さあ、ついて来い
その場所は、なんと言っていいのか……
ただなんとなく、たまたま広いだけなのか、それとも誰かが意志を持って、そこを切り開いたのか。
いや意志を持って、っていうほど気合が入ってる感じでは無さそうだけど、とりあえず他の場所と違って、シダやらクマザサみたいな、木の下をびっしり覆う下草は生えてなくて、上にはちゃんと空が見え、雲が見え、太陽の光が差し、それが燦々と地面に当たって明るい感じがした。
それで、その太陽の当たる地面のど真ん中に、一本の大きな木が生えてた。
……もしくは小屋が建っていると言うのか……
なるべく見た通りに説明するとしたら、そこには、背の高い木が、空に向かって枝葉を広げ、スクッと気持ち良く生えていて、その幹の周りに高床式の木の小屋がある、
いや、高床式の小屋があり、そのど真ん中を、その木が一本、突き抜けている、と言ったほうが分かるだろうか。
とにかく、昔、絵本で見たような、木の上の秘密基地のデカイ版みたいなモノがあったのだ。
こんもりと上に向かって葉を茂らせた形からして、その木も森の他のブロッコリーと同じ種類。だけど一際大きく目立つ。
頑丈そうな幹を中心にして、さっきのサーフショップのログハウスみたいな太い丸太が4本、ドカン!と地面に柱として立っていて、そこに、どこからか掻き集めて来たような、色も形も合わない木の板を、釘で打ち付けて継ぎはぎしたみたいな粗末な小屋。
でも、ちゃんと窓もあって、木の枠のガラス窓が、学校の下駄箱のフタみたいに、上にパタンと開いていて、突っ張りをかまして閉じないように固定してある。
地面から小屋の床までの高さは、2メートルくらいだろうか。
多分、僕がそこに立ったとしても、それほど圧迫感は感じないだろう。
そしてその小屋の高床から、木の幹に沿うようにぶら下がっているのは縄梯子だ。
そのハシゴ段が、カラフルなラスタカラーで塗られている。
僕が国道で見つけた『GOOD2GO』と関連付けられるものはそれだけだった。
道、というか轍はここより先に見当たらない。ここでお終い。
そして良く見ると、小屋付きの木から少し離れた場所に、水色の軽トラックと、工事現場とかにあるような仮設トイレが設置してあるのが目に入った。
僕は、その木から少し離れた場所に車を停めてエンジンを切った。
それから、運転席の後ろに置いてあった、黒い四角い手提げカバンを引っ張り出した。
中には財布と、松本さんを待ちながら海で勉強しようと思って持ってきたテキストが入ってる。
車から降り、そのカバンを両手で前に持って、ふぅ、と息をつく。
風が吹き、森の木がサワサワとそよぐ音が聞える。
静かな場所だった。
そして不思議な場所だった。
地面の所々に、小さく茶色い、細長い実が転がっている。
ドングリ……?
僕はその懐かしい形の一つを、靴の先でポンと蹴っ飛ばし、そいつが転がる先へとついて行った。
『 さあ、ついて来い 』 ……オマエが言うのか
小さなドングリを目で追いながら、口元が自然に緩む。
そして最後にそれを拾ってズボンのポケットに仕舞い込み、それから、四本の柱でしっかり支えられた小屋の床下に入り、太い木の幹の前に立った。
縄梯子が一人で揺れ始め、上の方から、
コン、、、コン、、、
と、ラスタカラーのハシゴと、小屋のどこか一部が触れ合う音がした。
その優しいノックのような音に誘われ、上を見ると、小屋の床には、大人が一人通り抜けられる程度の四角い穴が開けてあり、その上の天井も、同じように穴が開いていて、縄梯子は、さらに木のずっと上まで続いていた。
つまりこの木は、本当に、小屋を突き抜けるように生えていたのだ。
これは、店なのか……?
「すいませーん」
僕は思い切って、上を見ながら声をかけた。
天井の穴から、風に揺れる緑の葉と、光の彩がチラチラするのが見える。
「こんにちは——」
もう一度、さっきより大きめの声を出し、それから耳を澄ませる。
けれどやはり人の気配は感じられず、何か音楽が聞えてくるわけでもない。
ただ、上の方から、葉のざわめく音と、かすかにギイ、と木の軋む音がするだけ。
多分いつもの僕なら、諦めてその場から立ち去っていただろう。
けれど好奇心や、もっと子供の頃の冒険心のようなものが、まだ少しは残っていたようで。
僕は、重くて持ちにくい、父さんのお古の書類カバンを片手に持ち替え、ラスタカラーの揺れる縄梯子を、不器用に登って行った。




