その仕草に 僕の心は引き寄せられる
「おっはよっ!」
「あ、うん、、、おはよう……」
久しぶり、という言葉を僕は言いそびれた。
そんなもの挟む隙間なんて無いくらい、松本さんは僕に自然に声を掛け、近づいてきた。
三年前と今日の朝が、一気に引き寄せられる。
中学の頃は、お互い部活の朝練がある日はここで顔を合わせ、普通に挨拶し、学校まで15分の距離を一緒に歩いて行ったものだ。
僕は書道部。
入りたくて入ったわけじゃなくて、必ずなんかの部活動に参加しなくてはいけない決まりだったから、一番、楽そうで道具も持ってて、誰でも出来るそれにしただけ。
松本さんは陸上部。
小学校の頃から足が速く、中学に入学早々、陸上部の顧問の先生からスカウトされたらしく。
そんな全く共通性の無い二人だったけど、僕たちは肩を並べて歩き、昨日観たテレビの話を一方的にしゃべり続ける松本さんに、適当に相槌を打ちながら、特別仲が良い訳でもなく悪い訳でもなく、極々あたりまえに、違和感も疑問もなく、お互いの存在を受け入れてた。
その時と変わらない屈託のない様子で、でも、別人のように綺麗になった松本さんが僕に訊く。
「ねえ、どこ行くの?」
「……薬円台」
「薬円台?こんな朝早くから?何しに??」
「あ、や、ちょっと……」
僕は咄嗟にレンタルビデオ店の袋を後ろに隠した。
手にした車のキーホルダーが、心の動揺を表すように、ジャラリと音を立てる。
それを見て松本さんは「ふーん」と、鼻にかかった声を出し、
「なら、ついでに津田沼まで送ってって!」
と言って、脇に抱えていたサーフボードを僕の前に突き出し、それから派手な布にくるまれた僕の背丈ほどあるそれを、両手で愛しそうにギュッと抱きしめた。
その仕草に、時間だけでなく、僕の心も強烈に引き寄せられる。