番外編 リチャードという男
エイデンの兄、第一王子のリチャードのお話です。
注意!途中、リチャードが鳥とオリヴィアに酷いことをしています。
見つめる。
暗く狭い部屋の中で、ただ見つめる。
相手も、目を逸らすことはない。
そんなことをしたら、どうなるか分かっているからだ。
やがて、私は顔の筋肉を緩く動かし、微笑んだ。
「...さて、戻ろうかオリヴィア」
「...はい」
オリヴィアははっきりと返事をすると、私から目を逸らした。
この王国の第一王子、王太子である私は、幼い頃から完璧を心掛けて生きてきた。
決して慢心せず、他人を見下さず、勉強に励み、運動に励み、隙を見せず、自分に厳しく他人に割と優しい、完璧な者。周りの人間は私をそう評価した。
しかし、私がそうなる為に努力してきたかというと、そうではない。
私はただ、やってみたことが出来るだけだった。努力といった、苦しみを伴うであろうものを、私は経験したことがなかった。
人間には個性がある。頭が良い者もいれば、足の速い者もいて、魔法が使える者もいれば、周りから好かれる者、逆に周りから疎外される者もいる。それらは全てそれぞれの個性である。
私の個性は、やれば出来るというものである、というだけの話だ。
例えば、私の弟エイデンは、私より勉強も運動の能力も劣るが、純粋な彼は周りから構われる。
例えば、エイデンの双子の兄フィリップは、精神干渉の魔法を使えるが、その見た目のせいで城の者から呪われた子と恐れられている。
本人にとって良いか悪いかは別として、それが彼らの個性だ。
勿論、私の婚約者のオリヴィアにも個性はある。彼女は笑顔を絶やさない。怒りを表すこともない。だが言いたいことは言う。
そして、自由だ。
とても幼い頃の話。
私は城の中庭で、小さな怪我をしている小鳥を見つけた。その小鳥は動きは鈍かったが、飛べないという訳ではなさそうだった。
それに気付いた私は、素早く小鳥を捕まえ、カゴに閉じ込めた。
しばらくして小鳥の怪我は治ったが、私は小鳥を放つことはしなかった。
小鳥は、外へ、空へ行こうと何度もカゴに身をぶつけたが、無駄な努力というものだった。
私にとって、その小鳥が足掻く様は、生まれて初めて楽しめるものだった。小鳥はとても滑稽で、愉快だった。
やがて、小鳥は空を飛ぶことなく、死んだ。
オリヴィアもその小鳥と同じようなものだった。彼女は、他の婚約者候補であった令嬢達とは違い(そもそも他の令嬢達は皆同じような者ばかりであった)、自由に、あの小鳥と同じように見えた。
私は一切悩むことなく、オリヴィアを婚約者に希望した。オリヴィアもまた、私の異常性(おそらくこれは異常なのだろう)を知ることなく、婚約を了承した。
最初は私も我慢していた。オリヴィアが私に微笑むだけでも十分に思えた。
だが、弟フィリップがオリヴィアをいたく気に入り、二人きりで話をした、と聞いた時、自分でも驚く程不愉快になった。
私はオリヴィアを暗く狭い部屋に連れていき、その瞳をひたすらに見つめた。彼女の瞳が自分だけを移していることに、満たされていった。
オリヴィアは私の行動に驚いていたが、拒否することはなかった。
しかし時が過ぎてある日、同じことをしていたら、オリヴィアは不意に目を逸らした。
それに対して私はフィリップの件よりもはるかに不愉快になり、思わず彼女の首を絞めていた。
その後彼女はこのことについて何だかんだ文句を言ってきたが、それ以来あの部屋でオリヴィアが私から目を逸らすことはなくなった。
私はフィリップが邪魔だった。
純粋で愚かなエイデンは可愛い弟だと思えたが、フィリップはオリヴィアのこともあり、鬱陶しいと感じていた。
フィリップに関わるオリヴィアも悪いが、まずはフィリップを排除しなければならない。
フィリップと親交があるのはエイデンとオリヴィアだけだ。
ならば、私がオリヴィアを引き留め、エイデンと仲違いさせて孤立させてしまえばいい。
エイデンが良くない意味の花言葉を持つ花を渡してきたと悩むフィリップに、私は諭した。
「エイデンは周りの人間の影響を受け過ぎている」と。
双子の弟は自分と違い、周りから好かれている。
フィリップがエイデンへの嫉妬から、自分の魔法の力を使用するのも遠くなかった。
結果、フィリップは学園の貴族、平民の生徒に魔法を使ったことで、城から追い出された。
エイデンとはその一件で仲直りしたらしく、エイデンが国王たる父親にフィリップのことで話をしようとしていたらしいが、今更エイデンが何をしようと国王の意志は変わらない。
既に、「いくらフィリップでも、父上を洗脳しようとは考えないでしょう」と告げ、危機感を持たせてある。
まあフィリップがどうなろうと、もうどうでもいいのだ。
これでやっとオリヴィアの心配の一つが解消された。
オリヴィアに手を出しかねないフィリップが消えたことで、城に邪魔者はいなくなった。
オリヴィアは私の大切な、大切な宝物だ。
誰にも奪わせはしない。
オリヴィアがいるから、私は人間でいられる。もしオリヴィアがいなければ、私は楽しみも、嬉しさも何もない人生を送り、まるで人形の如く感情をなくしているだろう。
オリヴィアもそれを分かっている。だからオリヴィアは私から離れられない。
オリヴィアが私に抱いている感情は、私がオリヴィアに抱いている感情、愛情とは違うものだろう。
それでも構わない。
私の側にオリヴィアがいるならば、それだけで私は生きていける。
一番病んでいたのはマークでもフィリップでもなく、この人だった。
オリヴィアは(リチャード様時々怖い、でも素で笑った顔は好きだし、私が、というかあんなことを受け入れてくれる人がいなくなったら大変なことになりそうだし、ああどうしようでも他の女の子はあんなの耐えられなさそうだし例え耐えたとしてもちょっとしたことで首絞められたら見放してしまうかも...リチャード様が一人になるのは悲しいし、でも私も痛いのは辛いけどでもああもう私は本当はリチャード様好きなんだって何で認めないの!でも認めてそれをリチャード様に言ったらもっと支配されそうだしあああああ)と感じています。




