33. 治癒と黒魔術
2週間が過ぎ、メアリーによって呪いを施されたことで傷痕も残ることなく治癒していた。
元より過保護だった彼等は更に過保護になったのは言うまでもなく。
ララとセルジオによる監視の目があるため、外出は勿論。
部屋の外に出ることもままならない。
「ララ?書室に行きたいんだけど…。」
「何をご所望ですか?取りにいかせましょう。」
「見ながら決めたい、かな。」
「では本棚の目録を持ってこさせます。」
「そうじゃなくて!ずっとベッドに居るのも退屈だし、少しは身体を動かなさいと…。」
「まだお医者様の許可が降りてませんよ?あと一時間程でティータイムの時間ですから。皆様こちらに集まられます。」
「…それもう日課だよ。」
同じように繰り返される毎日に小さくため息を溢しながら窓の外へと視線を移せば、青薔薇が綺麗に咲き乱れているのが見える。
こうなることは屋敷を出ると決めた時点で何となく察してはいたが、黒魔術師との対峙がこんな簡単な幕引きになるとは思わなかった。
学園で出会った時のような異常さはユリウスの姉という彼女からは一切感じられず。
ただ、服装だけで黒魔術師と判断したというのに過ぎない。
本当に彼女だったのか。
腕に掛けられていたはずの禁呪は確かに解かれたようだが、全てにおいて納得がいかないのだ。
悪役令嬢であるリリアナが死亡フラグを回収する要因としてのシナリオだとしても簡単に事が進み過ぎているのではないだろうか。
アザレア城を逃げ出してから船に乗り、ユリウスと出会い、そしてそのユリウスは黒魔術師と姉弟の関係というレールに沿ったような物語の流れは操られたかのようで。
そもそも何故私は城を抜け出すのに至ったのか。
確かにララとセルジオの己を犠牲にする言葉に危機感を覚えたものの逃げ出すことは考えていなかったはず。
ただ、二人が傷付かないように細心の注意を払って行動しよう。
そう思っていた。
なら何故…。
「…お嬢様…リリアナお嬢様?」
「え?」
「どうされましたか?まさかご気分が悪いのですか!?すぐに医者を!」
「ち、違うよ!ちょっと考え事をしていただけで…。」
「考え事、ですか?」
「うん。今回の出来事、何だか腑に落ちなくてね。」
「ララもそう思います。あの二人がリリアナお嬢様を狙う黒魔術師なのであれば弱過ぎますから。」
「弱過ぎるって…。」
「セルジオもそう思ったのではないですか?一度斬っているでしょう。」
「あれとは全くの別物ですね。もしかしたら黒魔術師の本来の形は、あの二人なのかもしれません。」
「何の話かな?」
ガチャリと扉が開くとアルバートが中へと入ってきた。
ティータイムには少し早い時間のはず。
家族の中でも超が付くほど過保護な父のことだ。
執務を抜け出して様子を見に来たのだろう。
「リリアナお嬢様が今回の一件に疑問を持たれているようでしたのでお話を。」
「なるほどね。パパもあの二人が全てだとは思えないな。魔女狩りとカートルでは年代が違い過ぎる。それに元は白魔術師も黒魔術師も特殊な能力を持つ女性という意味では同じはずだ。そう考えるとこの辺りに今回の出来事の鍵になる過去がありそうだね。」
「そういえば、黒魔術師はカートルから生まれたものだとユリウスさんから伺いました。それに禁呪もアザレアとカートルでは違う意味を持つとか…。」
「…旦那様。」
「うん、ユリウスと彼女をすぐに保護しないと。」
「え?」
「彼等は生きた証人というわけですか。カートルを滅ぼした理由、聖女の百合は表向きの目的と。」
それはつまり二人が狙われているということ…?
一刻も争う事態にどうしてもっと早く考えなかったのだと後悔するが今はそれどころではない。
つい先日、城が気になるからと二人を見送ったのだ。
たとえ黒魔術を使えたとしてもララとセルジオと対峙した時の彼等は大人と赤子くらいの実力差があった。
無事でいて。
そう願いながら船の用意を急ぐ彼等を眺めるのだった。