王子のくせに。
シャルル嬢の健気さに感動すら覚えていると、図書館にそぐわない騒々しさの足音が近づいてきた。
「リア・ライナールっ!!!」
「コンラート殿下、ご機嫌よう。お静かにしていただけます?」
「きぃさぁまぁあああっ!!」
うるさいなぁ。もう。
「何をそんなに怒っているの?」
不思議そうなシャルル嬢に、涙目を向ける第二王子。
「聞いてくれよ!この女は僕に濡れ衣を着せたんだ!」
「あら。どんな?」
「兄上や大勢の生徒の前で、僕とこの女が好き合っているかのように振る舞って!!お陰で変な噂話になるし!兄上は僕を疑っているし!!!」
「まぁ…」
「どうしてくれるんだ!ライナール!!」
まったく。王子のくせに肝の小さいこと。
「私は一言もコンラート殿下が好きとも、愛し合っているとも言ってませんし、事実では無いのだから良いではないですか。むしろ褒めていただきたい位ですよ?上手くレオンハルト殿下の目を覚まさせるチャンスじゃないですか。」
「貴様、僕に迷惑をかけておいて羞恥心とか、罪悪感はないのか!?」
「昨日の私やシャルル様の言葉を信じなかった、殿下の発言と行動。私も迷惑でした。責任をとって然るべきなのは殿下の方です。ついでに、殿下のお兄様からかけられた迷惑についても、責任をとっていただきたい位です。」
「ふざけるな!何様の積もりだ!!!不敬だぞ!」
あー。出た出た。兄も兄なら弟も弟だ。馬鹿王子どもが。
「不敬?ふざけてるのはどちらですか?」
「なんだと?!」
「コンラート殿下、王子って、偉くも何とも無いですからね?」
は?の形で口を固めるも、声が出ない様子の第二王子とシャルル嬢。
「偉いのは殿下のお父様たる、国王陛下です。国を治め、守ってくださっている。では殿下は?既に何かを民のために成しましたか?まだですよね?現段階で殿下を敬う理由、あると思います?」
「なっ、なっ!!!」
「皆が殿下に礼を尽くすのは、国王陛下への敬意と、今後の殿下への期待故です。私だって内容は酷いものですが、言葉遣いは然程崩しておりませんよ?礼儀として。」
「…内容が酷い自覚、あったんですね…」
顔を真っ赤にして、言葉も出ない第二王子を尻目に、軽くツッコむシャルル様。そういう所、良いと思いますよ!
「ですから、不敬などと責められる筋合いはございません。なんだったら、殿下の態度こそ失礼ですよ?」
「ぼ、僕の何処が失礼だ!」
よぉし。おねーさんが教えてやろう。このクソガキ!
「王子の立場に胡座をかいて、皆がひれ伏すのが当然という態度。大半の貴族や、勘違いした商家の跡継ぎにも当てはまりますけど。何事もやって貰って当たり前と思っているのでは?ありがとうとか、言ったことあります?身分の関係とかあるんでしょうけど、入学試験を受けてまで教えを請うた筈なのに、自分から先生方へ挨拶もしないとか、非礼だと思いませんか?我々庶民は、親しくない相手に、特に年上に対して、よほどの事情がなければ呼び捨てになんてしませんし、初対面の相手を噂話を元に侮蔑・罵倒する様な輩は無礼者と認知します。」
真っ赤だった顔が、徐々に白くなる。
私と第二王子の遭遇は、それはそれは酷い言いがかりから始まった事がちらと思い出された。
「まぁまぁ、ライナール、コンラートも悪気は無いのです。言い訳になってしまいますが、私達の価値観は、教育係になった者の影響も少なくないのです。コンラートの教育係は基本的に良い人物なのですが、王族至上主義だけが玉にキズと評されていましたから…」
助け船を出したシャルル嬢の言葉に、白を通り越して顔色が青くなっていく第二王子。
「シャル?シャル?僕は、非礼な態度だったの?ずっと?」
「えっ?あ…あの、無礼、と言うほどでは…」
視線が泳ぐシャルル嬢。時に視線は、口より雄弁だ。
第二王子は勢いよく私へ視線を移し、鬼気迫る表情で問う。
「今のが、民の、総意か?」
ばっかでぇ。思わず鼻で笑う。
「それ、本気で言ってます?王都だけで何人いると?皆に聞いて回れるわけがないでしょう。大体、そんなこと論ずるほど暇な者はおりません。」
あ。シャルル嬢がちょっと睨んでいる。流石に言い過ぎたかな?
「今のは私個人の感想です。些か言い過ぎました。大人げなかったです。ごめんなさい。」
私は素直に頭を下げた。




