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8. 全寮制の特待枠

セリーヌ嬢との一件はレスティアが戻る頃には落ち着き、寮への案内人として紹介された侍女のナディに促されるまま皆、歩き始めた。

リリアナもまた彼らと同じように歩き始めれば、レスティアに呼び止められる。


「君は寮生じゃないだろう?公爵が迎えに来ているよ。」


「え?」


「リリアナ!パパのリリアナ、おいで。」


いきなり現れたのは誰もが振り向くイケメンの父、ルーディリッヒ公爵だ。

大きく広げられた腕が駆け寄ってくるのを待っているが、何度も言うように私は元アラサーだ。

駆け寄っていくほどファザコンでもない。

そもそもこの学園は王族であろうと寮で生活するという規則があったはず。

それなのになぜ父が迎えに来ているんだろうか。

もしかしてまた私に隠して何かしたのかとじっと彼を見れば痺れを切らし自から抱きついてきた。


「リリアナ、会いたかったよ!」


「お父様がなぜこちらに?」


「お父様!?パパの間違いだよね?そんな他人行儀な言い方…またパパを泣かせるつもりかい…?」


「…パパ、なぜここに?」


「それはもちろん屋敷に帰るためだよ。」


「この学園は全寮制だと記憶していたけど…。」


「そうだよ。でもリリアナは特別待遇で屋敷から通う許可が出てるんだ。だから問題ないよ。」


「特別待遇…何したの…?」


「何もしてないよ。ただ、王家の子息達がどうしてもリリアナと一緒に学園生活を送りたいというからその代わりに寮生活を無しにするよう交換条件を付けただけさ。」


この人は全く、笑顔でなに王家を脅してくれているんだ。

それにだ。

学園での寮生活は王子達のイベントが満載である。

もちろん断罪は避けたいが、せっかくゲームの世界に転生したのだからそれなりには自分の目で確認したい。

ヒロインと会うのも寮だった気がする。

でも父のこの感じからして私が学園生活中に寮へ行くことはないだろう。


「リリアナ?やっぱり学園で疲れてしまったんだね。パパが抱っこしてあげるよ。」


「え、え?」


いきなり感じる浮遊感に思わず父の首に腕を回す。

それに嬉しそうな表情をしている彼は満足げでレスティアに軽く会釈するとゆっくり歩きだした。

下ろして欲しいと頼んではみたものの全く聞き耳を持っていないようで用意されていた馬車にそのまま乗り込む。

相変わらず派手な作りだ。

外観は汚れひとつない純白と空を舞うように金色の天使が描かれ、青薔薇が咲き乱れている。

内装は青薔薇に合わせ青色で統一されており、広々とした作りだ。

この馬車は私のためにばか高いお金を費やし、ロベリア王国で5年も掛けて作ってもらったという代物。

馬車を引く馬にもこだわっているらしく、白い身体と金の鬣。

そして強靭な肉体を持つものを何年もかけて吟味しその子供を邸で育てていたとか。

それだけしてもらって大変申し訳ないが、正直な話私には色以外の違いは全くわからない。

ただ、この馬車が走る度にルーディリッヒ公爵令嬢だと気付かれるのは何とかしてもらいたいものだ。

そんなことを考えながら窓の外へ視線を向けていると見慣れた景色へ変わっていく。


「もうすぐ屋敷に着くよ。お腹空いただろう?今日はリリアナの好物をたくさん作るとララ達がはりきっていたね。」


「…それは楽しみ。」


朝の支度をしていたときに彼女が言っていた"期待していて下さいね"はそういうことだったのかと思い出してふふと小さく笑うと父がいきなり顔を押さえて震え出すのが横目に見え、何事かと視線を中へと戻した。


「どうしたの?」


「…リリアナ、君は可愛すぎるよ。これ以上、パパを虜にしてどうするつもりだい…?」


「本当にそうよねぇ。ママもあまりの可愛さに学園に通わせるのを止めてお屋敷に閉じ込めてしまおうと思ったわ。」


いつの間にか乗り込んでいた母まで真面目な顔をして言うものだから言葉に詰まってしまう。

この人たちはまた何を言い出しているんだ…。

そう思いながら困った顔をしていると嬉しそうににこにこと笑みを浮かべた二人に外へと促された。

大きく開かれた扉を抜け広間へ入ると同時に漂ってくる良い匂いにお腹が主張してきた。

そういえば、朝は緊張してあまり食欲がなかったんだっけ。

屋敷に戻ってくるならあんなにも気合いをいれる必要は無かったと溜め息しか出ない。

リリアナに転生してから完璧なまでに箱入り娘として育てられてきたため、自分が本当に学園で通用するのか少なからず不安があったし、これからどのように振る舞うべきかも決めかねていたところだった。

それはゲーム上で知っていたリリアナと私との差があまりにも大きすぎるからである。

彼女は学園に入学してすぐその才能を認められ地位を確立していく。

しかし、私は未だに乗馬すらできない。

これも偏に両親と兄達がありえないくらい過保護なせいだ。

全てに制限が付けられているため、出来ることといえば庭でのお茶会や書室での読書かあのつまらないチェス擬きをやるくらい。

外出も毎日おねだりしてやっと行くことのできる先は父を伴っての領地巡りのみで、2ヶ月に一度しか許可が下りないって軟禁状態じゃん…。

まぁ、大切にされること自体はとてもありがたいことだけど侍女達までそれに賛同してしまっているから監視の目が厳しすぎて漫画によくあるお忍びなんて出来たこともない。

だからこそ学園への入学で監視の目から抜け出せると期待したのにこれだ。

本来であれば小言でも言いたかったのだが、両親や侍女達の満面の笑みに何も言えず食堂へと入っていくのだった。

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