番外編 新たなるヒロイン 後編
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マリアンナ視点です。
ケイチーが予想した通り、アイリスちゃんは攻略対象の奴らに絡み始めた。
昼休み、エイデンとベティちゃんが仲睦まじく一緒に廊下を歩いている様を歯ぎしりしながら俺が陰で観察していると、二人の進行方向からアイリスちゃんが早足でやって来た。
そしてエイデンの正面に行くとびっくりするぐらいわざとらしく躓いた。
流石に自分の方に倒れ込んでくる女の子を放っておく訳にはいかなかったのか、エイデンは慌ててアイリスちゃんを受け止めた。
「きゃぁっ、ごめんなさーい!」
「い、いや、大丈夫か?気を付けてくれ」
「はあい、ごめんなさい!」
そう言いつつも、アイリスちゃんはエイデンにしがみつき離れようとしない。
「...もういいか?」
「ひゃっ!」
エイデンがアイリスちゃんを放そうとしたら、アイリスちゃんは再びわざとらしく体勢を崩し、床に倒れた。
「ええ!?」
「うぅーっ、酷いですぅー」
「す、すまないっ」
「大丈夫?」
情けねえエイデンの横から、すっとベティちゃんが進み出て、アイリスちゃんに手を差し伸べた!
ぐあああああっ、素敵!ベティちゃん、素敵ー!!格好いい!可愛いー!!
内心悶える俺をよそに、アイリスちゃんはベティちゃんを無視して立ち上がった!?
「エイデン様ぁ、私、足を捻っちゃったみたいで...どうしましょう?」
絶対嘘だろ!?
ちらちらと目線を送るアイリスちゃん。
ヘタレエイデンは「いや、あのな、その」なんて言ってるが、そこでまたベティちゃんが動いた!
「肩、貸します」
何というイケメン!これ以上俺を惚れさせてどうすんだベティちゃん!!
「...エイデン様、私、足を捻っちゃったみたいで...どうしましょう?」
無限ループ...だと...!?
結局アイリスちゃんはしびれを切らしどちらの助けも借りずに去っていった。
いやあ、流石ベティちゃん。やっぱエイデンには勿体ねえぜ!
「そうかそうか、それは偉いな!ところでアイリス、これ担任の先生に渡しておいてくれ」
「えっ?いえ、あの」
「頼んだぞー」
...何だかんだでアイザック大人だな。ああ、禿だもんな。アイリスちゃんがわざわざ教員室にまで来て絡みにきたのに、あっさり流しやがった。
ちなみに俺が何故ここにいるかというと、ケイチーからアイリスちゃんを見張ってくれって頼まれたからだ。ケイチーが行くとすぐイケメン大好きアイリスちゃんに見つかってしまうしな。面倒だけどまあ仕方ねえ。
マークが校庭で魔法の練習をしているのを、アイリスちゃんは近くでこれでもかと凝視している。おかげでマークは集中出来ていない。
ついにマークが動いた。
「あの、すいません。危ないので、離れていただけませんか?」
「嫌です」
「えーっ...と」
「私も手伝う!」
「いや危ないから...」
「!あっ、ノアー!今度は私に案内してー!」
「!?うわあああっ!!」
目ざとく遠く歩いていたノアを発見したアイリスちゃんは、マークを放って走っていった。ノア、頑張れ。女の子に追いかけられるとは羨ましい案件だぞ。
俺としてはアイリスちゃんがケイチーを襲わない限りはあんま叱ったりとかしたくねえんだけどな。
アイリスちゃんがこの学園に来てから数週間、俺とケイチー、そして真のヒロインであるアリスちゃんは、アイリスちゃんに忠告をすることにした。
嫌がるノアを使い、アイリスちゃんに、放課後校舎裏へ来いという伝言をする。アイリスちゃんは、バックレることもなく来てくれた。
俺達の前に、堂々とアイリスちゃんは姿を現した。
だが、その余裕もアリスちゃんを見た瞬間に、消えた。
「なっ...何よ、あんた!!」
「初めまして、アイリスさん。私はアリスっていいます」
「は...はあ!?嘘よ!あんたは存在しない!!この世界に、あんたは存在しないの!!」
「いやあそう言われても...」
アリスちゃんは何故か照れたように頭を掻く。
錯乱し喚くアイリスちゃんに、ケイチーは一歩近付き、告げた。
「受け入れな。あんたは主人公じゃない。世界はあんたの思い通りにはならない」
「...ふざけんな!!」
アイリスちゃんは叫び、ケイチーを、攻略対象であるケイチーを睨む。
「そんな筈ない!!私が、私が今まで何の為に...!」
「努力してきたってんなら、真っ向勝負で攻略対象共を惚れさせなよ。私とエイデン、アイザックにはもう相手がいるけどさ」
「...あんたの、せいよ」
えっ俺?
ゆらりとアイリスちゃんは俺に怖い顔を向ける。いや、でも全然怖いと思えねえな。かつて目撃した般若顔のアリスちゃんが怖過ぎたからな。
「あんたが、悪役令嬢の役目を果たさないから...!異常事態が起きてんのよ!!」
マジで?俺のせいなん?知らなかったわ。
「あんたさえいなければ...!」
アイリスちゃんは呻くと、震える手で何かを構える。
それはハサミだった。
ちょっと待て、それどっから出したんだ。
「ちょっと!何考えてんの!」
ケイチーが叫ぶ。
「うああああああああああ!!」
アイリスちゃんがハサミを俺に向けて迫ってくる。
ふっ馬鹿め!俺にそんな鈍い動きが通用すると思うてか!
あっごめんなさい嘘です素直に逃げますすたこらさっさと!
俺とアイリスちゃんの校舎裏追いかけっこが始まって数分後。アイリスちゃんはスタミナ切れで息切れしている。
「う゛う...なん、で...」
こちとらあのでっけー庭を駆け回って過ごしてたんだぞ、負ける訳ねえだろ。
「...はあ」
ケイチーがこの有り様にため息を吐き、アイリスちゃんのハサミを没収しようとした時だった。
「...あんた、だけでもっ...!」
「ちょっ!?」
アイリスちゃんがケイチーにハサミを振りかざした。
「ケインさん!!」
アリスちゃんの悲鳴が響く。
俺は咄嗟に走り出す。しかし間に合わない。
俺の速さじゃ間に合わない。
「止めてくださいっ!!」
「何をやっているっ!!」
二人の声が、重なった。
アイリスちゃんの腕を掴んで動きを止めているのは、アリスちゃんだ。
ハサミを弾き飛ばしたのは、ルイスパイセンだった。
「ケイン・ウィリアクトッ!!貴様、この程度の不意討ちもかわせないのか!」
「...油断していましたから。ルイス先輩は何故ここに?」
「鍛練をしていたら叫び声が聞こえたからな!緊急事態かと思ったのだ」
ふとルイスパイセンはアリスちゃんの方を見て、得意そうに笑った。
「ふん、オレの速さに付いてこれたとは、やはり貴様には素質がある!オレの目に狂いはなかった!」
「ひいっ、イケメン!」
アリスちゃん、それは心の中で言おうぜ。
「放しなさいよ!私がヒロインなのよ!!ルイス!助けなさいよっ!!」
「む、貴様、オレと面識があったか?オレにはないぞ」
「ふざけないで!!私はヒロインなの!!私の思い通りになりなさいよ!悪いのはマリアンナなの!!何で悪役令嬢らしく噛ませにならないのよ!」
「...混乱しているようだな。アリス、そいつをオレに渡せ。オレが連れて行く」
「は、はい」
喚き暴れるアイリスちゃんを、ルイスパイセンは意に介さずに連行していく。
それを見送り、俺は声をかけた。
「大丈夫かよケイチー」
「うん、びっくりした...まさか私にもハサミを刺そうとしてくるなんて思わなかったよ」
「刺すんじゃなくて切るんじゃねえの?」
「いやそれはどうでもいいけど。アリス、ありがとう、助かった」
「いえいえ!ケインさんが傷付いたら皆様が悲しみますから!あっでもケインさんが皆様に看病される絵も割といいかも...いえ!それはあくまで風邪の場合!私、バッドエンドは苦手ですから!」
アリスちゃんはにっこりと笑う。
その笑顔は、俺は攻略対象じゃねえけど、それでもちょっと攻略されたいと思う程、可愛かった。
まあベティちゃんが許さないけどね!
アイリスちゃんは、何故あんなことをしたのかという質問に対して「私がヒロインだから何をしても許される」という一点張りだそうだった。
そう狂ったように訴える異常さと、俺とケイチーにハサミを向けて傷付けようとしたことから、アイリスちゃんは修道院に入ることになった。
修道院ってどんなとこだったっけと思ってたら、規則正しい生活を身に付けるところってノアが言ってた。何だ、学校みたいなもんじゃねえか。
ノアはアイリスちゃんが学園からいなくなって何か嬉しそうだった。ずっと付け回されてたらしいしな。
エイデンとベティちゃん、それとマークは、アイリスちゃんがそんな奇行をしたということに驚きつつ、俺達の心配をしてくれた。ありがとうベティちゃん。エイデン?お前はどうでもいいんだよ!
アイザックは教師として、アイリスちゃんの話をよく聞いてやらなかったことを後悔してるみたいだ。別にアイザックのせいじゃねえんだけどな。
ケイチーとアリスちゃんは、「修道院送りか...ここは現実だって、理解出来るといいね」「そうですね...主人公なんて、いないってことも...」と、ちょっとしんみりしてた。
ともかく、俺達と同じ、転生者のアイリスちゃんの一件はこうして幕を閉じた。
誰か忘れてる気がするが...まあ気のせいだろ。
「ふうぅははははははははああ!!!アリス!貴様を更に鍛え上げてやる!!鍛練をするぞおおおおーーー!!」
「いいいやあああああああ!!イケメンが追ってくるーーー!!」
テンプレ(っぽいもの)を書きたかったんだ...。




