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ヒロインさんは真剣そのものの眼差しを、俺達に向ける。
「ケイン様、マリアンナ様。敬語なんて止めてください。いくら前世で年上だったって、今は同い年なんですから」
「...だったら、あなたも私達のこと、様付けで呼ばないようにしましょうよ」
おっ、ケイチーいいこと言うな。
「私もケイチーの意見に賛成ですわ」
「...あのー、ケイチー、とは?」
「ああ、えっと、私の前世の名前が智秋なので、合体させたんです」
「ちなみに私の前世の名前は潤ですわ。よって、ケイチーからマリュンと呼ばれています」
「なっ、成程!じゃ、じゃあ私も...前世の名前が亜美なので...あっ、やっぱりいいや、私はアリスのままで」
「それじゃ、あなたも敬語、止めますか?」
「いやぁ、私は敬語がデフォなので。ケインさんとマリアンナさんはありのままのお姿でいてください。私はそれで幸せです」
「は、はあ...分かった」
「...ケイチーがそうなら、俺だって!ヒロインちゃん...いや!アリスちゃん!これからよろしくな!」
「ぐはっ、萌える!」
何かずっと萌えてんなぁ。
そうして、ヒロインちゃんもといアリスちゃんと俺達は、包み隠さずの関係となったのでした。
ケイチー、アリスちゃんと別れた後。
俺は、保健室前に来ていた。
ドアをノックして、入る。
中には、魔法使いイルの姿はなかった。
アリスちゃんが魔法にかかったとはっきり分かるのは、魔法使いイルによって回復の魔法をかけられたであろう日の次の日だ。
だから、ほぼほぼ、魔法使いイルがアリスちゃんに強欲になる魔法をかけたのだと、俺は思っている。
何でそれを魔法使いローレンやケイチーに話さなかったのか、それは俺もよく分からん。ただ、俺は、あいつがどうも悪い奴には思えなかった。怪しいとは思うけどな。
保健室の先生によると、魔法使いイルは、既に学園を去ったらしい。
俺は今、とぼとぼと、女子寮への道を歩いている。寮に着いたらベティちゃんに会いにいこう。
「マリアンナ様」
...何だ、帰ってないんじゃねえか。
振り返るとそこには、白いローブの魔法使いイルの姿があった。
「アリスさんに魔法をかけたんですね?」
「分かっていらっしゃるなら、どうしてそれをあの魔法使いに話さなかったのです?」
ローレンのことか。
「...私にもよく分かりませんわ」
「そうですか」
「どうして、あんなことをしたんですか?」
「嫉妬です」
「誰に対しての?」
「色々な人に対してですよ」
「どうしてエイデン様とルイス様には手を出さなかったのです?」
「ルイス殿は魔法への耐性があった。だから魔法をかけなかったのではなく魔法がかからなかったのです。エイデン様は...」
魔法使いイルはそこで一旦沈黙した。
俺は、ただひたすら待つ。
「...エイデン様は、とても大事なお方ですから」
「では、アリスさんがおかしたタブーとは、何なのですか?」
「それは簡単なことです。エイデン様と、マリアンナ様。この二人に手を出すことです」
「...何故私なの?」
そもそも、何でお前は俺の質問に律儀に答えてんだよ。
「マリアンナ様は、他の者達とは違いますから」
「何故分かるの?会ったこともないのに」
「分かりますよ。ずっと、貴女を見ていたのだから」
えっ。
えっちょっ待っ。何、何、何それすごいぞくっとしたよ!
え、お前まさかストーカーなの?俺のストーカーなの!?
やばいやばいこれはあかんやつや、今すぐこいつをローレンに引き渡さなければ!
「...マリアンナ様、落ち着いてください。私はこの後、あの魔法使いに自首しますから」
「えっ?」
「学園の生徒の女子に、勝手に魔法をかけただけでなく、他の方々にも迷惑をかけたのですから。罪は償わなければなりません。マリアンナ様、私が貴女と会うのもこれが最後です」
お、おお...自首すんのか。だったら大丈夫かね。
「お達者で」
「ええ...さようなら、マリアンナ様」
魔法使いイルは、俺に背を向けて、歩き去っていく。
あいつがこの後どうなるのかは分からんが、とりあえずはこれで平穏が戻った。
アリスちゃんも前世の記憶を取り戻して、攻略対象共を攻略しようとはしなくなるのだろう。
そして俺とケイチーは、日常を生きていくことになる。
大きなトラブルもない、が刺激的な、日常を。
断罪の危機もなくなった今、俺はおとなしくなんかしねえぞ。
だって、楽しまなきゃ損だもんな。




