55
コメント、ありがとうございます!
暇だ。
私は今、真っ白な部屋に座っている。
狭くて白くて何もない部屋に。
いや、これが夢だってのは分かってるんだけどさ。こうも何もないと流石に不安だ。
最初の頃は、ルイスとエイデンとマークが筋肉お化けになったり、エリザベスがお菓子の妖精になったり、私の兄二人と従者コーディとノアが女の子になったりしてたけど、今は本当に何もない。何も起きない。眠くもならないし、お腹も減らない。
退屈だ。
いくら目を覚まそうとしても、方法も分からないから、どうすることも出来ない。
暇なので、前世で学んだストレッチとかしてる。特に面白くはない。
困ったなあ、私このまま一生を終えるのかな。前世含めてもまだ三十五年生きてないよ。やだなあ、まだ生きたいなあ。
暇なのでぼんやり何か考える。考えるのに飽きたら体を動かす。いくら体を動かしても疲れないけど、飽きるので、そしたらまた考える。
ずっとそれの繰り返しだ。
「やっほ、元気?」
あ、随分久しぶりに感じる。
いつの間にか、前世の私、智秋がそばに座っていた。
「元気じゃないよ、暇」
「暇って言えるなら元気でしょ。でも、あんたも大変だね」
「私、無事に起きられたらフィリップに文句言うんだ」
「それフラグじゃんか」
「フラグなんていくらでも叩き壊せばいいんだよ」
「じゃ、私もフラグ立てるわ。私、前世の世界に戻って普通に暮らすんだ」
「何、あんたそんなに前世に戻りたいの?」
「いや当たり前だよ。だって不便じゃん。テレビもスマホもないんだよ?」
「うわあ現代っ子」
「あんたもそうでしょうが」
相手は自分だけど、やっぱ会話するのっていいね。何か安心する。
「ていうかケイン、あんたいつまでここにいんの?」
「さあ?フィリップが力尽きるまでじゃない?」
「えっマジ?災難過ぎ」
「あー気が遠くなるわー。誰か助けに来てくんないかなー」
「例えば誰?」
「んー...マークとか?」
「他は?いないの?」
「エイデンと、エリザベスとか...あ、ノアも来そう。コーディもかな。アリスも有り得るね」
「ふーん、いっぱいいるね。良かったじゃん」
「マリュンは面倒だからっつって来なさそうだわ」
「あー...確かに」
「まあ夢の中なんて入って来れる訳ないんだけどね」
「だねー」
智秋と、とりとめのないことを話す。
やがて智秋は立ち上がった。
「ケイン、その調子じゃ答えは決まったよね」
「は?答え?」
「前世に戻りたいかどうかってのだよ」
「あー...」
そういえば、前に智秋に聞かれたね。
あの時、私は「分からない」って言ったんだっけ。
「...そだね。私は、この世界で生きてくよ」
この世界に生まれたばっかりの私だったら、前世に戻れるとしたら絶対戻ることを選択するだろう。
でも、私は出会った。この世界で、色んな人と。
夢の中で過ごしていて、痛感したけど、私は、皆が好きだ。もう会えないなんてことには、二度となりたくない。
知ってしまったら、もう戻れない。
「潤が戻るっつったらどうすんの?」
「マリュンはそんなこと言わないでしょ。少なくともオリヴィアさんと、エリザベスがいる限りは」
「ほんっと可愛い女の子好きだね潤って」
「それはほとんどの男に共通するんじゃないの?」
「ああ...確かに」
智秋は緩く頷くと、軽く笑った。
「じゃ、頑張って楽しんで生きようね、私」
そして智秋は、消えた。
視界いっぱいに、マリュンの顔があった。
「...何やってんの...だ、マリュン」
「おはよ、ケイチー」
マリュンは、何てことないように、いつもみたいに返事をした。




