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パーティーの翌日の朝、俺はぐったりとベッドから身を起こした。
昨日はつらかった...家に入った瞬間に母親の説教がスタートしたのだ...。俺はドレスのままぶっ続けで二時間説教された...。途中で俺は何度もエリザベスちゃんの姿を思い出し、自分を励ました。エリザベスちゃんがいなかったら俺は多分屍と化していた。
説教が終わったら自分の部屋に直行、侍女のエミリにドレスから着替えさせてもらい、その後何かしらしてもらったと思うけど、どうも記憶が曖昧だ。
覚えているのはへとへとでベッドに滑り込んだ時だけ...。
でももう俺は自由なんだ!正直昨日何言われたかあんまり覚えてないけど、まあ大丈夫だろきっと。
「あら、おはようマリアンナ。気分はどう?」
「おはようございます、オリヴィアお姉様。気分は良いですわよ。どうして?」
「だって、昨日あんなにつかれていたでしょう?心配だったんだからね」
「あっ...(ちょっ...記憶から消そうとしてたのに...)」
朝ご飯の直前で、オリヴィア姉さんに言われて俺はびくっとした。
「あ、そうだ。聞いたんだけど、昨日のお料理全種類食べたって本当?」
「え、ええ...まあ...(す、少しずつだから!量はそんなにないと思うから!)」
「そうなんだ。すごいねえ、マリアンナ。どうだった?おいしかった?」
「はい、全てとても美味でした(うん、全部美味しかったな)」
「そっかあ、じゃあ私も将来ためしてみようかな?」
「やめてよオリヴィア姉様!」
悲痛な声で割り込んで来たのは慌ててダイニングに入って来たノアだ。
ノアは俺のことは姉さんと呼び、オリヴィア姉さんのことは姉様と呼ぶ。何でそうなったか?心当たりあり過ぎるわ。
「オリヴィア姉様、パーティーでぜんぶ食べるなんてふつうの人間のすることじゃないよ!」
おい。
全部じゃねえし!全種類だし!出された料理全部の量なんて俺だって食べきれないし!
「うーん...たしかに、ちょっときついかも...」
「でしょ!?マリアンナ姉さんがおかしいんだよ!」
お前...。ノア、お前...。
考え込んでいたオリヴィア姉さんが、不意にぱあっと微笑んだ。
「でも、チャレンジせいしんは大事だよねえ」
姉さん可愛い!!可愛過ぎ!!
見とれる俺に対してノアは絶望的な表情で頭をかかえた。
「何を騒いでいるの、オリヴィア」
あ...。
いつの間にか、母親がダイニングにいた。
いつも母親とオリヴィア姉さん、俺、ノアの四人でご飯を食べている。父親はほとんど一緒にご飯は食べないのだ。
金髪碧眼の母親の綺麗さは、俺が母親を初めて見た時から変わっていない。
やべー...昨日のことは触れないでね母さん...。
小さくなってノアの影に隠れようとする俺を母親は見ることはなかった。ただオリヴィア姉さんを見つめている。
「貴女は、将来王妃になるのよ。それを分かっているの?だとすれば、騒ぐなんてことは、しない筈でしょう?」
「はい...ごめんなさい、お母様...」
しゅんとなるオリヴィア姉さん。ごめん可愛いと思ってしまう。
「私の娘超可愛い!愛してる!(常に自分の行動を意識しなさい)」
あれ?今本音と建前逆になったぞおい。
母親はよくこういう風にうっかり本音を口に出すことがある。その時はスルーしつつ和むのが我が家のルールだ。
母親は真っ赤な顔で咳払いをしている。スルー、スルーだスルー。あと和め。
「私も、お母様のこと大好きですっ」
ぐおおおおおおおおオリヴィア姉さんんんんんん!
可愛いオリヴィア姉さんがあわあわしてる母さんに抱き付いた!
ちょ、写真...!誰かカメラ...(この世界にもカメラはあるのだ)!
つかノア!お前何ぼーっとしてんだ早く目に焼き付けろよ!!
は?シスコン?マザコン?馬鹿め、俺はそんなんじゃない。ただ家族が好きなだけだ。
いやぁ、家族っていいねえ。素晴らしいよ。
後日、母親に姉さんが抱き付いた光景を父親がしっかり盗撮していたのを俺とノアは知ることになる。父親の「家族幸せ探知スキル」はカンストしているらしい。戦慄した俺は己の未熟さを思い知った。
ノアは父親が撮った写真を欲しがり、父親は快くノアに焼き増しした写真を渡した。俺にも下さい宝物にします。
ちなみにノアはあの時ぼーっとしていた訳ではなく、和んでいたそうだ。それなら仕方ないと俺は納得した。
ところでノア、オリヴィア姉さんが大食いに挑戦しようとしたら、二人で頑張って止めような。