姉。
「レオンハルト殿下へ
大切なお話がございます。ご都合よろしければ、本日の講義が終わりしだい、図書館裏手の散策路までご足労頂きたく存じます。
個人的なお話となりますので、どなた様にも気付かれることなく、いらっしゃって頂けると幸いです。万が一、どなたかが付いていらっしゃった場合、二度と再びお話することは無いでしょう。
リアより」
見つからずに殴るには、人目の付かないところへ誘い出すのがベストである。シャルル様から分けて頂いた、かっわいいバラの花柄便せんに書いた呼び出し文を、コンラート殿下の前で音読してみる。残念ながらシャルル様は講義の最中だ。
「どうです?」
「若干脅迫めいてるけど、リアらしいとは思う。」
苦笑い気味ではあるが、まあ良いとされたとみなし、封筒へ入れ封をする。これをコンラート殿下から第一王子へ渡してもらう算段だ。
「兄上のことだから、多分一人で来てくれるよ。」
「そうでなければ困ります。目撃者を消す訳にもいかないし。」
「物騒な事を言うな、お前。」
呆れているけど、付き合ってくれるのだから彼はよい子だ。そんなよい子に、おねーさんは少しばかり老婆心が向く。
「コンラート様。」
「んー?」
透けるわけでも無いのに、窓からの明かりに封筒をかざして見ているコンラート殿下。陽に透けると、殿下の髪も瞳も真っ赤に光って別人のようだ。地味とか言えない。むしろ派手。紅葉のようでとても綺麗。
「レオンハルト殿下が、本当は私を好きでは無くて、やっぱりシャルル様が好きだと仰ったら、どうします?」
「別に?良いんじゃ無い?丸く収まって。あー、でもお説教位しようかな。」
あら?
「良いんですか?本当に?」
「むしろ喜ばしいじゃないか。なんだよ?」
「いや…今ならシャルル様を、レオンハルト殿下から略奪出来るのになぁと。」
シャルル様のこと、大好きでしょ?キミ。
理由があれば、兄弟間で婚約者が変わるなんて、珍しい話でも無いと聞く。国を思えば、第一王子と結婚するのがベストだが、私個人としては、コンラート殿下とくっつくのも悪くないと思うんだ。彼はシャルル様を泣かせたりしない。
「はあ?!!」
ガタタと、座っていた椅子を蹴倒す勢いで立ち上がったその顔は、予想していた真っ赤ではなく真っ青だった。
「…止めてくれ。有り得ないだろ…気持ち悪い…」
よろめきながら倒した椅子を起こすコンラート殿下の顔色は、よろしくない。
「気持ち悪いとはなんです。シャルル様ですよ?ほぼ天使ですよ?」
「お前ねぇ、シャルは姉だぞ?」
「レオンハルト殿下とご結婚なさったらでしょう?」
「生まれた頃からいずれ姉になると聞いているんだから、初めから姉として接してるよ。僕にとって義理の姉なんかじゃないの。本当に有り得ない事を考えるなぁ…」
ぐったりした様子で椅子に崩れ落ち、信じられないと言わんばかりの、若干怯えているかのような視線を向けられて、ちょっとだけ私はムッとした。
「だってシャルル様だし…」
「あのなぁ…あぁ、リアも兄がいたよな?兄に恋心とか抱けるか?義理の兄だったと仮定して、どうだ?」
想像するまでもなく、全身に鳥肌が生じる。無理だ!兄としてはそこそこ良いと思うし、アレを好きな女性には見る目があるね位言いたいが、男としては考えられない!本能的にナシだ!!
「無理ですねー…」
「だろ?僕もそんな感じだよ。」
とんでもないこと言っちゃった。
「…すいませんでした。」
「良いよ、別に。分かれば。じゃあ、僕はコレ、届けて来るから…」
「よろしくお願いします。」
立ち去るコンラート殿下は、若干よろめいていた。
本当にごめんなさい…転ばないでね…?




