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21. 黒魔術師

あれからどれくらい経ったのだろうか。

身体がだるく目を開ける気にはならないが、いつも通りのふかふかのベッドで寝かされていたようでゆっくり寝返りをうつと何かにあたった。


「…顔色少しは良くなったかな。」


父の疲れきった静かな声色。

そして何度も優しく頭を撫でられている。

ずっとそうしてくれていたのだろうか。

微睡んだ意識の中何かに優しく包まれている気がずっとしていたのだ。

これ以上心配させてはいけない。

そう思い身体の意思とは反してゆっくり瞼を開けた。


「…!!」


そこに映るはずの優しい父の姿はなく、黒薔薇の刺繍が施されたローブを身に纏った何かがいた。

目元は黒いベールで隠されているが、黒い唇が歪な笑みを浮かべており長い爪で恐怖により動かなくなった身体を撫でていく。

怖い!誰か助けて!

そう叫んでいるつもりなのに口から漏れるのは空気だけで音になっていない。

長い爪が顔へと近付き、眼球ギリギリで止まった。


『憎らしいほど綺麗な色。』


「…ぃゃ。」


『光を無くしてもいい。君の魅力は瞳だけじゃないのだから。』


その言葉と同時に瞳に痛みが走る。

爪の先が両目に入っていくそれに痛みと恐怖で身体が震え、血の涙が零れ落ちた。

しかし、意外なことにその痛みが逆に自分を冷静にしていく。

これは一体どういうことだ。

悪役令嬢であるリリアナに転生したとはいえゲーム内でこんなグロテスクな描写など一度たりともなかったはず。

目の前にいるものが何なのかもわからないこの状況下で本当に目が見えなくなってしまうのだろうか。

身体の動かないこの状況でも抵抗する術は無いのかと頭を回転させては見るが、悪役令嬢とはいえただの人。

人間かも怪しい存在に勝てるはずもない。

やはりこのまま目が見えなくなるのかと半ば諦めかけたその時。

いきなり目の前にいた黒い何かは振り下ろされた剣によって煙のように消えていった。


「リリアナ様!」


「…セルジオ…?」


ぼんやりとしか見えなくなっている視界では声で判断することしか出来ないため近付いてくる足音に身体が固まる。

父と思っていたはずの声があの黒い何かだったのだ。

本物かどうかこの目では判断するのが難しい。

ベッドで無意識に後退りをしているとセルジオよりも先に駆け寄ってくる存在があった。


「リリアナ!」


「パ…パ?」


「その目は一体…セルジオすぐメアリーを呼んでくれ。」


「はい。」


その言葉とともに静かだった邸内は一気に騒がしくなった。

父の優しい声色と割れ物を触れるような触り方に何故あの時あれが父だと認識してしまったのかと不思議になる。

全然違うじゃないか。

もう離さないとでも言うように腕の中に入れられ、いつもなら抗議の声を上げるのだが安心するその中にしばらくいることにしよう。

そう思いながら微睡む意識に身を委ね眠りについていった。

その姿を見届けたアルバートは一瞬にして表情を消す。

ここは私の屋敷であり、リリアナの安全を守り安心できる場所として存在するためのものだ。

警備は万全。

そのはずだったのにも関わらず、この失態はなんだ。

直ぐ側で眠っていたリリアナがこんな目に合わされているのに気付くことすら出来なかった。

力いっぱい握られた手は爪が食い込み血が滲んでいる。

セルジオが気付かなければ血の涙を流しているリリアナの瞳は奪われていたことだろう。

タオルで頬を伝っているそれを優しく拭き、そっとリリアナの瞼を開けてみれば、空色の瞳は健在。

少し濁っているようだが、失明には至っていないだろう。


「リリアナの様子はどう?」


「メアリーか。失明には至ってなさそうだが、屋敷に現れるとはな…。」


「私も驚いたわ。すでに呪いを掛けたのだから時を待てば成就されるのに。…瞳を奪おうとするなんて相当リリアナに心酔してるのね。」


「心酔だと?」


「黒魔術では毛髪、眼球、舌、心臓等の臓器全てに意味があるの。その中でも眼球…瞳はその人を表すもの。目は口ほどに物をいうという言葉があるでしょう?それを奪おうとするのは相手を所有したいという願望が表れているの。」


「私の愛娘を所有とはな。リリアナを所有できるのであればそれは私だけだ。必ず報いを受けさせてやる。」


言葉の節々から彼が相当怒りを感じていることがわかる。

それは襲ってきた黒魔術師だけでなく、近くにいて守ることができなかった自分に対してもだ。

流石リリアナを溺愛してるだけあるとメアリーは感心しながらも自分も変わらないかとくすりと笑みを浮かべた。

伊達に500年生きていたわけじゃないため、アルバート程全面には出さないがリリアナの瞳を治癒する呪いを掛けながらも沸々と湧き上がってくる怒り。

母と妹を亡くしたその時ですら感じたことのないものだった。


「リリアナの目はちゃんと見えるようになるのか?」


「ええ。呪いの進行は止めたから後は私の呪いが効いてくれれば…。」


「そうか…。助かった。」


「あら、私のこと嫌っていたのでは?」


「リリアナに辛い思いをさせたという点では好きではないが、この状況下でリリアナの目を治癒できたのは他でもなく君だからな。リリアナを助けるためなら悪魔であれ喜んでその手を取ろう。」


アルバートはそう言いながら腕の中にいるリリアナのを愛おしげに何度も撫でるのだった。

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