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時を刻む水時計  作者: るりまつ
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二度と、君には会いたくない

「春田君、チャリ通だったし、多分いろいろ全然知らないだろうから教えてあげる。あのね、私、四街道の敬明だったの。あ、一応普通科ね。で、松本梨花は八街のピーナッツ学園だったでしょ、だから電車の方向一緒だからよく見る事あったんだけど、あいつ高一の一学期までは陸上部真面目にやってたみたいで、見た感じも中学の時とあんまり変わらなかったんだけど、夏休み終わって2学期に帰りの電車で見かけてびっくり!だって、すっかりガングロのヤマンバに変身してたんだもん。なんかさ、どこであんな色のファンデーションとか売ってんの?ってくらい真茶色に顔、塗りたくってて、目の周りと唇だけ真っ白けで、演劇部の子いわく、『三善のドーランなんじゃね?』って笑ってたけど、髪も延ばしかけのバッサバサの茶髪になっちゃってて、もちろん制服のスカートも、パンツ見えそうなくらい短く捲りあげちゃってて、それで駅の階段とかお構いなしで歩いてて、私達だって別に見たい訳じゃないんだけど見えちゃって、そしたらすっごい派手なパンツ履いててびっくりしちゃった。あれ、見せるために穿いてるんだよね、きっと。男の目、引こうと思って。女子からしたら超ヒンシュクでキモいだけなんだけど。でね、成田線のボックス席でさ、ボックス席って分かるよね?総武線の快速とかって二人掛けの対面シートで箱みたいになってるでしょ、あれ。で、いつもその向かい合わせの席のトイレの近くの一角を、ピー学のヤンキー男子達と、松本梨花のガングロ軍団が大勢で陣取ってて、短いスカートで男子の膝の上、座っちゃったりしてさ、なんかいつもキャーキャー騒いでんの。でね、そのうちこっそり男子に手、引っ張られて二人でトイレ入っちゃったりしてさ、ヤバくない?それ。あいつらが乗ってると、他のサラリーマンとかOLみたいな人とかフツーのお客さん、怖がっちゃって、絶対他の車両、移っちゃうんだけど、私達仕方ないし、あとちょっとキョーミあるからそれ乗ってるんだけど、トイレ行きたくなった時は絶対無理って感じ。笑えるでしょ、うふ。でね、電車の中でメイクとか着替えしっかり済ませて、その頃には髪に安っぽいハイビスカスの造花なんか付けちゃって千葉駅で一斉に降りるんだけど、その格好でロータリーの隅っこで夜になると『マッチ一本千円』とかやってたらしいってウワサでね。……知ってる?『マッチ一本千円』て。八千代台のエルム前が発祥の地で、そっから花見川経由で千葉の方に広まったらしいから、船橋、浦安メインの子達はあんまり知らないみたいなんだけど、千円前払いでマッチ一本摺らせて、それが燃え尽きるまで立って脚広げて、スカートの中、覗かせるっていうゲームっていうかお小遣い稼ぎ。だけど、そんなのいちいちマッチなんて使わなくったって千円貰って覗かせるだけで良いじゃん、て思うんだけど、それが割とオジサン達にはスリリングなんだか知らないけど、酔っ払いのサラリーマンとかが馬鹿みたいに結構ホントにやるらしいんだよね、千円札お財布からぱっと出してハイって。嘘みたいだよね。イヤじゃない?自分のお父さん位の年の人達がやるのそれ。マッチ擦って『熱ちちー、あ、もう終わっちゃった、もう一本。あと一本、それかもっと払うから、イイとこ行っちゃう?』みたいな。あ、それは私達の妄想だけど、まあ大体そんなとこだと思うんだ、うふ。あ、春田君、その頃のあいつ見たこと無いか、ひょっとして。そうだよね、あいつ、高校の時は栄町のお母さんと一緒に暮らしてたんだもんね。え?知ってるよね。どのお母さんかまでは私達もちょっと調査不足で分かんなかったけど。でもさ、とにかくそのお母さんてのがまた怪しくって、友達いわく、栄町でスナック経営説とか、ラブホのフロントか掃除婦説とか、まさかのホテトル、ヘルス嬢!?とか色々あったんだけど、さすがに栄町なんて私たちも怖くて追跡調査行かれないから、ホントは何してるかなんて分からないんだけど、とにかくそっちに引っ越しちゃってから、あいつ激変しちゃったんだよね。でもきっと昔からそういう要素はあったんじゃないのって、うちのママは言ってたけど。お父さんが怖いから中学の時は大人しくしてたのかねーなんて。春田君知らない?その辺の事情。あいつ、何で高根にまた戻って来たの?しかも一応、推薦で短大上がれたんでしょ?推薦とか言って、もしかして先生とやっちゃって内申とか良くしてもらったんだったりして、なーんて、うふ。でも、こっち帰って来たら普通になっちゃったみたいでつまんないからもうどうでもいいけど。でも、春田君の事だけが心配。……ねえ春田君、なんであいつとサーフィンなんてやるようになったの?すっごく心配。ホント心配。お家だって春田君、今大変なんでしょ、お父さんの会社、あんなことになっちゃったし、やっとお勤め決まったみたいで良かったって思ってるけど、お母さんだってパート大変だろうし、色々おしゃれして出掛けたくなることもあるだろうけど、きっと春田君が今度の受験、無事に終われば……」




「探偵にでもなればいい」



「え」



僕はそれだけ言うと立ち上がった。


そして雑誌の入った紙袋を脇に挟み、鞄を持ち、

すっかり氷も溶けて空になったグラスをトレーに乗せて、

食器返却台の上に置くと、そのまま店の外へ出た。


夕方の、八月最後の金色の日差しが僕の目を打つ。

凄まじい熱気が、埃と排気ガスと一緒になって、

雑然とした駅前ロータリーの中を渦巻いてる気がした。


身体はすっかり冷え切っていて、

僕はその熱気の中で、今さらながら身震いした。


そして自転車を停めた、PERIKOの裏路地に向かって歩いた。


佐藤美由紀は、追ってこなかった。


僕はもう、二度と彼女には会いたくないし、

熊笹書店にも行かないだろう。




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