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32. 生命と復活

暫く黙り込んでいた黒魔術師だったが、フードを外していくのが見えた。

ユリウスと同じ赤い髪に銀色の瞳の彼女はとても綺麗な女性で、無表情のままこちらを見据えている。


「?」


「…お願いがある。」


「何でしょう。」


「カートルのために貴女の生命を分けて。」


「わかりました。」


「リリアナ!?」


「?」


「生命を分けるということは身体にとても負担がかかるんだよ!?パパは絶対に認められない。」


「どうしてですか?カートルを復活させられたらもう誰かを襲ったりしませんよね?」


「俺がさせないよ。」


「でしたら私に迷いはありません。どうすれば良いですか?」


彼女に一歩近付こうとしたリリアナだったが、腕を捕まれ動くことができなかった。

痛いくらい強く握られたそれに父の怖い表情が見え、少し驚いてしまう。

彼はリリアナに対してだけは強引なことをするのを避け続けていたのだ。

それをさせているのは生命を分けるという自己犠牲を伴うものに平気で赴こうとしている彼女を見たからだろう。


「リリアナ、ごめんね。」


「?」


「パパのこと嫌いにならないで。」


「それはどういう…。」


腹部に感じた強い痛みに意識が遠のく感覚。

彼の腕にもたれ掛かるようにそのまま眠りに落ちたリリアナを抱き上げながら大きなため息を溢した。


「純粋無垢に育ってくれたのは父として嬉しい限りだけど、自己犠牲は困るな。」


「リリアナお嬢様はお優しいですから。」


「そんなリリアナ様だからこそお慕いしています。」


「うん、そうだろうね。私もリリアナのそういうところを含めて愛おしく思うよ。でも、禁呪を掛けて殺そうとしていたのに虫が良すぎるとは思わないのかな。」


「殺そうとはしてない。ただ、少しリリアナの生命を分けてもらっていただけ。」


「合意のないそれは殺そうとしているのと変わらないだろう。」


「それは姉上が悪いです。」


「合意してくれたとは思えないけれど。」


「しないな。」


「それならこの選択も仕方のないこと。私はカートルを復活させるためなら何でもする。」


「旦那様、ここで彼女を亡き者にするほうが良いのではありませんか?リリアナお嬢様をいつまでも狙われては困ります。ご指示頂ければこの場で…。」


「そうしたいところだが、リリアナに嫌われるよ。」


その言葉に先程までギラギラとさせていたはずの視線を落とし、シュンと枯れた花のように小さくなっていく。

リリアナお嬢様に嫌われるくらいなら生きてる意味がない…。

死のう。

ぶつぶつと呪いの呪文のように呟き始めたララにセルジオは呆れたように小さくため息を溢していた。


「現状のリリアナの生命を分けるのは却下だが、アザレアによる暴挙を止められなかったのは私にも責任の一端があるだろう。」


「…。」


「カートルの復活とはどの程度のものだ?亡くなった者達も生き返るのか?」


「生命を対価にするとはそういうもの。」


「国を戻すことは出来るが、生き返らせるとなると厳しいな。他の聖女じゃ務まらないのか?」


「務まらない。」


その言葉にどうしたものかと頭を悩ませる。

リリアナが聞けば当然のように私がやりますと満面の笑みを浮かべて言うのだろうが、彼女が傷つく所は少しも見たくない。

まだ生々しく残っているであろうナイフでの刺し傷を思い出しただでも苛つくというのに。

ただ、リリアナの代わりがいないこの状況はやらないという選択肢はないに等しく。

代わってやれない自分の不甲斐なさに大きなため息を溢した。

あれから彼らとの話し合いが重ねられ、身体の弱っている状態である今のリリアナでは生命を分ければ本当に命を落としかねないからと期間を設ける事になったようだ。

船に戻ったララはすぐさま寝所を整えるべく動き出し、セルジオもまた危険がないか確認するようで船の中と外を細かくチェックしている。

そんな彼らを眺めながら、リリアナの髪を弄び顔を綻ばせていたアルバートだったが、痛みで眉間に皺を寄せ始めた彼女に直ぐ様船に乗せていた医者に診るよう指示を出せば、ベッドに寝かされた。

開けた腹部に巻かれた包帯。

ゆっくりはずすと赤く滲んでいるのが見え、ガーゼを外せば思っていた以上の酷い有り様に目を見開く。

まともな食事をしていなかったのか。

肋が浮き、細くなった身体にその傷は余計に痛々しく見え。

丁寧に消毒され新しいガーゼと包帯を巻き終わると医者は静かに出ていった。


「どうして…ナイフなんて…痛かっただろうに…。」


頬を伝った一筋の涙はリリアナの手にぽたりと落ちていく。

見守るように遠くに居たララとセルジオは暫く二人きりにするべきだろうと席を外したようだ。


「公爵様、相当参っているな。」


「リリアナお嬢様がお生まれになってから1日として離れたことはなかったから。今回の三週間は相当辛かったのでしょう。」


「自害しようとした痕もあるから余計か。」


「あれには私も…。」


「俺もだ。もし、あれで本当に命を落としていたらと考えたら震えが止まらなかった…。」


「怪我もそうですが、リリアナお嬢様は元より細い方でしたのに。あれほど肋の浮き出た身体は…。」


「公爵様も気付いていたようだが、熱も出ていたな。」


リリアナを慕う彼等にとって目に入れても痛くない彼女が怪我をしたり病気をするのは到底受け入れられないのだ。

今回の行動は自分達を思ってくれた故なのだろうが、その心配はないとどうしたらわかってもらえるのだろうか。

その想いに深いため息を零すのだった。

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