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時を刻む水時計  作者: るりまつ
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夜まで待てない

 

 そんな感じで、灰色の浪人生活に、松本さんとババさん(そしてたまに磯野さん)が加わり、僕の外面にも内面にも、強い影響を与え始めていた。

 それは今のところ、良い部分が多いように僕は思っている。


 心配しているのは母さんだ。


 そう、僕がババさんにぶん殴られて帰宅した日。

 家に着いて、松本さんが手を振りながらシャッターの下に消えた後。


 まだ母さんが帰宅するには時間があったので、僕は取りあえず口を縛ったソラマメの入った茶色い紙袋を、そのまま台所のテーブルの上に置いて、それからシャワーを浴びようと思って、着替えを取りに部屋に上がった。

 

 一人になった途端、顔の左側がズキズキと疼きだす。

 部屋には鏡が無いので、早く洗面所で腫れの具合を確かめて、スケボ男の言う通り、保冷材か何かで冷やさなくてはと思った。

 血の付いた服もこの顔も、母さんに見せる訳にいかない。

 見られたら無駄に大騒ぎになるだけだ。

 思えば中3の体育祭の時、騎馬戦で上に乗って張り切り過ぎたバカの重さに耐えきれず、膝をついて転んで以来、流血するような事態になったことなんて無い。


 さっさと汗だけ流したら、洗濯して、勉強してるフリして部屋に籠っていよう。

 夕飯は…上に運んでもらって、適当に廊下に置いといてもらえばいいか……


 勝手な事を考えながら、ふといつものクセで、東の窓から松本土木興業の三階を見上げた。


 水玉カーテンの掛った窓に変化は無く、その部屋に今、松本さんがいるのかどうかは分からない。


   もしかしたら、同じようにシャワーを浴びようとしてるかもしれない……


 そんな事が頭に浮かび、そしたら何だか急に、彼女に奪われたファーストキスを思い出してしまった。

 もっと夜になるまで、とっておこうと思っていたのに。


 僕はすぐさまベッドの上に倒れ込み、その時の光景を、閉じたまぶたに再現していった。



   頬に柔らかいものを感じたあと、


   僕のすぐ目の前にあった、松本さんの顔。


   なんだかちょっと、寄り目みたいな上目づかい。


   怒っているような、困っているような……



 多分、その両方だったんだろうな。


 僕の機嫌、伺って……可愛かった。

 


   あの表情…… 



 ……いつかどこかで見た記憶がある。

 


 そうだ、思い出した!!



 中1の、確か一学期の期末テストの前の頃。

 僕は松本さんに頼まれて、あの三階の彼女の部屋に、勉強を教えに行ったんだ。




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