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5. 過保護

あれから数ヶ月。

シェリル王子が1日置きに現れること以外は平穏な日々を過ごしている。

また、書室にある本を読み漁り難しい言葉を覚えたことで拙い話し方も克服することができた。

両親はといえば公務で忙しそうにしているが、1日3回の食事に加え、ティータイムにまで必ず帰ってくるという徹底ぶり。

そして就寝前の読み聞かせも必ず行われるため寂しいという感情が起こることはない。

まぁ、そもそもアラサーの私が寂しいと思うのはおかしな話だ。

それに、あの二人…というかルーディリッヒ邸にいる皆が皆、リリアナに対して異常な程の過保護精神を発揮してくる。

3日前もそうだ。

令嬢の嗜みである乗馬の練習をするべくララに腕の良い先生を呼んでほしいと頼み、準備万端のパンツ姿で庭に出たはずだったのだが、何故か案内されたのはガーデンパーティー用のパラソル付きテーブル。

オレンジジュースと最近お気に入りの木苺ジャム入りスコーンが用意されており、椅子へと促される。


「ララ、乗馬は…?」


「今から始まります。」


「え?」


「旦那様はお嬢様の企画された乗馬会に出席するとご公務をお休みされたんですよ?」


「乗馬会って…私そんなの企画した覚えないけど。」


「昨日話されてたじゃありませんか!乗馬されたいと。」


「うん、言った。」


「ですからこうして準備いたしました!」


自信満々の笑みを浮かべて言う彼女だが、想像していたものと大分違う。

私としては先生にマンツーマンで乗馬のなんたるかを教えてもらうつもりでいた。

しかし、この状況はなんだ。

父が馬に乗る姿をスコーンを食べながら見ているだけという。

いや、スコーンは美味しいし罪はないけれど。


「リリアナ、どうしたの?このスコーンは最近のお気に入りじゃなかったかい?」


「そうだけど、乗馬…。」


「あぁ、パパは乗馬が得意なんだ。」


「そうじゃなくて、私も馬に乗りたい!」


「それはダメ!絶対にダメ!」


「え…なんで。」


「可愛いパパのリリアナが落馬でもしたらどうするんだい?そんな危険なことはする必要ないよ。」


「でも公爵令嬢として…。」


「あぁ、書室にある令嬢の嗜みを読んだんだね?あれはリリアナが生まれてから不要にしたんだ。破棄するのをすっかり忘れていたよ。」


「不要にするって…フィニッシングスクールはあるでしょう?」


そう言ってはみたがフィニッシングスクールなどこの世界に来て初めてその存在を知った。

なんでも未婚の若い女性のために、結婚前に備えるべき社交的なものや文化的な教養(文学、芸術、音楽、歴史その他)やマナー、プロトコール、社交術、化粧、美容、料理、家事など全般を教える学校だと。

そんなことが本に書かれていた。

となると当然、リリアナも通うべきところだ。

しかし、父は反対のようで眉間に皺を寄せている。


「あるにはあるけど、行かせるつもりはないよ。乗馬、武術、狩猟なんて項目もあるんだ。そんな危険なことをさせる場所に行かせてリリアナに何かあったらどうするんだい?そのスクールを廃校にするだけではパパの気持ちが収まらないだろう。それにそもそもリリアナを結婚させるつもりは一切ないからね。婚前に備えるものなんて一つも必要ないさ。」


うん。

これはどこから突っ込んだら良いんだ。

私には令嬢としてのステータスも要らないと言いたいのか。

兄たちが話していたサイネリア学園もそのスクールに当たるのだが、そこは格式も高く、諸国の王子王女が通うだけあって警備も厳重である。

だからこそ私も当然入学するものだと思っていた。

しかし、通わせるつもりがないなんて親バカにもほどがある。

リリアナはどうやってこんな父親を説得したのだろうか。

とりあえず、学園に通いたいという意思を伝えてみるが頑なにダメだと言われ、正直お手上げ状態だ。


「ダメなものはダメ。それよりせっかくの美味しいスコーンが冷めちゃうよ?」


「…。」


「怒ってもダメだよ。その表情はとっても可愛いけど、パパはリリアナが目の届く範囲に居ないと心配で何も手が付かなくなってしまうからね。だからパパのためにもずっと屋敷に居るんだよ。」


不安げな表情を見せながらも疑問形を使わない言い方をする父に今何を言っても無駄かと大きなため息を溢す。

母や兄が帰ってきてくれればもしかしたらチャンスがあるかもしれない。

正直、死亡フラグは避けたいがずっとここに引きこもるのは暇すぎる。

元の世界なら仕事もせずゲーム三昧できる環境に両手を上げて喜ぶのにと思ってしまうが、あくまでも元の世界であればの話だ。

この世界での暇つぶしといえば歴史の書かれた本や大して興味のない童話の数々を読むことくらいで、唯一のゲームも兄が持ってきたチェス擬き。

つまらなすぎて名前すら覚えていない代物だ。

これからどうしたものかと思案していると忙しない足音が聞こえてくる。


「「リリアナ、ただいま!」」


「お帰りなさい。」


「あぁ、ウィリアムにローレンスか。お帰り。」


「父上だけずるいよね。リリアナ主催の乗馬会、僕も出たかったよ。」


「あんなどうでもいいパーティーなんて勝手にやったらいいのに。」


文句をぶつぶつ言いながらもリリアナの両隣の席に着き、満足げだ。

父も彼女の前の席へと座ればティータイムを始めるらしく、侍女達が紅茶や色とりどりのケーキを並べていく。


「兄様達はパーティで食べてきたのでは?」


「ううん、リリアナとのティータイムがあるから全部断ったよ。」


「僕も。」


「いいの?社交の場でしょ?」


「父上、別に問題ないよね。」


「あぁ、出席さえすればそれでいいさ。」


「本当にそういうもの?」


「そういうものだよ。さ、せっかく準備してくれたんだ。食べようか。」


優しい笑みを浮かべている父に促され、兄達も綺麗に盛られたケーキを食べ始める。

同じようにケーキを食べてみるが、やっぱり木苺のスコーン美味しすぎてそっちばかりを食べてしまう。

勝手に浮かんでしまう口元の笑みを見た父はリリアナのムッとしていた表情がなくなったことに安心したようで、差し出された紅茶でゆっくりと喉を潤すのだった。

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