嵌められて。
至近距離からの怒声は、私とシャルル様にも流れ弾的に害を及ぼした。シャルル様は驚きの余り固まってしまったし、私は耳が痛い。
「コンラート様、落ち着いて下さい。そんな大声出したら誰か来ますよ?」
しかも兄貴だなんて。王子っぽくない言葉づかい。
「構うものかっ。兄上、本気で言ってるんですか?本当に?」
殴られ、絞められ、怒鳴られて、第一王子はこの世の終わりみたいな顔をしている。
「そんな顔をしてもダメですよ兄上!兄上、本当に気付いて無かったんですか?アイツ、僕ら兄弟をかなり侮ってますよ?兄上はどうか知りませんが、僕はかなりいじめられましたよ?しかも、シャルに横恋慕してますからね?婚約破棄よりずっと前から!」
ダメなヤツじゃんソレ。
「まんまと嵌められて…ほんっっっとうに馬鹿ですね!兄上は!」
容赦ない弟に、そろそろ泣き出すかと思った第一王子だが、意外にも真剣な顔をしている。
「マクシミリアンが、シャルルを…?」
「そうですよ。お茶会でも、舞踏会でも、遊園会でも、いつもいやらしい目でシャルを見て!兄上が席を外せば必ず近寄ってきて馴れ馴れしくベタベタと…シャル、兄上に言ってなかったのか?」
「え、ええ。でも、まさか…勘違いではないの?」
「シャル!君まで!!いいかい?普通はね、第一王子の婚約者の肩や腰を抱くなんて畏れ多いの!大体、僕らの従兄弟だと言ったって、家格はシャルより下だよ?下の者が上の者にする?しないよね!普通!」
しないだろうねぇ。普通。友達なら、肩を組む位やるけど…婚約者がいる女性の腰は…無いなぁ。許されるのはダンス中ぐらいなものだ。加えて家の格とか…お貴族サマは色々と面倒だなあ。
しかし、まあ…
「伯爵家の方は、さぞ喜んでいたでしょうね。レオンハルト殿下が馬鹿で。」
シャルル様が王子と結婚すると、侯爵家と伯爵家のバランスがとれる。すなわち、世間的に侯爵家の立場が上という、当たり前の状態へ戻る。
お妃様が実家や親戚を重用させているなんて話は聞かないけれど、ロット伯爵家の方は、少なからずお妃様というブランドを有効活用している。侯爵家と王族が縁付くのは面白くない筈だ。そこに私情がたっぷり絡めば、当然のように妨害行動に出るだろう。
唆しやすかったろうなぁ。馬鹿王子は。
当の馬鹿王子と言えば、何やらふるふるとしている。
「…肩?…腰?…ベタベタと?」
「殿下?」
へたり込んでいた馬鹿王子がすっくと立ち上がり、シャルル様の両肩を掴む。
「他に何もされていないか?!嫌な事は無かったか?!」
「は、はい。」
情けない顔つきから、突如真剣な王子顔へと戻ったものだから、シャルル様が面食らっている。
「殿下ぁ?なぁに気安くシャルル様に触れてらっしゃるんですか?」
私の意図が分からないのか、シャルル様の肩へ手を置いたまま私を見て首を傾げている馬鹿王子。
「ご自分の行動や発言をもうお忘れですか?あんなに傷つけておいて、よくシャルル様を心配なんて出来ますね?そんな権利、無いんですよ?殿下には。ご自分が一番シャルル様が嫌な事をしておいて。分かりますか?」
「あっ…すまない…」
「すまない?どれに、誰に対してです?すまないで済む程度の事ありましたっけ?」
しばらく静かにしてましたけど、私、怒ってるんですからね?




