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 そいつは、言った。

 私をここに閉じ込めたのは、私を救う為だと。

 意味が分からない。どういうこと?

「それは、どういう意味だ?」

「いいか、ケイン・ウィリアクト!お前の体は貧弱だ、だからこそ!!」

 は?貧弱?

 その時、そいつにぱっと光が当てられた。え、スポットライト?そんな現代的な...。

 しかし私を、それ以上の衝撃が襲う。

「お、お前は...」

 軽快な音楽がどこからか流れ始める。

 そいつは音楽に合わせ、叫んだ。

「マイ、ネームイィィズ...ルィィィィイス!!!」

「何だお前はああああああ!!」

 私も叫んだ。

 そいつ、ルイスは、まるで別人だった。

 一言で言うと、筋肉ダルマと化していた。

 いや、いつものルイスも筋肉はあるけど、こんな、「お前はもう死んでいる」な人みたいな体じゃなかったのに。縦にも横にも倍くらい大きくなっている。着てる服はぱっつんぱっつんだ。

 加えてルイスは体はとんでもないくせに顔はいつもの大きさだった。アンバランスにも程がある。

「いくぞォッ!ケイン・ウィリアクトォォッ!!」

「何がだああ!」

「ハイハイハイハイワンツーワンツゥゥー!!」

 ルイスは音楽に合わせて手拍子しながら私ににじり寄って来る。

「なっこっち来るな馬鹿怖いっ!」

「レッツトレーーーーニング!イェアアアアア!!」

「ぎゃあーーっ!!」

 突然ルイスがダッシュして、ぐんぐん迫って来る筋肉ダルマの姿に、私は必死でもがく。私を縛っていた縄はあっさりはずれ、私は一目散に逃げ出した。

 あれ?ここ部屋の中だよね?あまりにも広くない?

 なんて不思議に思う暇もなく、私はただただ全力でルイスから逃げ惑った。

 やがて、ルイスの声が遠くなった。どうやら私は奴から逃げることに成功したようだ。

 助かった...。

「ケイン!」

「大丈夫かい!?」

 あ、エイデンとマークの声かな?

「ああ、大丈...」

 パッ

 二人の姿がスポットライトで浮かび上がった。

「ぎゃあああああああああ!!!」

 そこには、ルイスと同じ体型をしたエイデンとマークがいたのだった。しかもどっちも何かボディビルみたいなポーズをキめている。いやエイデンは別にいい。ルイスと若干同じ感じだし。でもマークは止めて。怖過ぎる。

 私は逃げ出そうとした。

 だが、瞬時にマークに掴まれてしまった。

 マークは優しく私を諭す。

「レッツトレーニング!」

「いいいやああああああああああ!!!」



「...あれ?」

 気付くと、エイデンもマークも消えていた。

 そして周りには何故か、大量の巨大なお菓子が並んでいる。ケーキとか、パフェとか、色々だ。

 おかげでお菓子の先に何があるのか全く見えない。

「目が覚めましたか、ケイン様」

「その声は、エリザベ...ス...」

 勢い良く振り返ったそこには、ちょっと、あの...何というか、ぽっちゃりしてるエリザベスがいた。

「ど、どうしたんだエリザベス?何か辛いことでもあったのか?私で良ければ聞くぞ?(やけ食い...したのか、な?)」

「ケイン様」

 ガシッ

 エリザベスが私の手を掴む。そして棒読みで言った。

「ケイン様も、ぷくぷくもちもちになーあれ☆」

 次の瞬間、たくさんの巨大なお菓子が私に向かって倒れ込んだ。



 暗転した筈の目の前に、私の二人の兄と、従者のコーディがいる。ここは私の家の、私の部屋かな。

 三人は、何故か女装していた。

「ケイン!お前はこの僕!お兄様を選ぶよね?」

「...べ、別に、選ばれなくても構わないんだからな」

「坊っちゃん!自分はいつまでも坊っちゃんに仕えますよ!」

 三人が、私に手を差し出す。

「ケイン、お前は」

「一体、誰を」

「選ぶのですか!?」

「知るか!」

 バアンッ!

「ちょっと待って!ケインさん、ボクを選んでください!」

 息を荒くしながら、当然の如く女装しているノアが乱入した。

 あら可愛い。本物の女の子みたいだ。

「...この中から選ぶんだったら、それはまあ、ノアだろうな」

「ケインさん!ありがとう、ボク、一生懸命ケインさんに尽くします!」

 何で私とノアが付き合うみたいになってんの。

「嘘だあー!」

「...別に、いいからな」

「坊っちゃん...」

 隅で三人が乱闘してるけど、見ないようにしよう。って、ノア、何であんたも加わってんの。

 やがて四人の争いに私も飲み込まれ、もみくちゃにされた。



「何なのこれ...」

 私は疲弊していた。

 今いるのは、いつもの見慣れた教室。だけど人の姿はない。

「もしかして、これってフィリップが見せてる幻覚なのかな?」

 だとしたら納得だ。というかそうであってほしい。嫌だよ、ルイスとエイデンとマークが筋肉お化けになって、兄二人とコーディとノアが女装してるなんて。

「やー、元気ー?」

 えっ?

 がらりと教室のドアが開いて、人が入って来た。

 そいつが身に付けているのは、制服だ。

 制服と言っても、この学園のじゃない。

 前世の、私が通っていた高校のものだった。

「こうして会うのは初めてかな?よろしくね」

 ショートの黒い髪、黒い目。明らかに日本人と分かる顔。

 前世の私だった。

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