表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

9. ヒロイン

翌日、あの派手な馬車に揺られ学園へと登校すれば視線が痛いほど突き刺さる。

両親はそんなことなどお構いなしに屋敷から通学させているが、私の繊細な心を傷付けるのは止めてもらいたい。

そんなことを思いながら馬車を降り、早足で教室を目指した。

あの場に長く居たくないのだ。

ゆっくりと扉を開けば、騒がしかったはずの教室が一気に静まり返りまだ昨日の出来事が後を引いているのかとため息をこぼす。


「おはようございます、リリアナ様。今日は殿方とご一緒じゃありませんのね。」


出たよ、リリアナの代役。

悪役令嬢擬きの侯爵令嬢セリーヌだ。

まあ良い機会かもしれない。

ヒロインとの出会いがある前に、私の立場を確立させておきたい。

それには悪役令嬢リリアナの出番だ。

OL時代に嫌味を言い合う女子同士を横目に見ていたし、子供の彼女を屈服させるなんて簡単なはず。

大人げないとは思うが、今回は仕方がない。

そう考えてセリーヌへと向き直った。


「そんなに殿方が気になるなら自分でお誘いになってはいかがですか?わたくしは殿方を引く魅力があるみたいですけど…貴女にはなさそうですわね。」


くすりと笑みを浮かべて言うとセリーヌの顔が怒りに染まっていくのがわかる。

そりゃむかつくよね。

我ながら良い言葉をチョイスした!

セリーヌは確かに可愛いが、リリアナの魅力には敵わない。

そこをつつけばいけると思ったが正解だったようだ。


「そんな言い方、酷いと思います!」


いきなり凛とした声がどこからか聞こえてくる。

誰だと視線を動かすとそこには一人の少女が立っており、その容姿を見てまさかと目を疑った。

栗色のセミロングヘアに大きな青い瞳。

少し幼さを残しているが、彼女はこのゲームのヒロインだ。

見間違うはずがない。


「何方か存じませんが、いきなり人の会話に入るのは失礼ですわよ。」


内心はパニック状態だが、平常心平常心と何度も唱え公爵令嬢らしい指摘をしてみる。


「ごめんなさい、見ていられなかったものですから…。私はメアリー・メル・メラルロットと言います。先程の言い方は酷すぎます。セリーヌ様が何をされたというのですか?」


「セリーヌ様は何もされていませんわ!」


「いきなりリリアナ様が…!」


まじか。

悪役令嬢…ほんとに私になってる。

そりゃあの言い方を選んだのは私だけど、ヒロインが出てきたらこんなに簡単になっちゃうものなの?

言ったのはセリーヌ嬢に対してだけだし、死亡フラグ回収にはまだ関係ないよね…??

ちょっと心配にはなってきたけど、この教室には私を援護してくれる仲間が居ないということだけは理解できた。

そして、立場を確立するのも無理らしい。

昨日の王子達による婚約申し込みのせいで、令嬢達の怒りを買ってしまったのだろう。

私のせいではないのに…酷いものだ。

今も女子生徒から睨まれ、男子生徒は見ない振り。

こんなか弱い女子が大勢に囲まれているのに酷い男だと思いながらも、こんなことを考えてる時点でか弱くないのかと一人納得してしまう部分もある。


「リリアナ様、先程の非礼。セリーヌ様に謝罪して下さい。」


そういったメアリーに思わずは?っと声が漏れそうになった。

なんで私が謝罪なんかしないといけないの?

そもそも昨日喧嘩売ってきたのはセリーヌの方で、それを知らないのに状況把握した気になってるのか。

ものすごーくヒロインは鬱陶しいのだが、変なことを言い返してフラグ回収回避が出来なくなることだけは避けたい。

なにかいい方法はと迷っているといきなり肩を抱かれ、視線を向ければ王子達の姿があった。

タイミング悪すぎるでしょとその状況に溜め息が出る。


「リリアナ、おはよう。この状況は一体何かな?」


「…別になんでもありません。」


「何でもなくないです!リリアナ様がセリーヌ様に酷いことを!」


「酷いこと?それは逆じゃないの。昨日といいセリーヌ嬢は目に余るね。」


「昨日のことは存じませんが、先程の言い方は酷すぎると思います。」


「リリアナちゃん、何て言ったの?」


「……。」


「王子様の前では言えませんか?」


「そんなに殿方が気になるなら自分でお誘いになってはいかがですか?わたくしは殿方を引く魅力があるみたいですけど…貴女にはなさそうですわね。そう言いましたの。これで満足ですか?」


「あはは、リリアナちゃんすごい!ほんとのことしか言ってないじゃん。嫉妬するのはいいけど、君とリリアナちゃんじゃ天と地の差だよ。俺は君みたいなタイプにどれだけ言い寄られても全く嬉しくないし、煩わしいだけ。」


「同感だね。」


「…。」


王子達からそんなことを言われてしまえば、セリーヌの立場はない。

瞳からたくさん涙を溢れさせながら教室を出ていってしまった。

それを見ていたメアリーはドレスの裾をぎゅっと握り込み、私を睨み付けてくる。

え、私?

確かに最初に言ったのは私だけど、泣かせたのは王子たちで私じゃないでしょ。

なんで女って男が悪くても同性の方に矛先が向くんだろ。

そんなことを思いながら真っ直ぐに彼女の目を見ていると唯一黙っていたニコラス王子が私の前へと立ち、その視線を遮る。


「誰か知らないけど、俺のリリアナに失礼な事を言うの止めてくれ。」


「失礼なことって、私はただ…!」


「ニコ、今の俺のってなにかな、俺のって。違うよねー?リリアナちゃんはまだ誰のものでもないっしょ?」


「いずれ俺の婚約者になる。」


「ニコラス王子、それは間違っているよ!リリアナは僕の婚約者になるんだ。」


ニコラス王子が言った"俺のリリアナ"発言で、不毛な争いが始まり余計に周りから睨まれ始める私って本当に可哀想だ。

そう思っているとメアリーの矛先が彼らに変わったようでぷるぷると震えながら口を開いた。


「王子様方も酷いです。リリアナ様がいくら魅力的な方でもセリーヌ様にあんな言い方…。」


これか!

これなのか!?

王子に対して臆せずに物事を言うこの態度に引かれるのかな!?

まさか自分の目でその瞬間を見られるなんてと王子達の影からそっと顔をだし、どうなるのかとわくわくしながら状況を見守っている。


「…あぁ、まだ理解してないのか。頭悪いね、君。」


え!?

シェリル王子ってクールな優男キャラだよね…?

あれ、おかしいな。


「仕方ないから説明するけど、昨日セリーヌ嬢は初対面のリリアナに対して殿方をはべらかしていい身分だとそういったんだ。また今日も似たようなことを言ったんだろうね。」


「…。」


「それと、君何様のつもり?僕これでも王子だからそういう態度されると気分を害するんだよね。」


「…も、申し訳ございません。」


今まで一度も見たことがない程冷たい態度を取るシェリルは相当怒っているようで、メアリーは泣きそうになりながら頭を下げるが機嫌は一向に良くならないようだ。


「僕に謝られてもね。君が謝るべきはリリアナだろう?正義感で動くのはいいけど、迷惑をかけないでくれないか。」


そういえばシェリル王子は婚約破棄を告げるときこんな感じだった。

まてまて。

なんでヒロインにその態度だしちゃってるの?

え、この王子のうち誰かとヒロインはちゃんと上手くいくんだよね…?

なんか不安になってきた。

本来の物語であればありえないこの状況にどうしたものかと頭を抱えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ