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20. 呪いと呪い

メアリーとの出来事は結局私への過保護精神によるものだったと力説されたが事実なのか正直判断に困っている。

彼女に呪いを掛けられたという内容に証拠あるわけではないから余計だろう。

学園で説明するには時間が足りないと言う彼女に言われるがまま、いつも通り迎えに来ていた馬車に乗って邸へと戻ることにした。


「すごい馬車。遠目で見たことがあったけどこんな内装だったなんてね。」


「お父様のこだわりだそうです。」


「でしょうね。これほど見事な馬車は初めて見たわ。」


メアリーはそう言いながら視線を色々な方向へ動かし興味津々である。

それほどすごいものなのだろうかと理解できないリリアナは頭をかしげているがララは当然だとでも言いたげな表情をしていた。

これの素晴らしさを理解できないのは私だけらしい。

そんなことを考えていると馬車の動きが止まりゆっくりと扉が開いた。

セルジオがお辞儀をしたままリリアナが出るのを待っている。


「リリアナ!」


「お父様?」


「パパでしょ?メアリー嬢と一緒に帰ってきたというのは本当なんだね。」


「なぜ知って?」


「セルジオから連絡をもらっていたんだ。さあ中に入ろう。夕方は冷えるからね。メアリー嬢も中へ。」


リリアナに向ける笑みとは打って変わって無表情を彼女に向けながら邸の中へと促した。

侍女や従者達もあからさまにメアリーに対して敵意を剥き出しにしており、いつものようなほのぼのした雰囲気は一掃されピリピリとしてる。

案内された先ではセルジオ以外の騎士達も集められていた。


「パ、パパ?ちょっとやりすぎでは?」


「そんなことないよ。リリアナに呪いをかけた相手だからね。私は彼女を許すことはできない。」


「貴方まで呪いというのね。」


「どういう意味だ。ユルサナイという言葉を聞いた後にリリアナは倒れたんだ。そう考えるのは必然だろう。」


「確かに(まじな)いは掛けたけど、眠ってもらうためのもので身体に害はないわ。呪いの類いは黒魔術師しか扱えない高度なものなんだから。」


「信じられないな。」


「そうでしょうね。私もまさかリリアナがあの部屋に入れるとは思っていなかったし、正体を知られることがないのだから嫌われても厭わないつもりだったわ。」


「確かにあそこは何度も行ったが私も入ることが出来なかった。」


「娘である私も拒んでいたのにお母様は何を考えているのかしら。」


「君も入れなかったのか…。」


「ええ。」


「何か気になるな。呪いが本当のことだとして、リリアナの手首に残っていた圧迫痕はどう説明する?」


「手首?私はリリアナの手首に触れてないわよ。」


「え?でもあの時メアリー様に…。」


「僕も見たよ。」


「本当に私だった?」


彼女のその言葉であの出来事を思い出してみる。

掴まれた時に見えていたのは、サイネリア学園指定の制服ではない黒い薔薇の刺繡が入っていた。

メアリーは制服に身を包んでいたはずだ。

それを思い出したのと同時に身体に嫌な寒気が駆け上がってくる。

あれは一体誰の手だったのか。


「リリアナ?顔色が優れないね。大丈夫かい?」


「…メアリー様は制服を着てみえましたよね…?」


「ええ。制服なしでは学園に入る前に守衛で止められてしまうもの。」


「…ウィル兄様、ロン兄様。あの時見えたのは…?」


「黒い薔薇の刺繍があった…。」


「そうだね…。あれは制服じゃない。」


二人のその言葉にフラッシュバックしてきたのは異様な程長い黒い爪で何故あの時メアリーにされたと思ったのだろうか。

彼女の爪は綺麗に整えられており、黒くない。

ユルサナイの言葉に気を取られてあの時の手がメアリーのものだと思い込んでいたのだ。

私は一体何に掴まれていたのだろうか。


「リリアナ!」


「?」


「手首を見せて!」


父とメアリーの焦るような声に驚きながら自分の左手首を見てみるとどす黒い靄のような何かに覆われている。

急激に視界が真っ暗になっていく感覚に襲われそのまま意識を手放した。

倒れていくリリアナを支えたのは近くにいたセルジオで割れ物を触るように優しい手つきで近くにあったソファーへと寝かせる。


「…これは一体。」


「呪いの力ね。」


「解けるのかい?」


「いいえ、こんなに強い呪いは初めて。」


リリアナの腕に触れながら困ったような表情を浮かべている。

今頼りになるのは彼女だけだ。

黒魔術は禁じられた上に遥か昔に失われたもの。

現代を生きる自分たちの知識では役に立たないことは安易にわかる。


「…少し調べ物をしてくるわ。そんな死にそうな顔をしなくても大丈夫よ。まだ手首の浸食だからすぐに目を覚ますと思うわ。」


「手首の浸食ってことはこれから広がっていくということか?」


「ええ、確実に広がって最終的には心臓にまで到達するでしょうね。そうなったら彼女の命はない。」


「…!!」


「リリアナの命がない…?」


「それって僕らのリリアナが死ぬってこと…?」


「すぐにではないけれど少しずつ確実にリリアナを死に追いやる類いの呪いなのは確かね。この黒い瘴気は魔女狩りに抵抗した黒魔術師が王国騎士に使っていたのを見たことがあるの。ただこんな強力な呪いではなく即効性のある死の呪文だった。」


メアリーのその言葉にウィリアムとローレンスは言葉を失い、静かに見守っていたクリスティアは涙をこらえきれなかったようでアルバートの肩を借り泣き崩れるのだった。

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