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19. メアリー

先ほどの出来事が落ち着いてきた頃、心配していたシェリルが教室に現れた。

元気そうな姿に安心したが、交じりあった視線をすぐに逸らされ違和感を覚える。

我先にリリアナの元へ来ていた彼とは思えないからだ。

あまりの変化に話し掛けるのを躊躇して立ち止まっていると後ろに人の気配を感じ振り返った

そこにはにっこりと笑みを浮かべたメアリーの姿があり、心の準備をしていなかったこともあり驚いてしまう。


「おはようございます。もう体調はよろしいんですか?急に倒れられたので心配していたんです。」


「おはようございます。ご心配をお掛けしましたがもう体調は問題ありませんわ。」


「それはよかったです。シェリル王子も心配されていたんですよ?」


彼女の言葉に反応したシェリル王子の表情は曇っているが言葉を発するつもりはないようですぐに視線を反らした。

愛称であるシェリルの名でメアリーが呼んだことに対して何も咎めないということは私が学園に通っていなかった間に何かが起きたことは確かで、まずは情報収集をするべきかと思考を巡らせる。

本来であれば噂話は令嬢に聞くのが一番楽な方法なのだが、私の人望の無さゆえにその方法は選択肢の1つとして機能しない。

となると教師や従者達に聞くしかないのだが、基本的に生徒や主人の話を他言することはプライバシーの観点からも言語道断。

遠回しに聞いたら答えてくれるだろうかとそんなことを考えながら空いている席へと腰掛けた。

メアリーは当然のようにシェリル王子の隣へと腰掛け、にっこりと笑みを浮かべている。

すでに2人の仲は急接近しているのだろうが、シェリル王子は無表情のままで冷たい印象を受けるところを見ると好意的に受け入れているというわけではなさそうだ。

拒否を示す態度を隠そうともしていない。

だが、表立って拒否しないということは何か弱みを握られているのだろうか。

考えられるのは魔女狩りの一件だが、彼のことだ。

王家の恥とはいえ、過去について責任を問われても隠そうとはしない。

公の場で魔女狩りについて言及し、国民の前で謝罪するだろう。

彼はそういう人だ。

その潔さと人柄に惹かれ、推しキャラ順位No.1だった。

そんなことを考えながら久しぶりの座学に眠気を堪えながら耳から耳へと流していた。

相変わらず座学以外は見学という暇をもて余す待遇だったが、メアリーを観察するにはちょうどいいと木陰に準備された椅子へと腰掛ける。


「リリアナお嬢様。お一人にしてしまい申し訳ございませんでした。」


「全然!セルジオが居てくれたし、ララは私のために情報を聞きに行ってくれてたんだよね?私に人望がないばっかりに二人に迷惑を…。」


「迷惑なんて思ったことありません!それにお嬢様に人望は不要です。変な虫がついてはいけませんからね? 心根の曲がった令嬢など、お嬢様にご迷惑をお掛けするだけです。」


「ララって辛辣。」


「私はルーディリッヒ公爵家に忠誠を誓った身。リリアナお嬢様以外は虫けらにしか見えません。ララ特製のブレンドティーとガトーショコラをご準備しましたが食べてくださいますか?」


「もちろん。ララもそうだけど、皆私を甘やかしすぎじゃないかな。」


「もっと甘やかされてください。私もそうですが、皆様はお嬢様に愛を注ぐことだけに力を入れてますからね。」


「嬉しいのだけど、その分だけ皆を危険にさらしている気が…。」


「ふふふ。お嬢様はやっぱりお可愛いですね。」


「?」


「純真無垢な貴女様をララはとても慕っておりますよ。」


優しげな笑みを浮かべたまま彼女はそういうと軽く一礼した。

いきなりのことに驚いているとララから小さな笑い声が聞こえてくる


「ふふふ。先ほどからずっとメアリー様を見ていらっしゃるようにお見受けしましたが何かおわかりになりましたか?」


「シェリル王子と何かあったのは確かみたいだけど、それ以上は何も…。何の役にもたたないよね…。」


「そんなことありませんよ。リリアナお嬢様は噂話などされるような方ではありませんし、ましてや虫けらに気を遣う必要など。」


「ナチュラルに毒吐いてるよね?」


「すみません、先ほどリリアナお嬢様に酷いことを言った身の程知らずのセリーヌ様の話を…。」


「…全部聞いちゃった?」


「詳細を事細かく全てしっかりと。」


「お父様には話したり…?」


「いえ、まだお伝えしておりません。」


「良かった…。このことはララの心の中だけに留めてくれたりする…?」


「留めていてもすぐに伝わってしまうと思いますよ。お嬢様の事となると出る杭は引き抜くが基本ですからね。」


「…。」


「何も心配なさらないでください。全てこちらで処理しますから。」


「そ、それが怖いんだけど。」


「公爵様に握り潰されるだけですから問題ありません。話が脱線してしまいましたが、メアリー様の件色々調べてみました。」


「何かわかった?」


「シェリル王子とメアリー様との間に何かあったのは確かみたいですね。詳細は不明ですが弱みを握られているかのようにシェリル王子はメアリー様が側にいることを許しているようです。」


「脅されてる?やっぱり魔女狩りのことなのかな…。」


「噂程度ではありますが、王家には不思議な力が備わっていると聞いたことがあります。もしかしたらそのことが関わっているのかもしれませんね。」


そう言いながら空になったティーカップに程よく冷めた紅茶を注ぐ彼女は流石だ。

しかし、王家に不思議な力?

シェリル王子がそんな力を持っているとは知らなかった。

彼女の意に従っているということは勝敗がついたということだろうか?

片時も離れずに彼に付いて回るメアリーの姿は本当に王家に復讐しようとしているのかすら怪しくなってきた。

実際は復讐ではなく、シェリル王子のことをただ純粋に好きなのかもしれない。

そう思えてしまう程だ。


「リリアナお嬢様。」


「なに?」


「それは違うと思いますよ。」


「え?」


「メアリー様はあまり心根を隠すのは得意では無さそうですね。瞳に拒否する気持ちが出ています。」


「…そんな感じには見えないけど。」


「お嬢様は純粋ですから。私のように汚れた目をしているとその人の胸の内まで穢れて見えるんですよ。」


「ララは穢れてない!人を見る目があるのは確かだと思うけど。」


「ふふふ。お嬢様がそう言ってくださるなら私はまだまだ純心な乙女でいけますね。」


おどけた調子でそう言う彼女からメアリーへと視線を向ければ、同時に彼女の視線もこちらへと向いたため驚いた。

ゆっくりとこちらへと歩みを進めてくるメアリーの姿に呪いをかけられた時の感覚が蘇り、自分の意思とは関係なく身体が震えている。

それに気付いていたララとセルジオは立ちふさがるように目の前に立ち見たことがないほど冷たい視線を彼女へと向けた。


「怖い顔。侍女と騎士の立場を理解していますか?」


「貴女に笑顔を向けても何ら得がありませんから。それより、何が目的ですか。お嬢様を悲しませるようなことをするなら容赦はしません。」


「リリアナ様を悲しませる?私がですか?」


「呪いの一件のことお忘れですか。」


「何の話でしょう。リリアナ様、侍女はちゃんとしつけなくてはいけませんよ?妄想で話されては困ります。」


「も、妄想なんかじゃありませんわ。あの時のユルサナイという言葉はわたくしに対してじゃありませんよね?…屋敷の地下室で貴女のお母様の亡骸を見つけました。小箱の中にはこの写真も…。」


持ってきていた写真を渡すと彼女の表情が変わった。

先ほどまで浮かべていた笑みはなくなり、無表情のまま写真を見つめている。


「魔女狩りの復讐ですか…?」


「…。」


「日記にはお母様がメアリー様へ想う気持ちが書かれていましたよ。復讐しないか心配とも…。」


「地下室に入れたということは母に見初められたということね。それなら芝居は要らないかな。」


「芝居?」


「やはり本性を隠されていたのですね。」


「この学園じゃそうするしかないでしょ。」


「…やはりこの写真に写ってるのはメアリー様なんですね?」


「そうよ。メアリー・ルーツ・ルーディリッヒ。貴女の祖先になるわね。まぁ、身も心も10代のままなんだから年より扱いしたら怒るよ。」


「え、あ、はい。」


態度が180度変わったメアリーに戸惑いながらも今までとは違う素の笑みに安堵した。

怖いという感覚もなくなり、震えはいつの間にか止まっている。

シェリル王子に近付いた理由について今なら彼女の目を見てしっかりと聞くことができるだろう。

小さく深呼吸してからメアリーに視線を向ける。


「シェリル王子に何故近付かれたのですか?私に対しての呪い…あれは?」


「貴女はどう考えているの?」


「メアリー様の目的が王家に復讐することじゃないかと思っていました。呪いも私を遠ざけるためかと。」


「遠ざけるためっての合ってるけど、復讐は目的じゃないわ。」


「ではなぜ?」


「500年も生きてると復讐する機会なんてたくさんあるの。」


「…たしかにそうですね。」


「もちろん最初の頃は王家の抹殺を考えたものだけど、そんなことしても母も妹も喜ばないでしょう?長く生きているとそういう気持ちは段々薄れていくのね。」


「…?」


「でも……だけは許せなかった。」


「え?」


「リリアナを泣かせたのだけは許せなかったの!」


「私…!?」


「私の計画ではリリアナと学園で仲良くなってお花畑の世界を2人で築くはずだったのに…!あのごみ虫王子ときたら嫌がる私のリリアナに婚約を迫って泣かせるなんて、身の程知らずも良いところだよね。絶対に後悔させてやる。」


いきなり鬼の形相へと変わった彼女にあたふたしながらララへと視線を向けるが彼女は驚くどころか当たり前のように受け入れていた。

え、なんでそんなナチュラルに受け入れられてるの!?

あの流れからいったら王家に復讐するために500年間生きてきたとかそういうが物語によくある展開じゃない…?

想像していたものと全く違う結末に頭がパニックになる。


「嫌われてると思ってたのに…。」


「私がリリアナを嫌う!?そんなわけないでしょ。」


「でも最初の態度は…。」


「あれはシェリル王子から引き離すためにセリーヌとかいう女に便乗しただけ。正直あの令嬢がリリアナと同じ舞台に立とうとする時点でおかしいのよ。身の程弁えてもらわないと。」


怒りに声を震わしながらそういった彼女はいきなり抱きついてきた。

今までずっと我慢していたとでもいうように頬擦りを繰り返してくる姿にこれはいったいどういう展開なんだと抵抗することもできず唖然とするリリアナ。

その様子に臨戦態勢をしていたセルジオも剣の柄から手を離した。

それを見る限り危険人物から外されたということだろう。

何とかしてこの状況を整理しなくてはと今まで起こった全てを思い出すべく頭をフル回転させるのだった。

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