不敬罪な発言。
読んで下さって、ありがとうございます!
「殿下がシャルル様と婚約していることは、王都の民ならば知らぬ者はおりません。お二人の婚約は公的なものでございましょう?」
「ソレがなんだとおっしゃりたいのかしら?」
「婚約とは、契約でございます。しかも、内輪の決定でも口約束でもなく、誰もが知る公の契約です。殿下の行動は契約違反です。」
「はぁ…?」
ぽかんとするシャルル嬢。
「私たち商人にとって、信用や契約というのは重大なモノなのです。口約束を覆す…というのは、割と少なくはございませんが、公的な契約を覆すというのは、まず不利益しか生みません。一方的な契約不履行だなんで、契約相手以外にも心象が悪くなる悪手です。」
「そう、ですね。」
「お二人の婚約は、ただ好きだからではありませんよね?政略としての面もあるかと思うのですが?」
「え、ええ。」
「王家と侯爵家の婚姻について、私たち民としては両家の益のみなず国への益があると見ています。いかがでしょうか?」
ここに来て、はっとした顔で私を見るシャルル嬢。
我が国は王家をトップとして、侯爵•伯爵•男爵と並び、その下に騎士•兵士•庶民となる。が、権力や武力が必ずしもこの序列通りとは言えない。
現王のお妃様は伯爵家から嫁いでいて、どうしたって伯爵家への利益が感じられる。男爵家の中には、戦の功績を持って爵位を得た者もいる。そんな男爵家だと、私兵はちょっとした軍隊位抱えている。そして、戦をしたことがある近隣諸国は、一つ二つではない。
王家と侯爵家が縁付くと、伯爵家とのバランスが取れる。王家の兵力と侯爵家の私兵の数を考えれば、内乱を起こす馬鹿はそういない。国が乱れなければ、他国に攻められる事は無い。民は戦争を望まない。
「一時の気の迷いに流され、契約不履行。国王となるべきお立場でありながら、国の利益を、民の事を考えない行動。今の殿下は、愚王としての片鱗しか見て取れません。」
はっきりくっきり不敬罪な発言。
「それはっ…まだ、年若く、一途な行動は若者には多く見られる事ですし、本来のラインハルト様は優しく、聡明で…」
「シャルル様。殿下はただの若者ではございません。王子なのです。そして、勉学が出来ることを聡明とは申しません。利益だけではなく、心から愛して支えようとするシャルル様を顧みない事からして、以前を存じ上げませんが、現在の殿下はただの馬鹿です。」
「馬鹿…」
驚きを通り越して、若干青ざめるシャルル嬢。
「そんな馬鹿は私としても迷惑ですし、シャルル様にも不釣り合いだと思っております。」
あー、スッキリした!
「わたくしを謀ろうとしているのでは…ないのですか?」
「私になんの得がありますか?」
青ざめつつも、しっかりと私を見るシャルル嬢。話は分かるけど、納得はしてないってところだろうか?
「万が一、私が殿下と縁付くとして、私は、貴族の皆様を敵に回す事でしょう。そのせいでお得意様が実家を危機に陥れるかもしれません。さらに、馬鹿王子の面倒と、王妃という考えたこともない重責を背負わされる。我が家が王家御用達の貿易商に成り上がれたとしても、まだ益が足らない。損失が大きすぎます。」
「貴女は正直な方だったのね…」
シャルル嬢の顔色は冴えないままだが、私を見る視線は敵というより、珍しい生き物を見るソレへと変わっていた。
「シャルル様にははっきり申し上げて大丈夫だろうと思いまして。」
「わたくしには?」
「はい。どんなに怒ってらっしゃっても、ちゃんと話は聞いて下さいますから。聡明とは、シャルル様の様な方のことを言うのです。」
「わたくし、貴女にたくさん意地悪をしてしまったのに…」
彼女の言う意地悪とは、実に可愛らしい程度のものだった。王子への愛故に嫉妬し、怒りに駆られても、大変育ちの良い、いいトコのお嬢さんは、所詮、いいトコのお嬢さんのままだったのだ。取り巻きを作るでもなく、一対一の正々堂々とした対決を好み、暴言を吐いたあと、自分の暴言に恥じ入るような令嬢。しかも暴言って、すごく頑張って「泥棒猫!」が精一杯っていう微笑ましさ。そんなの可愛らしいばかりで、怖くもなんともない。
私が彼女なら、卑劣で、陰惨で、いっそ殺せと泣くような仕打ちを考えられるだけに、本当に可愛らしいと心底思う。
その原動力があの馬鹿ってのが気に入らないけれど。




