表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/34

2. 解消と憂い

あれから屋敷にいる全員を巻き込んでの自己紹介が始まり、顔と名前を必死に一致させながらその日は眠りについた。

紹介された中でも身の回りの世話をしてくれる侍女のララとはとても仲が良かったようで、私のことを私以上に知っていてとても心強い存在だ。

しかし、やっぱりまだあの引っかかりは解消されていない。

なんなんだろうか。


「リリアナお嬢様!」


「?」


「シェリフォール王子がお見舞いにと来られていますが、お会いになりますか?」


「シェリフォール王子…?」


「愛称のシェリル王子とお呼びした方が良いでしょうか。」


ん?

またなんか聞いたことある名前が出てきたぞ。

とりあえず会ってみたら何か思い出す切っ掛けになるかもしれない。

そう思い、身支度を軽く整えてもらう。

地毛でこのふわふわのウェーブ巻きのブロンドは最高だ。

人形のような容姿のお陰で淡い黄色のシンプルなドレスでも見劣りすることがない。

鏡をじっと見つめていると横からくすくすと笑い声が聞こえてきてはっと我に返った。


「リリアナお嬢様は本当にお可愛いですね。」


「あはは…。」


「ふふふ。ではそろそろ客間へ参りましょうか。シェリル王子がお待ちです。」


そう促されるまま自室を出ると広い廊下が続いている。

綺麗な赤い絨毯には金糸の刺繍が施され、広い廊下の端には等間隔で綺麗な青薔薇が飾られた花瓶が台座の上に置かれていた。

一際大きな扉の前でララが立ち止まりノックをすると幼い声が返ってくる。


「失礼致します。リリアナお嬢様をお連れしました。」


「リリアナ、歩いても平気だったかい?パパが抱っこしに行こうとしたらママに止められてしまってね…。」


「リハビリも兼ねて少しは歩かないと弱ってしまいますもの。でも無理は禁物よ?」


「うん、もうだいじょうぶ。」


「それなら安心したよ。ほら、彼がシェリル王子だよ。さっき説明した通り、リリアナは高熱の影響で今までの記憶をなくしてしまっているんだ。すまないね。」


「いえ、問題ありません。リリアナ、身体の具合はどう?」


「もうへいきです。」


「そう、なら良かった。今日は君のお見舞いと婚約について話に来たんだ。」


「こんやく?」


「何の話をしているのかな。」


「父上はすでに了承済みです。ルーディリッヒ公爵、ご令嬢との婚約を許してはいただけませんか。」


真っ直ぐ父を見つめるその表情は頑なな意思を表しているかのようだ。


婚約…?婚約!?


どこかで見たことのあるこのシーン。

そう確か死ぬ前にはまっていた乙女ゲーム『王子様との学園生活(キャンパスライフ)』で見たのと全く同じだ。


え?

ちょっと待って!


本当にそうだとしたら、この王子に婚約されるのってヒロインをいじめる悪役令嬢じゃ…。

名前は確かリリアナ・エル・ルーディリッヒ。

ずっと引っかかりを感じていたのはこれだったのか。

全く嬉しくないことを思い出してしまった。

この悪役令嬢は最終話に死亡フラグを回収するのだ。


わーい、王子様に逆告白されるなんて夢のようだー!


なんて一瞬でもお花畑を咲かしていた自分を本気で殴りたい。

転生先が死ぬこと確定した悪役令嬢って私そんな悪いことしたかな…。

そう考えると真面目に悲しくなってきた。

自分の意思とは関係なくぽろぽろと涙が零れ落ち、それを見た両親がすごい早さで駆け寄ってくるとあやすように優しく抱きしめながら泣かしたであろうシェリル王子へと視線を向ける。

それは子供に向けるようなものではなく、殺気の籠ったそんな視線だ。

びくりと彼の身体が跳ね、ガタガタと震えているが王子という肩書きゆえか涙を流すことはない。


「婚約の件、丁重にお断りするよ。元よりリリアナを結婚させるつもりはない。ずーっとパパが養うからね。どこにもいかなくて良いんだよ。」


「…っ。」


「ママもそれが良いと思うわ。危ない外界なんてリリアナには必要ないもの。 そういうのはウィリアムとローレンスが喜んで引き受けてくれるでしょうし。」


「「僕たちがどうかした?」」


「え、リリアナ!なんで泣いてるの!?」


「泣かないで、リリアナ。僕まで悲しくなってくる…。」


「…っ。」


「君が泣かせたんだよね。」


「へぇ、僕の大事なリリアナを君がねぇ?」


まだ少年のはずなのに二人が纏う殺気は父親の彼に負けていない。

彼らにとって相手が王子であろうと関係ないのだ。

リリアナを泣かせた。

その事実だけあれば怒らせるのには十分過ぎる。


「…僕はただ…。」


「ただなに?」


「婚約を…リリアナも…喜んでくれる…はずだった…のに。」


「喜んでないよ。現に泣いてるし、諦めて。」


「そうだよ。父上も言ったと思うけど、リリアナを誰にも渡す気は全く無いし。もし父上や母上が勝手に婚約したら…。」


「私がそんなことするはずないだろう。リリアナが嫌がることはしない。それにパパのリリアナを他人に渡すなんて考えただけで相手を社会的に抹殺したくなるよ。」


「そうよ。私だってリリアナを手放す気はないもの。リリアナはお屋敷でママとご本を読んだりお庭を散歩したりするのよ。貴女が私のお腹に宿ってくれた時に辛いことが何一つ起きない素晴らしい環境で育てるとアルバートと一緒に決めているもの。」


「そうだよ。だからリリアナは嫌なこと何にひとつしなくていい。」


「あぁ、それで外界は僕たちにって話だったんだね。」


「もちろん、危険なことは僕に任せて良いよ。リリアナのためなら何でもするから。」


「ローレンス、一人だけ良い恰好しないでよね。僕ももちろんリリアナのためなら何でもするよ。」


「二人もそう言っているだろう?だから泣かないで。リリアナが笑顔でいてくれるのならパパは何でもするよ。リリアナが欲しいものは全て手に入れてあげる。したいことは何でもさせてあげる。これでもパパは公爵家当主だからそれを叶えてあげられるだけの権力を持っているんだよ。リリアナにとっての幸せはパパの幸せだからこれだけは誰にも譲れない絶対だ。」


優しすぎるくらいのその言葉にいつの間にか涙は引っ込んでいた。

久しぶりに泣いた気がする。

大人になってから泣くなんて映画やドラマで感動する時くらいしかなかった。

もちろん泣くつもりなんて無かったが、まだまだ身体は子供なだけあって自分で感情が抑えられない部分があるようだ。

気を付けよう。

そんなことを思いながらも、ちょっと大人気ないことをしてしまったことに罪悪感。

生前の推しキャラだったシェリル王子には申し訳ないけど、今彼の目の前に居るのは記憶をなくす前のリリアナではなく元アラサーOLだ。

死亡フラグの回収をする悪役令嬢になるくらいなら推しキャラなんて忘れるに限る。

これから先、ヒロインが現れる頃までにリリアナは男女問わず皆の視線を釘付けにする程美しい存在へと成長していく。

子供の頃からこの可愛さであれば当然だが、そんな存在である彼女に転生しているのだから危険を犯してまで王子に執着する理由はない。

ゲーム上の彼女は性格に難はあっても悪役令嬢じゃなかったらと何度も思ったほど最高のキャラなのだ。

今まで生きてきて一度もモテ期というものを経験したことのない私にとって悪く思われない程度に男性をはべらかしてみたいという気持ちが沸々と湧いてくる。

女子の憧れ…逆ハーレム!

両親と兄達が婚約を拒否してくれたことで、断罪イベントの芽が出るのを阻止できているかもしれないというこの状況を考えると憧れを達成して楽しい学園生活を送りたい。

震えているシェリル王子をよそにこれからの生活をどう楽しもうかと思案しながらにんまりと笑みを浮かべるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ