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 暇だ。

 私は今、真っ白な部屋に座っている。

 狭くて白くて何もない部屋に。

 いや、これが夢だってのは分かってるんだけどさ。こうも何もないと流石に不安だ。

 最初の頃は、ルイスとエイデンとマークが筋肉お化けになったり、エリザベスがお菓子の妖精になったり、私の兄二人と従者コーディとノアが女の子になったりしてたけど、今は本当に何もない。何も起きない。眠くもならないし、お腹も減らない。

 退屈だ。

 いくら目を覚まそうとしても、方法も分からないから、どうすることも出来ない。

 暇なので、前世で学んだストレッチとかしてる。特に面白くはない。

 困ったなあ、私このまま一生を終えるのかな。前世含めてもまだ三十五年生きてないよ。やだなあ、まだ生きたいなあ。

 暇なのでぼんやり何か考える。考えるのに飽きたら体を動かす。いくら体を動かしても疲れないけど、飽きるので、そしたらまた考える。

 ずっとそれの繰り返しだ。

「やっほ、元気?」

 あ、随分久しぶりに感じる。

 いつの間にか、前世の私、智秋がそばに座っていた。

「元気じゃないよ、暇」

「暇って言えるなら元気でしょ。でも、あんたも大変だね」

「私、無事に起きられたらフィリップに文句言うんだ」

「それフラグじゃんか」

「フラグなんていくらでも叩き壊せばいいんだよ」

「じゃ、私もフラグ立てるわ。私、前世の世界に戻って普通に暮らすんだ」

「何、あんたそんなに前世に戻りたいの?」

「いや当たり前だよ。だって不便じゃん。テレビもスマホもないんだよ?」

「うわあ現代っ子」

「あんたもそうでしょうが」

 相手は自分だけど、やっぱ会話するのっていいね。何か安心する。

「ていうかケイン、あんたいつまでここにいんの?」

「さあ?フィリップが力尽きるまでじゃない?」

「えっマジ?災難過ぎ」

「あー気が遠くなるわー。誰か助けに来てくんないかなー」

「例えば誰?」

「んー...マークとか?」

「他は?いないの?」

「エイデンと、エリザベスとか...あ、ノアも来そう。コーディもかな。アリスも有り得るね」

「ふーん、いっぱいいるね。良かったじゃん」

「マリュンは面倒だからっつって来なさそうだわ」

「あー...確かに」

「まあ夢の中なんて入って来れる訳ないんだけどね」

「だねー」

 智秋と、とりとめのないことを話す。

 やがて智秋は立ち上がった。

「ケイン、その調子じゃ答えは決まったよね」

「は?答え?」

「前世に戻りたいかどうかってのだよ」

「あー...」

 そういえば、前に智秋に聞かれたね。

 あの時、私は「分からない」って言ったんだっけ。

「...そだね。私は、この世界で生きてくよ」

 この世界に生まれたばっかりの私だったら、前世に戻れるとしたら絶対戻ることを選択するだろう。

 でも、私は出会った。この世界で、色んな人と。

 夢の中で過ごしていて、痛感したけど、私は、皆が好きだ。もう会えないなんてことには、二度となりたくない。

 知ってしまったら、もう戻れない。

「潤が戻るっつったらどうすんの?」

「マリュンはそんなこと言わないでしょ。少なくともオリヴィアさんと、エリザベスがいる限りは」

「ほんっと可愛い女の子好きだね潤って」

「それはほとんどの男に共通するんじゃないの?」

「ああ...確かに」

 智秋は緩く頷くと、軽く笑った。

「じゃ、頑張って楽しんで生きようね、私」

 そして智秋は、消えた。



 視界いっぱいに、マリュンの顔があった。

「...何やってんの...だ、マリュン」

「おはよ、ケイチー」

 マリュンは、何てことないように、いつもみたいに返事をした。

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