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14. 亡骸の存在

ベッドの上に座り、取り出した箱をタオルで拭いてみれば表面に何かが描かれていた。

それは所々焦げてはいるが、純白だったであろう盾とその中央に描かれた十字架に絡む青薔薇。

見慣れた作りに目を疑う。

これはルーディリッヒの紋章だ。

地下室に何故この紋章の入った箱があったのかはわからないが、公爵家と繋がりがある事は確かだ。

ゆっくりと箱を開け、中に入っている写真を丁寧に拭いていけば白黒の写真とはいえ高品質なカメラで取られていることが素人目にもわかるもので、見たことがない風景だが端に見える噴水は庭にあるものと全く同じ作りで、移り住む前の屋敷にあったものだろうか。

遠くに見える薔薇園は丹精込めて育てていることがわかるほど綺麗に咲き乱れている。

そして彼女達の服装。

当時の流行であろうドレスだが写真越しにもわかるほど精巧な作り。

相当高価なものだろう。

まさかと頭を過るが、まずはこの本に書かれている内容を確認するべきかと思考を中断する。

表紙には題名などの記載はなく、ゆっくりと開いてみると羊皮紙の独特な肌触りに違和感を覚えながら目を通していく。

書かれていたのは魔女狩りがどれ程惨いものであったかという内容で、魔女に関わったというだけで火炙りの対象となり女であれば年齢関係なく死罪が確定するため幼い子供達も大勢が犠牲になったようだ。

死後も安息の地に行くことは許されず、亡骸は荒れ地に放置されるなど扱いも不当である。

それをこの本に記した人物の名を見たときに一瞬頭を過った内容と一致していたことを知った。

彼女の名はアーシア・ルーツ・ルーディリッヒ。

マルセウス・マートン・ルーディリッヒ公爵の妻であり、メアリーとフランソワ、そしてシェーラの母でもあるという。

彼女には不思議な力があり領民の怪我や病気を癒すことにその力を使っていたが、ある朝突然王が宣言した魔女狩りによってそれは一変した。

密告者には金貨100枚という御触れが職を失った民を焚き付け、皆目の色を変えて参加していく。

初めは公爵家という肩書に守られていたもののマルセウスが他国にいる隙を狙って屋敷を攻めいられ一緒にいたメアリーとシェーラと共に地下へと閉じ込められた。

長男であるフランソワはマルセウスと共に他国に居たことで難を逃れることが出来たようだ。

母としてどちらの娘も助けたいという想いと、差し迫った状況の中でも助かる確率を考え乳飲み子であるシェーラではなくメアリーを助けることを選択するまでの苦悩。

そしてシェーラに対する後悔と謝罪が10ページにも渡って綴られており、その最後には火炙りの刑が施行される当日、母乳をたくさん飲んで幸せそうに眠る我が子に手を掛けたと。

そんな彼女の辛さは計り知れない。

しかし、灼熱の炎で身を焼かれ苦しみながら死ぬのは自分だけで良いと決心して実行したという。

その後は数ページ白紙が続いていたが、しばらくするとまた文字が見えた。

それは1人逃がしたメアリーに対する内容で、魔女狩りにより母に何が起こるか全てを理解していることへの不安が書かれている。

彼女が自分を越える力を持っていることもその不安を加速させているのだ。

この力は人を癒すこともできるが、傷つけることも容易。

魔女狩りをした王への怒りによってメアリーが間違った方向へその力を使ってしまうのではないかという懸念があった。

怒りに支配されて力を使えば彼らが言う魔女という恐ろしい存在になりかねないという内容に、まさかと彼女を思い浮かべた。


" ユルサナイ "


あの言葉は本当に私に対するものだったのだろうか。

呪いによって倒れたとはいえ、実質無害だった。

もしあれがシェリル王子から私を遠ざけるための行為だったとすると、あんなに堂々と呪いを掛けた意味が理解できる。

狙いは私ではなく魔女狩りをした王家の末裔である彼らなのだ。

それに気づいたのと同時に学園に1人で通うシェリル王子が思い浮かぶ。

彼は今、とても危険な状況に身を置いているのだが彼自身は気付いているのだろうか。

メアリーに対して今のところ良い感情を持っていないようだが、彼女から近付いていくことは容易に想像できる。

彼のことは好きではないが、復讐を知ってしまった以上助けないのは後味が悪すぎると軽くため息を溢した。

しかし、両親から学園に通う許可がおりていないこの状況では私に出来ることなど何もない。

まずはこのことは父に話し理解してもらうことが先決だろう。

ゆっくりとベッドからおり、書斎にいるであろう彼のもとへと歩みを進めるのだった。

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