聞き耳立てる。
「マクシミリアン…」
不機嫌極まりない声音で、コンラート殿下が小さく名を口にする。アレが例の従兄弟殿か。年の頃は20代半程。確かに髪も目も第一王子に近しい色合い。顔面偏差値も平均より随分高い。が、従兄弟と思うと…美形?金髪碧眼は派手だけど、地味王子コンラート殿下の方が、顔の造りはよろしいんじゃないかしら。
「クルト、少し近づいてみましょう。ここからでは何を話しているのか聞こえませんし。」
「ああ。」
野次馬をかき分け、最後尾に居る背の高い護衛を壁代わりに身を隠す。
やっと聞こえるようになった話の内容は、レオンハルト殿下の婚約についてだった。
「レオン、いけないなあ?婚約は破棄したんだろう?元婚約者とデートだなんて。」
「…正式な破棄ではない。それに、シャルルと結婚することにしたんだ。」
「おやおや?優柔不断は直すべきだも教えたじゃないか!君は王子なのだからね。一度捨てたモノを拾うなんて、すべきじゃないなぁ」
「シャルルはモノではないし、捨ててなど居ない。余計な口を挟むな。」
「臣下として、従兄弟として、レオンを案じているだけなんだけどなあ?弟みたいなものだし。私の気持ちも分かるだろう?ねぇ?」
大げさに身振り手振りを付けて話すロット伯爵家令息は、どことなくねちっこい印象がある。三文芝居っぽい。それに、わたしが言うのも何だけど、その口調はどうなの?庶民より貴族は身分にうるさく、位が上の相手にあんな話し方を普通はしないと思うのだけれど。顔が良い分、あらゆる残念感がハンパない。
黙って睨む第一王子に、困ったヤツだと言わんばかりにわざとらすく肩を竦める。芝居がかった動きが格好いいとでも思っているのかしら?
「マレルリアート侯爵令嬢とて、一度裏切られた相手と添うのは、お辛いですよね?」
シャルル様へと標的を移したのか、わざわざ視線の高さを合わせて話しかける。
「いいえ、ロット様。わたくしは、レオンハルト様との婚姻を望んでおりますの。」
毅然とした態度のシャルル様に、ロットは一瞬笑顔のまま硬直し、次の瞬間には悲しくて堪らないという顔を作った。
「なんと!国の未来のためにレオンと縁付くのですね?その小さな肩と細い腕に国を負おうとは!このマクシミリアン、感服致しました…お困り事がございましたら、どうぞロットをお頼りください」
胸に手を当て礼をとるロットは、うっすら頬を赤らめ、潤んだ瞳でシャルル様を見つめた。うぇ。
気持ちの悪い媚び売りもどうかと思うし、その物言いがまた癇にさわる。まぁ基本その通りなんだけど、勝手に他人の恋心を無かったことにしているあたりや、自分で仕向けたくせに白々しいあたりがムカつく。シャルル様の男の趣味は理解しがたいが、彼女が義務だけでソレと居ると決め付けて良いはずは無い。
「お申し出、感謝いたします。ですが、わたくしがまず頼るべきはレオンハルト様です。どうかロット様は心安らかにお過ごし下さいませ。」
大きなお世話だと満面の笑みで告げるシャルル様。日々、素敵な男前へと育ってらっしゃるようである。とっても素敵ですが、それで良いんでしょうか、シャルル様。
……あれ?
ふと、気づいた違和感。聞き耳立てるのに必死すぎて、気づくのが遅かった位の違和感。
「クルト…」
「ん?」
「あの人、なぁんでこんな所に居るんですかね?」
書けないっ…




