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28. ユリウス

二週間という短いようで長い日々が終りを迎えたのは、小さな港町に船が着いたと知らせる警笛だった。

船員達に見つからないようにと荷室から降ろされたリリアナだったが、ユリウスによって満面の笑みを浮かべたまま両手につけられた拘束具を鉄のポールに固定され逃げることも動くことも出来ないようだ。

暫く忙しくしていた彼らも次の場所へ移動するようで、乗り込んでいくのが見える。

私はどうなるのだろうと海を眺めていると大きな袋を片手に彼が近づいてきた。


「大人しく出来たかな。」


「…どういうつもりですか。」


「言ったよね。俺のものにするって。」


「それは聞きましたけど…これ外して下さい。」


「家に着くまで我慢しよう?そしたら外してあげるよ。」


楽しげにそう言うと固定していた拘束具を外し、歩き始めた。

黒のローブを着せられたまま移動するため、周りから明らかに変な目で見られているが、気にした素振りはなく。

3時間ほど歩くと腐ちかけた大きな城が見えてきた。


「ここはね。元カートル王国のあった場所。10年前にアザレアの侵略を受けて城はこの有り様。闇に葬られてはいるけど、国民は皆殺しにされたんだ。」


「…そんな…。」


「だからさ。リリアナに自害されると困る。」


「それはどういう…?」


「姉上、連れてきましたよ。」


壊れかけた城の扉が独りでに開くと見覚えのある黒薔薇の刺繍が施されたローブ姿。

黒魔術師だ。


「ユリウス、禁呪が成就するまで彼女を地下牢に閉じ込めなさい。貴方が見張るのよ?」


「わかりました。」


彼女の言葉に頷いた彼に引き摺られるように奥にある階段降ろされ、カビ臭い地下牢の一つに入らされた。

強引にされるかと思ったが、全ての拘束具を外し少し赤くなった腕を撫でられる。


「…薬を持ってくる。」


ユリウスはそう言うと鍵をかけ、階段を登っていく。

彼を見送ってから思っていた以上に最悪な状況に大きなため息を溢した。

周りを巻き込まないようにと逃げたはずなのに、黒魔術師に捕まるなんて思いもしなかった。

自分の浅はかな行動が原因だが、あの夢を見た時。

どうしてもあのまま彼らの側にいることが許せなかったのだ。

辺りを見渡してみると、薄汚れたベッドにトイレと小さな椅子が一つ。

松明の明かりはあるが、地下牢のため薄暗い。

持っていた荷物全てを奪われているため出来る事は少ないが、逃げ出すことは出来ないだろうかと考えていると後ろに人の気配を感じる。


「手を出して。」


「嫌です。」


「そのままだと後で痛むよ。」


「…どうせ禁呪で死ぬのですからお気になさらず。」


背を向けたままそう言ってみるが、扉が開けられると無理矢理腕を捕まれ、手当てを施されていく。

どういうつもりなのだろうか。

黒魔術師を姉上と呼ぶ彼は私が死に行く運命である事は理解しているはず。

ナイフでの刺傷ならまだしも、腕に残った痕など気にする必要はない。

丁寧に包帯を巻くと、そろりと割れ物でも触れるように上からなぞっていく。


「痛くない?」


「…大丈夫です。」


「お昼ご飯まだだったね。何か持ってくるから。」


再び踵を返したユリウスに安堵の息を吐いた。

ベッドに腰掛け、アザレアに滅ぼされたというカートル王国について記憶を探ってみるがゲームをしていた時は勿論。

屋敷にあった書物にも一切出てこなかったはず。

ただ、どうしてだろう。

知らないはずなのに何処かで何かが引っ掛かっている気がすると頭を悩ませるのだった。

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