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7. 婚約者候補

二人が教室を後にしてから数分も経たないうちに茶髪の男性が静かに入ってくる。

濃い紅の瞳と細められた視線にキツそうな印象を受けた。


「皆、初めまして。私はオーランド・レスティア。君たちの卒業までを担当することになった。何か質問があればいつでも歓迎するが、今私から特に話すことはない。寮への案内準備が整うまでの1時間。各自自由に過ごすように。」


そう言った彼は持ってきていた資料を片手に足早に教室を出ていく。

学園長の長い話と違い、簡潔だ。

あまり話す人ではないようで、それはそれで楽でいいかと視線を周りへと移した。

始めは突然の事に戸惑っていた子息令嬢達も交友を深めるべく近くの者に話しかけてみたりと忙しそうだ。

私はといえば入学式の一件もあるため自分から行くのは何となく躊躇してしまい、どうしたものか視線をさ迷わせる。


「シェリルじゃん。やほー。」


「エヴェレット皇子?久しぶりだね。」


「だーかーら、エレットでいいって。皇子とか公の場ならともかく今はいらないっしょ。それより、その子誰?」


「あぁ、彼女はルーディリッヒ公爵家の令嬢でリリアナだよ。」


「お初にお目にかかります。エヴェレット皇子様。」


公爵令嬢として恥じないお辞儀をして視線をあげれば金色の瞳としっかり目があった。

艶のある黒髪に映えるその瞳は少しつり上がっており、やんちゃそうなイメージを受ける。


「え、本当にあの…リリアナちゃん?」


「あのというのはどういう…?」


「俺と婚約しよう!あ、呼び名はエレットでいいからね!」


「え?」


「何度も連れて来るようにって頼んだのにルーディリッヒ公爵がOKしてくれなくてね。ずっと会いたかったんだ!」


「エレット!!リリアナと婚約するのは僕だよ。」


「まだ婚約できていないんだろ?なら俺にも権利はあるよねー。リリアナちゃんはどう?俺これでも一応ロベリア皇国の第二皇子だよ。王位継承は兄がするだろうけど、君を幸せにできる力は持ってる!」


「い、いきなりそんなこと言われましても…。」


どうして良いのかわからず助けを求めるべく視線をさ迷わせるとおっとりとした雰囲気の令嬢の一人と目が合った。


「エヴェレット皇子様もシェリフォール王子様も強引ですわ。リリアナ様が困っていらっしゃいますよ?」


「ごめんごめん。でもさっきの本気だからちゃんと考えてね?もちろん俺の魅力に気付いて貰えるようにこれから毎日アピールするから。」


ウインクしながら言う彼にまたシェリル王子みたいなのが増えるのかとため息をこぼしながら仲裁に入ってくれた彼女へとお礼をいうべく向き直った。


「殿方をはべらかせて良いご身分ですわね。」


優しげな表情をしていたはずの彼女だったが、先程までの雰囲気は一掃され、怖いくらい鋭い視線を向けてくる彼女に思わず言葉を飲み込んだ。

この感じだ。

悪役令嬢に相応しい態度。

でもおかしいな。

私が悪役令嬢のはずなのに、なんでこんなことになっているんだろう。

そもそもこの子誰だ。

記憶を手繰り寄せてみても、まだヒロインが登場していないだけあってあまり情報は多くない。


「セリーヌ…その言い方はよくない。」


最上部の席で眠っていた紺色の髪と白銀の瞳の彼は厳しい表情で彼女を見ている。


「ニコラス王子様までリリアナ様の肩を持たれるのですね…。」


「セリーヌ様がお可哀想ですわ!!」


「リリアナ様はお茶会にも参加されないような非常識な方なのに!」


教室にいる令嬢皆が口々に言い始めるリリアナへ悪意の籠もった言葉の数々。

え、ホントにナニコレ。

物語変わりすぎてません??

私、一応悪役令嬢として断罪される身のはずなんだけど。

それに私、そこまで言われるようなことした?

王子に恋愛感情を持つのは勝手だけど私を巻き込まないで欲しい。

段々腹立たしくなって来たがまだ早いかと少し様子見するべくそのまま口を閉じていた。

そんな私に何を思ったのか、シェリル王子が守るように前へと立ちふさがる。


「セリーヌ嬢、その言い方はよくない。リリアナは何もしていないじゃないか。」


「そうでしょうか?わたくしにはリリアナ様が高嶺の花とされる王家のご子息を無下に扱っているようにしか見えませんわ。物言いも上から目線ですし。」


「…う、上から(まぁ、確かに…中身は年上だし)。」


「無下に扱われてるかどうか判断するのは君じゃなく僕らだ。僕はリリアナにそんな扱いを受けていると思っていないし、婚約を断られるのは僕の不徳の致すところだね。」


「そうそう。てかさ、セリーヌの隣の君なんて名前だっけ?子爵令嬢なのは覚えてるんだけど、まぁいいや。あんたが言った茶会に参加しないとかってやつ。俺たちが勝手に参加不参加なんて決められるわけないだろ。ルーディリッヒ公爵が決めることだ。」


「そ、それは…。」


「さっきリリアナのお兄さん達見て思ったけど、家族にすごく大切にされて育ったんじゃない?それってどこの令嬢も一緒じゃないの。それとも君のところはあまり可愛がられないとか?」


「そ、そんなことありませんわ!」


「ならなんなの、さっきの言い分。俺あんまり下らないこというやつ好きじゃないんだ。名前教えてよ、君の両親に会ってみたいし。」


エヴェレット皇子のその言葉に彼女は泣き出してしまった。

はっきりとした物言いは異性であろうと関係ないようで、泣いているのを見ていても心配そうな表情を見せることはない。

私でも流石に可哀想なんて思ってしまったのに中々の強者だ。

しかし、なんでこんなことになったんだろうか。

庇ってくれるのはありがたいが、こういうのを逆効果というんじゃないだろうか?

きっと王子がいないところで悪口を言うようになるだけだろう。

想像するだけで気分が下がる。

そんなことを考えていると腕を引っ張られそのまま教室の外へと連れ出される。


「大丈夫か?」


「え?」


「辛そうな顔していたから。」


「ニコラス王子様…心配して下さったのですね。ありがとうございます。」


「ニコで良い。未来の妻になる人だし…な。」


「今なんて?」


「ルーディリッヒ公爵から聞いていないのか?」


「何をですか?」


「…そうか、聞いていないのか。」


「??」


「ルーディリッヒ公爵家にはシェリルのフリージア王国だけじゃない。エレットのロベリア皇国、それに俺のアザレア王国も婚約の申し込みをしている。まぁ、全てあの公爵に却下されたけどな。」


「そ、それは初耳です。」


「小さい頃、公爵が城に来たときに見せてもらった写真の子に一目惚れした。あの頃より、もっと可愛くなっていたんだな。」


少し照れたようにいう物言いに不覚にもキュンと来てしまい相手は子供だと自分に言い聞かせた。

ここの男子ときたら無駄に顔が良いし、優しいしなんなんだ。

元アラサーの私をキュンとさせるなんて子供とはいえ侮れない…。

しかし、いつの間にか三国の王子全てが婚約者候補になってしまっている。

このゲームは王子一人一人が各ルートとして存在し、リリアナがその一人と婚約すればその婚約者とヒロインが心を通わせる。

そんな話だったはず。

だから私は王子である彼らの誰も選ぶことはできないのだ。

まさか三人とも婚約してくれアピールをしてくるとは思わなかったが…。

それも現時点では悪役令嬢の座はセリーヌに譲っている。

これ、ヒロインが現れたらどうなるんだろ?

急にセリーヌ嬢からバトンタッチして私が悪役令嬢化するのかな。

知っている世界との違いに何がなんだかわからないと頭を抱えながらもニコラスから向けられる視線を逃れるすべもなく、あははと小さく笑って何とかその場をしのぐのだった。

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