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 そこからのヒロインちゃんはすごかった。

 あっという間に、攻略対象の奴らを取り巻きにして、常にちやほやされる様子を見るようになった。というかヒロインちゃんが一人でいるところを見なくなった。

 俺がケイチーに何度話しかけても、ケイチーは俺に真面目に取り合うことはなかった。それどころか、前世の記憶を忘れてるみたいだった。そのくせ俺がヒロインちゃんに話しかけようとするとこれでもかと遮ってきやがるし。おかげで俺はいまだにヒロインちゃんと一言も話せてねえよ。

 ヒロインちゃんと仲が良かったジェイダちゃんも、ヒロインちゃんのそばにいることはなくなった。ヒロインちゃん、そしてその取り巻き共から色々と、言われたらしい。

 同じクラスの女の子達は、これまで以上にヒロインちゃんを敵視するようになった。俺も、女の子達にヒロインちゃんに強く言うように頼まれた。

 どうしてこうなったんだか。



 攻略対象の奴らが取り巻いていると言っても、例外がある。

 エイデンだ。

 マークとケイチー、アイザック、ノアなんかとは俺も話したんだが、ヒロインちゃんに惚れ込んでいた。盲目っていうのかね。アイザックお前彼女いるくせに浮気しやがって。フラれろ。

 特にノアの反抗的な態度に俺は密かに傷付きました。ていうかノアお前いつの間にヒロインちゃんと会ったんだよ。俺の知らないうちに取り巻きと化してたぞ。

 まあそれは置いといて。

 エイデンだけは、ヒロインちゃんの取り巻きと化していない。

 エイデンとも話したが、あいつも周り(エイデンの腕と呼ばれてるマークとケイチーだな)の変化に困惑していた。

 そして、これが一番大事なことなんだが。

 ベティちゃんの様子が変わった。

 何故か、ケイチーにグイグイいくようになって、それ故ヒロインちゃんのそばにいるようになった。

 ベティちゃんがケイチーのこと好きだったなんて知らねえし、話しかけてもおざなりな返事しかなくて、俺はすごくショックを受けている。

 どうしてこうなった。俺が悪いのか、ヒロインちゃんに関わりたくてメアリーちゃんに無理言って悪役令嬢になろうとした俺が悪いのか。

 どうしてあいつらはあんなに変わったんだ。魔法か、やっぱり魔法のせいなのか。だってあんなに人が変わるなんて魔法以外考えられないぞ。誰が使ったのかとかはよく分からんけど。ヒロインちゃんは魔法使いじゃねえし、魔法使いマークがあんな風になる魔法をケイチー達に使うとは考えづらいし。

 ...魔法使い、か。

 実は、この学園には、マーク以外にもこの間からもう一人、魔法使いがいる。

 そいつはいつも保健室に入り浸ってると聞いた。

 ...よし。

 俺は、その日の放課後、保健室に向かった。



「マリアンナ嬢!」

「あら、エイデン様。どうしてこのような所に?」

 保健室の前で、俺はエイデンとばったり会った。

「いや...マリアンナ嬢を探していたのだ」

「私を?(何の用だよ)」

「...マークとケイン、そして...エリザベスの様子がおかしいことは、放っておくべきではない。だから、マリアンナ嬢に、協力してほしい」

「何をなさるおつもりですか?」

「いくらアリス嬢のことを好いていても、俺達が、これまで共に過ごした時間は、消えない...!よく話してみれば、きっと皆...!」

「もし、魔法にかけられていたとしたら、どう致しますの?」

「なっ...魔法!?マークが全てを引き起こしたとでも、言うのか?」

「いいえ...。それを確かめるために、私はここに来たのよ」

 俺は、保健室のドアを見つめる。

 中にいる魔法使い...ヒロインちゃんの回復をした凄腕魔法使いに、ケイチー達の様子を見てもらうんだ。そして、もし魔法にかかってたなら、それを解いてもらう!

 違うなら仕方ない、また考える。

 いざ入らん、保健室!

 俺はノックをして、扉を開けた。



 保健室の中には、ただ一人、相変わらずの白いローブを纏ってフードを被った、魔法使いがいた。保健室の先生はいないみたいだ。

「!...おや?貴女は...?」

「私は、マリアンナ・ルーシムと申しま」

「マリアンナ嬢!何をする気なのだ!?」

 おいこらエイデン遮るんじゃねえ。

「...っ!?あ...!?」

 エイデンが魔法使いを見て驚く。そういやこいつ魔法使いを見てなかったな。ヒロインちゃんのお見舞いには一回来たんだが、魔法使いが来た日じゃなかった。

「...これはこれは、エイデン殿下」

「...止めて、くれ」

 膝をついて頭を下げる魔法使い(フード取らねえのかな)に、エイデンは強張った顔で言った。何、どうしたんお前。

「殿下のお目にかかることが出来て、非常に光栄でございます」

「......」

 エイデンは沈黙している。何だどうした、お前まで何かなったのか。

「マリアンナ・ルーシム様」

「はいっ?(うおっ)」

「私はイルと申します。本日はどのようなご用件でこちらにいらっしゃったのでしょうか」

 男にしては柔らかく、女の子にしては低い声のそいつは、俺の方を見て、小首を傾げた。

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