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 夏休み。

 それは、期間が長いということに惑わされた者達が、最終日になって泣きながら大量の課題をしなければならなくなるという、飴と鞭の期間である。

 まあこの世界ではそんなことはないんだけどね。

 遂に、夏休みがやって来た。



 マリュンに夏休みどうするのか聞いたら、「家に帰って和んでくる」って即答された。確かにマリュンは前に「もうすぐ家に帰れるわー」とか言ってたし、これは分かってたことだ。

 かくいう私も、家に帰ることにしている。久しぶりになるけど、兄達は家にいるのかな。

 他の皆も、大体は家に帰ってゆっくりするみたいだ。まあ学園でもゆっくりしてるんだけどね。



「おかえりなさいませ、坊っちゃん!」

「何故お前が言うんだ」

 本当に変わらないね、私の従者のコーディは。あんた一緒に家に帰って来たでしょ。

 下の兄は騎士団の仕事でいないけど、上の兄は家にいるらしい。挨拶しないとね。

 お父さんとお母さんに会って色々話(まあそんなにたいした話じゃない)をした後、私は上の兄のいる部屋に向かった。

 正直言って、私は上の兄より下の兄の方が好きだ。だって下の兄は口では色々言いつつも認めてくれてるから。昔は私を嫌ってて、殴られたこともあったけど、今は私を嫌ってはいない、と思う。そうだといいなあ。

 でも、上の兄はそうじゃない。

 何と言うか、

「ケイン!ああ、ケイン!会いたかったよ、ほら、お兄様によく顔を見せるんだ!」

 こんな感じ。ゲームで聞いてた兄の話と違い過ぎてびびるわ。

 ていうか、私が女の子で、妹であるならまだしも、私弟よ?弟なのにこんな対応されるとちょっと怖い。

 上の兄は、何と言うか、残念なイケメンだ。頭は良いんだけど、何か私に対して、すごく甘い。逆に怖い。裏で何か隠してんじゃないのって思う。

「ケイン、何か困ったことはなかったか?もしあったら、お兄様に相談するんだよ?何でも潰してあげるから」

 だから怖いって。

「大丈夫です兄上。お気遣いありがとうございます」

「全く、ケインが帰って来たっていうのに、あいつは...」

 下の兄のことかな。

「騎士団の仕事が忙しいのですから、仕方がないでしょう。それに私はすぐ学園に戻るという訳でもありませんし」

「当然だよ!一日で学園に帰るなんて言ったら、僕は怒ってケインを閉じ込めるからね!」

「あはは...」

 苦笑いだよ。この人の場合本当にやりそうでめっちゃ怖い。ゲームのヤンデレマークかな?

「そういえば、兄上の仕事は一段落したのですか?」

 上の兄は、ウィリアクト侯爵家の跡継ぎだけど、その頭の良さから魔法じゃない方の研究所で時々働いているのだ。

「そりゃあ、ケインが帰って来るって聞いたからね、速攻で終わらせてきたよ」

「それは、嬉しいですね」

「ケインは優しいね、僕の心配までしてくれるなんて。僕の婚約者にも、ケインの話をよくするけど、彼女もケインを気に入っているんだよ」

「そ、そうなのですか」

 うわあ、上の兄の婚約者が優しい人で良かった。普通、弟の自慢話を永遠と聞かされたらいくらイケメンでも幻滅するよ。

 その後、私は上の兄の長話を回避するのに成功し、無事部屋に戻ってきた。



 近々、マリュンの家にお邪魔するつもりだ。久しぶりにあの立派な庭を見せてもらうことにしよう。マリュンの弟のノアにも会えるし。マリュンの姉のオリヴィアさんは第一王子リチャードの婚約者だから、忙しくて家にはいないかもしれないけど、でも会えたらいいなあ。私の癒しはエリザベスだけど、オリヴィアさんも見てて何だか微笑ましくなるからね。

 夏休みは、まだまだ終わらない。

「全く、本当に可愛いね...僕のは、さ」

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