったら体がポリゴン状になって爆散したりしたらやだよ?
まあ爆散しても手立てはあるからいい……いや、良くないわ。
『あの機械安いよね』
『あっというまに普及した』
『声がカタセ様に似てる』
おっと、見逃せないコメントが。
「私のプライベートは詮索しないほうがいいですよ?第二王女様がバックに着いていますから!」
『ヒエッ』
『ヒエッ』
『わたし、なにも、しらない』
『アッハイ』
インターネットを使いこなすのが上手いなぁ、とか勝手に思いながら解説をはじめる。
「それじゃあまずはステータスについて」
といってもこの世界には形式は少し違うとはいえ、『ステータス』があるんだよなぁ。
だから説明は軽く、ね。
────────────
NAME:セラス
JOB:【軽戦士】lv1
SUBJOB:
REST:
HP:100/100
MP:0/0
BP:+0
str:0【+5】『-204』
vit:0『-204』
dex:0『-204』
agl:204 (+100)【+2】『×2』
【セットスキル】
『速窮の天覇』
【控えスキル】
【称号】
『極窮の覇者』
【持ち物】
『鑑定鏡-lv1』
────────────
私はステータスを表示しながら説明する。
「まずはHPとかMPとかですけど……大体わかりますね。皆さんも普段から使っています通り!あ、HPはなくなったら漏れなく死にます」
この魔法世界、たまにhpが0になっても死なないバグ的なのがあるからね。
通称『不屈バグ』。
使用者は私だけだけど。
だって他の人はバグだと認識してないし。
「それで、ポイント割り振りについてですが~」
◇
かれこれ1時間くらい。
基本システム……主に魔法世界とゲーム世界の違いについて説明してたらあっという間に経過しちゃった。
ちなみに、設定やら何やらの運営は基本アリス達で私は何も関係ないことはちゃんと説明しておいた。
運営の回し者が入ってると興醒めだからね。
『何でagl極振りにしたの?』
『カタ……じゃなかった、セラスさんの趣味でしょ』
『優雅に舞うお嬢様、いいと思わない?』
あっ、確かにそれは説明してなかったっけ。
あと二番目の人は後で体育館裏な。アリスが呼んでるよ。多分。
というか、知らない間に私がお嬢様扱いになってるのは反応しにくい。
そういうの清楚お嬢様は私の担当じゃないのに……
「何でagl極振りにしたのかと言いますと、まあ、楽しそうだからですね!」
ちなみに盛大な建前である。
実際は想定以上の速度で動いてゲームをバグらせてみたいという邪なあれそれ。
『なるほど』『理解』
『何か裏ありそう』
『ほんと?』
「ははは、私が嘘言うわけないじゃないですか。本当はこのゲームをバグらせてみたい、とか思ってないですよ?」
『あっ』『あっ』『あっ』
「あっ」
セラスと視聴者さんたちの発言が初めて完全に一致した瞬間である。
「さ、最後に視聴者さん達の呼び方を決めましょう!」
『ごまかした』『話そらした』『なんで?』
『視聴者じゃないの?』
「第二王女様いわく、この先配信者増やすらしいから。その時の対策ですね」
徐々にですます口調が崩れつつあるけど気にしない。
……気にしないったら気にしない!
「何がいいと思います?」
『なるほど』『抹殺され隊とか?』『親衛隊?』『カタランセは?』『執事』『下僕?』
すごく愉快かつ頭おかしい案が沢山でてくる。
君たち、さてはVになれてる?……まさかね。
あとここぞとばかりに私の正体をバラそうとするね、君たち。
『異世界探検隊』
……これにしよう。
こういうのは直感が最重要だからね。
「それじゃあ今後は『異世界探検隊』…だと長いかもなので『いたい人』で行きましょう!」
『い』せかい『た』んけんた『い』。略していたい人。
完璧だね!
『え?』『は?』『うん?』
『どういうこと?』
「『い』せかい『た』んけんた『い』…ほら、完璧!」
流石に冗談。リスナーさんは大事にしないとね。
そうね…何がいいかな……
『まあよくね?』『いい感じじゃん』『決定』
え?
『『我らいたい人軍団!』』
うん?あれ?
……?
まあいっか!!明日以降の私に全部ぶん投げよう!
「はい!長時間の視聴ありがとね!いたい人達!それじゃあまた今度!」
当初の口調がどっかに吹き飛んだり、呼び方が想定から135°ぐらいずれてる気がしなくもないけど、まあいいや!
うん、なんくるないさー
◇
ふぅ、初めての配信だったけど上手くいったなぁ。
……あれ?なんか忘れてね?
あ、レベルとか戦闘とかしてないじゃん。
やば、広告塔兼人柱として不味くね?あれ?
「アリス、戦闘するの忘れたけどどうしよう」
あ、問題ない。そうですか。
よし、アリスが良いって言ってるんだし良いよね!