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番外編 エイデンの告白

温かいコメント、ありがとうございます!


エイデン視点になります。

「エイデン、一発我慢しろ」

「嫌だ!」

 ゆらりと現れたケインがすごいことを言ったので、慌ててマークの元へ避難した。

 今、俺は学園の中庭にいる。近くには、困った顔のマーク、珍しく狼狽えているエリザベス、彼女に寄り添うマリアンナ嬢がいる。

 何故こうなった。

 先程までのことをよく思い返してみよう。



 俺は、放課後中庭でお茶会をしようとエリザベスを誘った。

 マークには、マリアンナ嬢を引き止めていてくれないかと頼み、そのかいあって俺はエリザベスとの至福の時間を楽しんでいた。エリザベスも同様だったと思う。そうであってほしい。

 だが。

 エリザベスと深く話し込んでいくうちに、俺は酷く思い知らされた。

 何をって?

 エリザベスのマリアンナ嬢への愛以外に何があろうか!

 勿論、俺は分かっている。エリザベスは、親友であるマリアンナ嬢に並々ならぬ愛情を抱いていることくらい、分かっている!しかし!今エリザベスと話しているのは俺ではないか!こっちを見てくれエリザベス!俺を見ろ!!

 と、そんな具合で、俺は憤りに任せエリザベスへの積年の想いをぶちまけた。ぶちまけてしまった。

 狂乱する俺に固まるエリザベス。遠くから見ていたらしい、これはいかんと駆け寄ってくるマーク。

 そしてそこに救世主の如く颯爽と現れたマリアンナ嬢。

 しかしマリアンナ嬢はエリザベスの様子を目にした途端、くるりと背を向けケインを連れてきたかと思うと、俺はケインに「一発!」と言われた。

 どうしよう。

 エリザベスに色々と言ってしまった。

 「俺はお前が好きだー!」とか、それと同じ意味のことを言ってしまった。

 その後、何とかマークが場をまとめてくれたが、俺の心は晴れなかった。

 


 次の日。

 俺はどんよりとした気分で一日を過ごしていた。

 エリザベスは、マリアンナ嬢が常に隣にいて、俺に一切接触しないようにされていた。マリアンナ嬢は本当にエリザベスを大切に思っているのだな...。

 嫌われてしまっただろうか。

 俺は今まで、エリザベスに嫌われるようなことは絶対にしなかった。いや不可抗力は別としてだ。エリザベスに嫌われたくなかった。

 何故そう思うようになったか、それはやはり、兄上の存在が関係しているだろう。

 双子であるのに、俺とは外見の異なった兄上は、ずっと俺を嫌っていると思っていた。だから、あんなに怖い目を向けてくるのだと。

 先日、その誤解は解けたが、いまだに俺は、親しい誰かに嫌われることを恐れている。

 第二王子として、それは酷く情けないとは分かっている。第一王子である、かの兄上のように、立派にならなければならないとは分かっている。

 だが、それでも。

 怖い。エリザベスに、双子の兄上のような、冷たい目で見られるのが。

 ...そういえば、俺がエリザベスに好意を抱いていると気付いたのは、いつだったろう。

 あれは、確か、十二歳の頃だったか。

 マリアンナ嬢の庭で、俺はエリザベスに怪我をさせてしまったのだ。俺とエリザベス以外、そこに他の誰もいなかった。

 偶然エリザベスにぶつかって転ばせてしまい、エリザベスは思わずやや尖った石に掌をついてしまった。

 マークがいればすぐに治癒出来たが、何故だったかそこにはいなかった。

 血が出る様を見て俺は酷く取り乱したが、エリザベスは違った。

 幼い頃から庭で暴れ回っていたマリアンナ嬢と違い、エリザベスは怪我などしたことがないだろうに、エリザベスは一切、声を出すことも、泣くこともしなかった。

 ぐっと唇を噛み締め、動じなかった。

 何故冷静なのか尋ねた俺に、エリザベスは答えた。

「もう、弱いところはいらないんです。マリアンナに、私は強くなったって、もう大丈夫って、言いたいから」

 そうだ、その時のエリザベスは、とても綺麗だった。

 だから俺は、エリザベスを好きになった。

 その後エリザベスの傷は、無事にマークの魔法で治療された。

 マリアンナに、蒼白な顔で大丈夫か大丈夫か聞かれ、少し笑って頷いていたエリザベスは、強く印象に残っている。



 俺は、決意した。

 エリザベスが俺の告白で何を思ったか、正面から尋ねる!

 このままエリザベスと話せないなど、嫌だ!

 俺は昼休み、食事を済ませ食堂を出ようとするマリアンナ嬢とエリザベスに、声をかけた。

「少し時間をくれないか」

 マリアンナ嬢が俺をじろじろ見た後、エリザベスと小声で何事か会話する。

 やがて、エリザベスがマリアンナ嬢の影に隠れることを止め、進み出た。

「...はい」

「で、では、中庭に行こう!そこで話を聞いてほしい!」

 エリザベスはこくりと頷いたが、マリアンナ嬢は心底嫌そうに付け加えた。

「私も付き添いますからね」

「な、それは...いや、ああ、分かった」



 俺、エリザベスとマリアンナ嬢は、春によく来たサクラの木の下にやってきていた。

「...エリザベス。昨日は、いきなりあんなことを言ってしまって、すまなかった。驚いただろう。だが、あれは全て俺の本心だ」

 エリザベスの体がびくりと跳ねた。

「改めて、エリザベス...俺は、エリザベスに好意を抱いている。友としてではない。女性としてだ。エリザベスは...どうだ?俺を、どう思っている?」

 エリザベスは、答えない。いや、答えられないのだろうか。

 酷く視線をさ迷わせ、口を開け閉めしている。それに対してマリアンナ嬢が真剣な顔でエリザベスの手を握った。

「...わ、私は...」

 エリザベスは、俺の目を恐る恐る見た後、すぐに逸らした。

「...わ、私は、エイデン様の、お気持ちに応えることは、出来、ません...」

「...そうか」

 体が震える。今にも倒れそうだ。

 俺は、振り返らずにその場を離れた。



 部屋に戻って、長く長く息を吐く。気分は最悪だった。

 俺が自覚してもう四年、それが一瞬にして拒絶されてしまった。

「ふぅ...ははっ」

 自嘲気味の笑い声が漏れる。

 あまりに滑稽だった。マリアンナ嬢に嫉妬し、暴走した末、予測出来ていた結果を迎えた。

「だから、計画を立てていたのに...」

 エリザベスを俺に惚れさせよう大作戦も、もう用なしだ。

「...どうしようか」

 俺は卒業するまでの間で、婚約者を決めなければならない。

 それで考えると、今エリザベスに拒否されたのは良かったのかもしれない...。

「いい訳ないだろうが...」

 ...何が、良かった、だ。いい訳ない。泣きたい。

「困ったな...」

 エリザベスの顔を、もう直視出来ない。



「エイデン...様!エイデン...様!」

 その声に、ふっと意識が浮上する。

 どうやら、マリアンナ嬢が部屋を訪ねてきたらしい。

 何の用だろうか。

 出向き、マリアンナ嬢と顔を合わせ、驚く。

 マリアンナ嬢は、鬼のような顔で俺を睨みつけていた。

「お恨み申し上げますわ、エイデン様...!貴方のせいで、ベティは、ベティはっ...!」

「エリザベスに何かあったのか!?」

「ベティは...今、酷く落ち込んでいるのよ!!貴方のせいだわ!貴方がベティに告白なんかするから、ベティは自分を責めているのよ!!」

「な、何だと!?それは一体どういうことだ!」

 何故エリザベスが自分を責める必要があるのだ。

「ベティは、ベティはねっ...ずっと貴方にふさわしい女性を探していたのよ!貴方はとてもいい人だから、貴方を支えられるような女性を見つけてあげたいって!勿論貴方が気に入るとは限らないけれどってね!」

「な、何だそれは...!?」

「けれど、自分が貴方に想われていたなんて思いもしていなかった!自分がいなければエイデン様はもっといい人に恋をしただろうに、自分はエイデン様に釣り合わないってね!!むしろ私は貴方がベティに釣り合わ...いえ、何でもないですわ。とにかく!貴方のせいよ、どうしてくれるの!!」

 俺は、開いた口が塞がらなかった。

 エリザベスが、俺に釣り合わないだと?よく知らない誰かがそんなことを言ったら流石に怒るが、エリザベス自身が言ったのならどうすればいいのだろうか。

「ええ、癪です、癪ですが...!エイデン様!ベティのところへ行って、告白撤回でも何でもしてくださいな!」

「てっ、撤回はしないぞ!?」

「ちっ」

 何か今聞こえたような...いや、流石に気のせいだろう。

「エリザベスは今どこに?」

「まだ中庭ですわ!!」



「エリザベスー!」

 木の影で俯いていたエリザベスが、驚いたように顔を上げた。

「エ、エイデン様...何故、またここに...」

「エリザベス!!」

「はっ、はい?」

「俺はエリザベスが好きだ!釣り合うとか釣り合わないとか、そんなのどうでもいいくらいには好きだ!エリザベスが俺のことを少しでも好いてくれるなら、嫌いじゃないなら俺を受け入れてくれ!!」

 自分でも、かなり強引だったと思う。

 けれど、なりふり構っていられなかったのだ。

「...私、エイデン様を、一番には考えられません。だって、私は、マリアンナが一番で...」

「今はそれでもいい!」

「そ、そんな!で、でも、私、私などでは、エイデン様に...」

「だから、そんなのはどうでもいいんだ!俺がエリザベスを好きなことに、変わりはない!!」

「...で、ですが...!」

「エリザベス...俺が嫌ならそれでいい。だが、俺に気後れでもしていて受け入れないというのは、納得いかん!」

「い、嫌という訳では、ないのですが...」

「ならば婚約成立だッ!!」

「えっ、えっ!?」

「よろしく頼むぞエリザベスっ!!」

「は、はいっ!」

 思わず、といった様子であったが、エリザベスは了承してくれた。

 かくして、俺とエリザベスは婚約を決めた。



「はあー...はあああああー」

「随分憂鬱そうだな、マリュン」

「それもそうでしょう?だって、エイデン...様とベティが婚約...よりによってエイデン様...はああああああ」

「そ、それはどういう意味だマリアンナ嬢」

「あはは...でも、何だか僕はこれで良かったと思うよ。収まるところに収まったというか」

「マークは優しいな。エリザベス嬢はこれから大変だぞ?」

「ど、どういう意味だケイン」

「エイデン様は、第二王子様ですから...そういうことですよね、ケイン様」

「ああ、その通りだエリザベス嬢」

「成程、そういうことか。安心したぞ」

「別の意味でも大変ですわよね...」

「マリアンナさん、それは言っちゃ駄目なやつじゃ...」

「マ、マークまでそういうことを言うのか!?俺の味方はエリザベスだけか!」

「え?ベティは私の味方ですわよ?」

「くぅっ、俺は負けんぞマリアンナ嬢っ!」

「うふ、ふふふふふ...こちらこそですわっ!!」

この後何度となくマリアンナはエリザベスに婚約破棄を勧めた。

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