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49.5 兄

タイトルで「誰だよ」と思われるかと思いますが、この兄というのは、ケインの、二人いるうちの兄の、下の方の兄になります。ケインの下の兄のお話です。

 俺には優秀な弟がいる。名前はケイン。ウィリアクト侯爵家の三男だ。

 俺は、ケインを嫌っていた。

 ケインは、兄上程ではないものの、頭が良かったし、剣も強かった。騎士団長の息子に勝ったことがあるくらいだ。

 そんな優秀な弟だったが、俺は、ケインが努力している姿を、見たことがなかった。

 だから、嫌いだった。

 俺はこんなに努力しているのに。何故あいつだけが、父上や母上、兄上にさえ褒められて、第二王子の側近になれて、しかも公爵令嬢と婚約出来るんだ。そう思っていた。加えてケインは、いくら褒められても調子に乗ることはなかった。冷静にそれを受け入れていた。

 俺は、そんな大人びた弟が嫌いだった。ある時期に、ケインを殴ったこともあったくらいだ。

 だが、ケインは、俺がどんなに嫌おうが、俺を嫌わなかった。俺を、家族だから、好きだと言った。

 その時初めて俺は、ケインを馬鹿ではないかと思った。

 多分、俺は勘違いをしていた。

 ケインは、決して完璧ではない。そんなことが分かっていなかった。

 ケインにも欠点はある。例えば、貴族らしくもなく、大声で笑うところとか、予想外のことがあった時は、顔に出るとか、そういうところが。...何故か、小さい頃のケインは泣き虫で、俺や兄上に対してよそよそしく、従者にべったりしていたような記憶があるような、ないような気がするが、気のせいだと思う。まあともかくだ。

 ケインも、俺と同じ人間だった。

 それは当たり前のことだろうが、俺は、分かっていなかったのだ。

 それに気付いてからは、俺は少しずつケインに歩み寄るようになった。

 俺は、いい兄とは言えないだろうが、もしケインが、どうにもならない困ったことがあったら、力になりたいとは思う。そんなことはそうそうないだろうがな。



 俺には優秀な兄がいる。ウィリアクト侯爵家の跡継ぎである兄上は、とても頭が良い。俺には到底出来ないことも、兄上はそつなくこなす。

 そんな兄上にも、欠点はある。

 それは、ケインを好き過ぎるということだ。

 兄上のケインへの愛情は、正直言って理解出来ない。俺がケインを嫌っていた分兄上がケインを好きということなら俺は何も言えないが、それでも兄上は...異常、だと思う。

 ある時、兄上に聞いてみたことがある。何故そこまでケインを好きなのかと。

 兄上は、薄く笑いながら、答えた。

「ケインは、放っておいたら、いなくなってしまいそうなんだよ。それこそ、元々いた場所へ戻ってしまいそうな、ね」

「元々いた場所...ですか?」

「ああ。きっと僕やお前には理解出来ない世界だ」

「兄上でさえも、ですか?」

 俺は驚いて尋ね返した。兄上に理解出来ないものなどないと、思っていたのだ。

「全くもって理解出来ないさ。マリアンナ嬢のように、ケインと同類な者でない限りはね。ああ、本当に...ケインの頭の中を隅々まで調べたいなあ。きっと面白いよ。ケインは、可愛い女の子だったんだろうね」

「は、はあ」

 俺には理解不能だった。全く意味が分からない。

「本当に...可愛いよね、僕の妹は」

「妹?」

ケインの話をしていた筈なのに、何故そんな単語が出てくるのか、俺には分からなかった。

「妹だよ。少なくとも、弟ではないよね。だって、ケインは完全には男ではないもの。まあ女の子でもないだろうけどね。ただ僕的には妹って考えた方が可愛いし」

「はっ!?」

 何ということだ。俺の弟はそっち系だったのか。

 戦慄する俺に、兄上は吹き出し、柔らかく笑った。

「冗談だよ。お前はからかいがいがあるねぇ」

「なっ...」

 ではケインはノーマルなのか。ちょっとほっとした。確かにあんなに女の子に優しいケインがそっち系な筈がなかった。

「でも、まあ...そもそもケインがこの世界から逃げることなんて、出来ないよね。死なない限りは」

 ぽつりと兄上が呟く。やっぱり、俺には理解出来なかった。



 ケインは、婚約者であるマリアンナ嬢との仲は良好なようだ。そのマリアンナ嬢を通じて、王太子リチャード殿下の婚約者であられるオリヴィア嬢とも、面識がある。

 父上と母上は、王家と繋がりのあるルーシム公爵家と繋がりを持てて、嬉しいらしい。だからケインをこれでもかと褒めている。

 だが、もしケインがマリアンナ嬢、つまりルーシム公爵家と関係を悪化させるようなことになったら。

 父上と母上は、ケインを切り捨てるだろう。そういう人達だ。

 ケインならば大丈夫だとは思うが、もしそんなことがあったら、俺は、ケインを助けたい。兄上も、そうだろう。

 俺に出来ることは、少ない。俺は今までひたすら剣に生きてきたから。だが、それでも。

 俺はケインの兄だ。弟を助け、導くのは、兄の役目だ。

 今は、そう思っている。

ケインの上の兄は、ケインが前世の記憶を持っているということを勘づいています。主にケインとマリアンナの会話を聞いて。

分かっているのは、ケインが前世では、異世界で女の子として生きていたんだろうなーっていうくらいです。

この世界では、異世界や転成という言葉はあまり知られていませんが、確かに存在はしており、ケインの上の兄も知っています。

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