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番外編 アリスの受難

アリスとルイス、マークのお話です。

アリス視点になります。腐ネタなど多々含みますので苦手な方はご注意下さい。

 アリスでございまーす!

 ダダダッ!

 お魚くわえt

 ごめんなさい、現実逃避です。

 私は、慌てて頭を振ると、目の前の惨状を改めて見据えました。

 ここは放課後の校庭で、マーク様とルイス様がいます。

 それも、お互いを睨み合うようにして。

 マーク様がとても真面目な表情で、口を開きました。

「アリスさんは渡しません」

 ひぃっ二次元でしかなかなか聞けない台詞!

「ふん、貴様にはオレは止められん!」

 対するルイス様も定番の台詞を!

 何なんでしょう、これは。まるで私が「止めて!私の為に争わないで!」の位置にいるみたいではありませんか!

 どうしてこうなった。



 きっかけは、何だったのでしょうか。

 いえ、まずは一番最初から整理しましょう。

 私の名前はアリス。服屋の一人娘で、普通の平民です。王族貴族が通う学園に在籍しています。

 半年くらい前まで、私はお告げというものに頼って生活していました。そのお告げの正体とは、前世の記憶による囁きです。

 つまり、私はこのファンタジーな世界に転生した存在なのです。前世の私は、地球という星の日本という国で生まれたこれまた普通...いえ、二次元が大好きな女でした。取り合えず前世の話は置いておきましょう。

 前世の記憶が戻ったきっかけは、同じ転生者であるケインさんの言葉でした。

「僕の恋を叶えて...これに、聞き覚えは?」

「僕の恋を叶え...て...」

 その時の感覚は、何というのでしょうか、とにかく頭の中に無数の単語が浮かんでくるようでした。

 転生、異世界、地球、日本、柊亜美ひいらぎあみ、二次元、乙女ゲーム、ヒロイン、攻略対象、悪役令嬢、ざまあ...など、これはほんの一部ですが、前世で学んだ単語が一気に浮かび上がったのです。

 いくらハイスペックな体とはいえ、頭の処理が追い付かずに私はぶっ倒れました。

 その後、丸二日熱にうなされながらも、大部分の処理が終えられ楽になった三日目の昼頃だったと思います。

 急に、頭の中がふわふわになり、私としての意識はぷつっと途絶えました。

 そして気付いたら、教室に寝転がっていてケインさんと目が合いました。

 な、何を言っているのか分からねえと思うが私も何をされたのか分からなかったぜ...頭がどうにかなりそうだった...。

 とにもかくにも、敵意を目に宿した攻略対象の皆様と悪役令嬢のマリアンナさんが揃っているその状況に、私はこれは断罪イベントなのではないかと推測しました。

 意識がない間に、やらかしてしまったのではないかと。

 そこからは、もうね、謝罪しかありませんよね。だってざまあ定番の追放なんて遠慮したいですし、何より、こんな見目麗しい皆様を拝めなくなるなんて、ありえないんだぜ!妄想が捗りますなあひゃっほーい!

 前世の記憶が戻った私は、妄想の素晴らしさに気付いたのです。ぐへへ。そして、お告げをしていたのが自分自身であったことにも、少し安心しました。常識はずれな行動ではありましたがね。

 ハイスペックな体を活用して様々な土下座を見せた私を、マリアンナさんは寛大な御心で許してくださいました。

 その後知った衝撃の事実。

 マリアンナさんとケインさんはTS転生をしたというのです。

 しかも、マリアンナさんとケインさんは幼馴染みという間柄。

 大変です、シチュエーションが萌えます!私、NLも大好きなんです!

 とはいえ、高校生であったというお二人。その若さで転生したということは、軽々しく扱ってはいけないものでしょう。

 あまりお二人の前世についてはしつこく聞かないことにしましょう。

 でも妄想するのは許してほしい。誰にも話したりしないから。

 そんなこんなでマリアンナさんとケインさんの同志になった私は、これまでの己の行動を悔い改め、無事ざまあを回避したのでした。

 そして、ジェイダさん。この人はとっても真面目で優しくて可愛いという三拍子を揃えている人です。

 私の記憶がない、つまり魔法にかかっていた時に、私がジェイダさんに酷いことを言っていた、というのをマリアンナさんから聞いた私は即座にジェイダさんに土下座しました。それを受けてジェイダさんは、私の今までの行動を咎めつつ、「仕方ありませんね!」と許してくれたのです。本当に、本当に優しい人です。惚れる。

 怖い話が苦手なところとか、好きな紅茶を飲むと嬉しそうにちょっと笑うところとか、本当に可愛い。

 ジェイダさんとはこれからもずっと友達でいたいと願います。私の友達マジ女神。



 それから、隠しキャラのフィリップ様の一件があったり、進級したらヒロインを自称する女の子が入学してきたりと、色々ありましたが、割愛します。

 少し、マーク様とルイス様のことについてお話しましょう。

 マーク様は私と同じ平民でありながら、魔法を使うことが出来ます。故に、エイデン様の腹心であるのです。

 ゲームの世界ではヤンデレで、私は前世、よくマーク様受けで萌えていましたが、この現実では違います。困った顔が何とも萌える苦労人タイプ、と私は思っています。あ、ケインさん相手に対してはちょっと腹黒くなるの希望!...話が逸れました。

 そんなマーク様は、初めの頃はぐいぐいくる私に辟易していらっしゃいましたが、魔法に関する話を飽きることなく聞く私を少しは良く思ってくださったのか、疎まれることはなくなりました。

 余談ですが、マーク様の魔法に対する情熱はすごいです。ケインさんに「僕の恋を叶えて」のことを言われる直前の時も、そばにいるべきエイデン様のことを忘れて私に魔法の重要さを語るくらいですから。

 続いてルイス様についてです。

 ルイス様は騎士団長様の息子で、口癖は「鍛練」です。記憶が戻ってない頃一緒に訓練したりもしましたが、スタミナが無限で、ひたすらストイックな人なのです。一回だけ腹チラを拝見したのですが、とんでもなかったです。見えたのは少しですが、ムッキムキでした。マジぱねぇ。

 ゲームの世界ではピュアアンドピュアな真面目さんでした。どうしてそうなった。

 ルイス様とは、私の身体能力を買われ、一時期一緒に訓練して、現在ストーキングされている程度の仲です。私のハイスペックな身体を、素直に認めているそうな。

 マーク様もルイス様も、どちらもとてもイケメェンです。

 そんなお二人が並んでいる様なんて、ご馳走さまとしか言えません...普通なら。

 ようやく本題です。

 求婚されました。

 誰が誰に?

 私が、ルイス様に、です。



 それはある日の昼休みのこと。

「アリスさん、ちょっといい?」

 マーク様にそう話しかけられた私は快諾しました。

「エイデンの側近になる気はないかな?」

「...へっ」

 寝耳に水、でした。

「アリスさんは身体能力も高いし、頭も良いよね?すごく優秀だと思うんだ」

「えっ...えええっ!わ、私平民ですよ!?」

「僕も平民だよ。あ、勿論無理強いはしないよ!でも、そういう道もあるんだって、ちょっと考えてほしいかな」

「は、はひっ」

 マーク様はちょっと困ったように微笑むと、去っていきました。

 いや、流石にそれは...だって私、かつて逆ハーを企んだ女ですよ?第二王子様のそばになんて、とてもとても。駄目でしょう。

 確かに体はハイスペックですが中身がですね...ちょっと腐ってるのでねえ...。

 その日の放課後、ルイス様に見つかった私は訓練に付き合いましたが、マーク様の提案がぐるぐると頭を回り、集中出来ません。

 将来のことは、正直あまり考えていませんでした。私は一人娘なので、祖父の代から続く服屋を継ぐ、と少し思っていましたが...ですが、私はこの学園に入学したのです。であるならば、この能力を国の為に使うべきなのでしょう。でも...。

 悩んでいた私を、ルイス様が「いい加減にしろ!貴様は鍛練を何と心得る!」とぶったぎりました。

 ぽつぽつと、マーク様に提案されたことを話すと、ルイス様はしばらく考え込み、そして言い放ちました。

「アリス!オレと結婚しろ!」

 脈絡が無さすぎて咄嗟に反応出来ませんでした。

 ですがルイス様が満足そうに頷くので、慌てて声を上げました。

「な...何でですか!?」

「そうするべきだと思うからだ!」

「だから何でえぇぇええっ!?」

 結婚なんて前世でもしたことないのに!というか恋人もいたことないのに!あっ悲しい。

 叫びあっている内に、マーク様がやって来て...事情を知らせ、冒頭に戻ります。



「そもそも、アリスさんは嫌がってるみたいですよ?」

「何!?そうなのか!?」

「いえあのですね、まず理由を知りたいんですよ。ルイス様は何故私を...」

「そんなのは決まっている!」

 ルイス様はいつものように叫びました。

「オレは貴様を気に入っている!貴様となら愛などなかろうが結婚出来る!」

「...へい?」

「オレには大切な者など必要ない!自分の為に強くなるからだ!であるならば、ただ守られる女性などオレはいらない、鬱陶しいからな。その点貴様は己の身も己で守れるだろう。貴様はオレの理想の結婚相手だ。だから求婚した!貴様がマークの元へ嫁ぐ前にな!」

「えっ!?アリスさん、僕と結婚するのかい!?」

「私も初めて知りました!ルイス様一体何の話をしてるんですか!?」

「む、違ったか?」

「違いますよ!!」

 何でエイデン様の側近になるって話からマーク様と結婚する話になっているのでしょうか。

「な、何だ...もしかして、ただの勘違い...?うわ、僕結構恥ずかしいこと言ってたような...」

 赤い顔を手で覆うマーク様。可愛い。それケインさんの前でやってもいいのよ。

「そうか、違うのか!しかし、そうだとしてもだ!オレは貴様に結婚を申し込むぞ、アリス!」

「え、ちょっ...ちょっと、待ってください!わ、私は...」

 頭が回らない。

 前世でも恋人なんていない私には、どうすればいいのか分かりません。そもそも私は夢女子という訳ではないのです。他の人の恋愛を隅っこから見ながらにやにやしていたいのであって、前世ではマーク様総受けだったり今世でもケインさん総受けであったりするのを妄想している訳であって...。

「アリス!返事は!」

「あ、あああああの、わ、私はルイス様が思うような人ではありませんから!えげつない妄想とかしてそれで幸せになるような者でして、決してルイス様のお眼鏡にかなうような者では...!」

 あ。

 言ってしまった。

「えげつない...って、どういう意味...?」

「え?あ、無遠慮で、節度を超えているというか...」

「そういう...妄想...?」

 マーク様は難しい顔をして首をかしげる。あざといです。

「アリス、貴様は勘違いをしているようだな!オレは貴様がどのような趣味嗜好を持っていようが、構わん!」

「...それって、私じゃなくてもいいのでは...?」

「何を言う!貴様の能力は他には真似出来ないものだろう!このオレの鍛練についてこれる女性など、他には存在しない!」

「う、うーん...」

 それって物凄い捻った言い方すると、体目当てってやつなんじゃあ...?

「それとも何か!貴様には心に決めた者でもいるのか!」

「いやそれはないですけど...あ」

 しまった、嘘でもいるって言っておけば良かった。

「ならばオレでいいだろう!オレの何が不満だ!」

「えっと...そう、私の家、服屋なのですが、継ぐ必要があるかなー、なんて...」

「ならば兼任すればいいだろう」

 け、兼任!?成程その発想はなかったです。

「...いやいや、違うそうじゃない。私がルイス様と結婚出来ない理由は...」

「理由は?」

「わ、私は!実は、あ、あれなんです!」

「あれとは何だ!」

「えーっと...お、男だから?」

「何だと!?」

 自分の言い訳の下手さに絶望しました、もう逃げたいです。

「ア、アリスさん...何でそんなすぐばれる嘘を...」

「...そう、だったのか...」

「「!?」」

「成程...それならば理解出来る、貴様がオレについてこれたこともな!」

 マーク様が驚愕のあまり顎を外しました。

「それならば仕方あるまい。ふっ、何の事情があるかは知らんが...強く生きろよ」

 あなたは何ですか!?乙女ゲーの主人公並みの鈍感なんですか流石にありえないと思うのですが!?

「それではな、アリス。また共に鍛練をしよう!」

 爽やかに片手を上げ、ルイス様は颯爽と去っていきます。

「...ル、ルイス先輩は、その...頭は、大丈夫なのかな?」

 顎を直したマーク様がオブラートに包もうとして包めていません。

「...分かりません、が...」

「が?」

「鈍感とか正直萌えます」

「えっ?」



 その後、ケインさんに真実を知らされたルイス様が怒鳴り込んできたけど、そこまで私が結婚したくないと悟ったのか、求婚はなかったことにされました。

 実際私も流石にあれ程の人と結婚して身が持つ可能性はほとんどないと思います。遠くから見てる分には萌えるのですが。

 やっぱりこんな異常を容易く日常でやってのける二次元ってすごいなあと思いました。

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