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31. 悪

二人が城から出ていったのを見送ったのと同時に先程まで静止していたのが嘘のようにララとセルジオが攻撃を仕掛ける。

黒魔術による防御壁で何とか防いでいるが、一撃でヒビが入るほどの威力に驚きを隠せないようだ。


「リリアナ様の禁呪を解け。」


「嫌だと言ったら?」


「解きたくなるまでその四肢を一つずつ削いでいく。」


「ふふ。そんな事出来るわけっ。」


展開していた防御壁が意図も簡単に壊れ、彼女の腕を斬り落とす直前で静止する。

その表情は黒魔術師が糧とする憎悪を遥かに超え、少しでも動けば躊躇なく切り落とすのだろう。


「…カートルの復活は私達の悲願。例え斬り落とされても禁呪は解くつもりはない。」


「そうか。残念だ。」


言葉ではこう言ったが思ってもいないとわかるほど表情は淡々としており、そのまま振り下ろした。

来るはずの痛みに身構えたが、それはユリウスによって防がれたようだ。


「姉上、大丈夫ですか。」


「…ユリウス、血が…っ。」


「それより、姉上は先に…。ここは俺が引き受けます。」


「一人では無理よ。」


「無理でもやります。あの日、俺もカートルに命を捧げると決めましたから。」


ポタポタと落ちる赤にちらりと視線を向けながら立ち上がると二人を見据えた。

濃く黒い瘴気は大きさを増し、それは彼の身体に負担を与えているようで赤が増えていく。

それでも止める気はないようだ。


「誰が相手でも手加減するつもりはない。」


「同感です。元よりリリアナお嬢様以外は虫けら同然。禁呪を解くまで楽しい拷問の始まりです。」


そんな言葉を言いながら楽しげに笑みを浮かべたララ。

この状況はどちらが悪なのかわからないだろう。

息を合わせたわけでもないが、同時にユリウスへと剣を手に襲い掛かった二人。

一撃は何とか防いだが、二撃目は貫通したようで轟音とともに柱に叩きつけられた。

迫り上がってくる気持ち悪さにそのまま吐き出すと大量の赤が見え、長くは持たないだろうと自笑する。


「簡単に死なせたりしない。リリアナお嬢様が受けた苦しみを思えばまだ序の口ですから。」


完全に理性の箍を外したララは座り込んでいるユリウスの手の平に剣を突き刺し歪な笑みを浮かべた。

セルジオは剣に付いた赤を振り下ろして地面に落とすと彼をただ見据えている。


「…貴方達のほうが余程悪に思える。」


「何が言いたい。」


「カートルは小さな国とはいえ、皆幸せに暮らしていた。それをアザレアが聖女の百合欲しさに…。」


「らしいな。夜中に急襲して国民を皆殺しにしたと聞く。」


「酷い話ですね。」


「そう思うなら何故!!」


「リリアナお嬢様に手を出した時点で同情の欠片もありません。」


「…姉上。彼等に何を言っても無駄ですよ。どちらかが死ぬ以外、解決方法は無いでしょう。」


「セルジオ、リリアナお嬢様と同じく目を奪うとしましょうか。貴女が禁呪を解くまで、彼には生きながら苦しみ続けてもらいます。貴女の選択ですから、問題ありませんね。」


ユリウスに挿していた剣から手を離すと小刀を取り出し彼の目に近付けていった。

もう少しで触れる、そう思ったのと同時にその動きが止まる。


「ララ?セルジオ?」


「リリアナお嬢様…?」


「何してるの…?」


「これは、その…。」


「すまない、ラティラ。リリアナがどうしても戻ると聞かなくてね。」


アルバートは大きなため息を溢し、まだふらつくリリアナの身体を支えているようだ。

血を流すユリウスに対峙する二人に戦闘と程遠い生活をしていた彼女ですらその状況を理解したらしい。


「もう止めませんか。」


「…。」


「私の力で本当にカートルが復活出来るのであれば、喜んで協力しますよ。ただ、命を捧げるのと結婚は困りますのでそれ以外の方法でお願いします。」


リリアナのその言葉で手の平に刺さっていた剣を抜いて地面に落としたユリウスはフラフラとした足取りのまま彼女へと近付いていく。

何をする気だと殺気立つ二人だが、リリアナの方からも彼へと近付けばアルバートも手を出すことはなかった。

黒い瘴気は消え、彼女の肩口に鼻先を押し付け脱力すると浅い呼吸を繰り返している。


「リリアナ。」


「はい?」


「好きだよ。」


「…?」


「姉上、もう良いです。禁呪は解いて下さい。」


「何を言って…っ。」


「解いて下さい。」


ギロリと睨みつけると恐怖で肩が跳ねるのを感じた。

ユリウスが本気で怒っているのだ。

ララとセルジオと対峙しているときですら怒りを彼から感じることは無かったが、今はヒシヒシと伝わってくる。

リリアナの腕に掛けられた禁呪は彼女が何かを呟くのと同時に消えていくのが見え、それと同時にユリウスの身体がドサリと地面に倒れ込んだ。


「ユリウスさん!?」


「あれだけ身体を酷使していたのですから、良く持ったほうですね。」


「ユリウスさんを…助けてあげて下さい。」


「それは…。」


「出来ませんか…?」


「黒魔術師、どうするか知っているのだろう。」


「っ。」


「リリアナが助けると言うなら私に異論はないさ。」


「…こちらへ。」


アルバートのその言葉で案内し始めた彼女に続くため、セルジオがユリウスを肩に乗せるように抱き上げると心配で少し涙目になったリリアナが見える。


「大丈夫ですよ。ちゃんと呼吸はあります。」


「…そっか…良かった。」


「あまりご自分を責めないで下さい。」


「…うん。」


彼女の瞳に影を落とすそれに軽くため息を溢しながら暫く歩いていると塔の中にアザレアで見た百合が現れた。

生えているのは二つだけで、黒く染まったそれの一つは既に萎れ始め、花びらが地面に落ちている。


「これがユリウスの生命そのもの。」


「一刻の猶予もないか。」


「どうしたら…。」


「リリアナ、その百合に触れてご覧。」


アルバートの言葉に恐る恐る手を伸ばしたリリアナ。

指先が触れた瞬間眩いばかりの光が帯び、思わず目を閉じた。

黒く染まっていたはずの百合は金色に光り輝き落ちていたはずの花びらは全て元に戻っている。

ユリウスはと振り返れば、目を覚ました彼を煩わしく感じたのか。

セルジオによって地面に落とされていた。


「ユリウスさん!?」


「…あれ、俺どうしたんだっけ。」


「良かった。もう痛くはありませんか?」


「うん、大丈夫。リリアナ、俺はやっぱり君が好きだ。結婚しよう?」


「旦那様、この輩は今すぐに強制退場させましょう。」


背中に黒い雰囲気を纏いながら剣を握るララは今にも襲いかかりそうだ。

目を覚ましてすぐのそれに流石のリリアナも苦笑しているが、助けられて良かったと安堵の息を吐く。

父の腕の中でふと思い出した予告の続き。

それは攻略対象が血だらけで命を落とし、バッドエンドの文字が画面に映し出されたものだった。

これで一応防ぐことが出来たのかな。

そんな事を考えながら彼らを眺めるのだった。

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