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 俺が悪役令嬢になって数日。

 ヒロインちゃんって、すごいなあ。

 今更ながら、俺は実感していた。

 だって、俺が何を言っても全然気にしてないし、むしろポジティブに受け止めてるんだぜ?

 この前なんか、

「この学園に入ることが決まってから、貴女一体何をしていたの?少しでも教養を高めようとは思わなかったのかしら?」

「はい、わくわくしてました!」

「貴女から全く教養というものを感じないのだけれど?」

「まだまだ成長出来るってことですよね!」

 すげえわ、流石主人公。そこに痺れる憧れるぅ!

 そうそう、ケイチーは俺が悪役令嬢になることに反対するのをもう諦めた。

「...まああんたなら大丈夫、かな...?あんたのこと、エイデンは、ていうか攻略対象共は別に嫌ってる訳じゃないしね...」

 そうしてケイチーは、俺と共にヒロインちゃんに嫌味を言うようになった。

 ケイチーは元々ヒロインちゃんに嫌なこと言ってたのに、今度は俺と一緒に言うようになったのだ。

 ヒロインちゃんは俺に言われてもポジティブに捉えるのに、ケイチーに言われると涙目になることが多い。何でだ...俺の言うことはどうでもいいとでも言うのかヒロインちゃんよ...。可愛いから許すけどさ...。

 まあそんな感じで。

 ヒロインちゃんを弄ることを日課として過ごしていたら、いつの間にか季節は夏になっていた。



「もうすぐ夏休みだなー」

「気が早いよ、まだ先だって」

「でももうすぐ家に帰れるわー」

 放課後、談話室サロンにて、俺はケイチーと小声で駄弁っていた。

「あー、ヒロインちゃん可愛いなあー」

「最近はマークも一緒にいることが多いもんねー」

「ヒロインちゃんに惚れてねえのはケイチーとエイデン、ノアくらいだっけかー」

「もう逆ハーって言っていいんじゃない?三人も取り巻いてるんだし。まあアイザックはアリスを生徒として、ルイスも弟子みたいな感じで接してるんだけどさー。あ、そうだ、アイザックは彼女いるんだった」

「本気なのはマークだけかー...っはあ!?」

「マークにしても、アリスさんっていい人だから、僕が守らないとって感じだけどねー、だから私最近マークに注意されてんだよねー、あとあんたも良くないんじゃないかってさ」

「マジかよマーク最低だな!あとケイチーちょっと待て!」

「何で?マーク悪くないでしょ」

「そうだな!うん、それでいいけど、さっき何つった!?あの禿が彼女持ち!?」

「あー、うん。何か同級生と付き合ってんだってさ。この前アイザックにアリスについてそれとなく聞いたら、何でかアイザックの彼女の話になっちゃって」

「マジ...かよ...くそっ、禿でもイケメンならいいってことか...!?」

「まあアイザック普通にいい人だからねー」

 そんな会話をしていると、「ケインさん!」という声がした。

 見ると、マークを連れたヒロインちゃんが、こっちに向かってきていた。

 ケイチーが、マークに硬い声で言う。

「...マーク、お前、エイデンはどうした」

「...え?あ、ああ!しまった!ごめんアリスさん、僕エイデンの所に行くから!」

「そっか、じゃあまたねマーク君!」

 何だあいつ。

 慌てて早歩きしてったけど、エイデンのこと忘れてたのか?

 ケイチーの顔を盗み見ると、マークに呆れたような感じだった。職務怠慢だなあいつ。

「...アリス嬢」

「はい、何ですかケインさん」

「君、マークと最近仲が良いみたいだね」

「そうなんです!マーク君って、とっても優しくて、いい人なんです!」

「ああ、知っているよ。...アリス嬢」

「はい、何でしょうケインさん」

「...君に、聴きたいことがある」

「何ですか?」

「僕の恋を叶えて...これに、聞き覚えは?」

 僕の...それゲームのタイトルじゃなかったか?

 はあ!?ちょっお前何言ってんだそれいいのか!?

 や、でもあれか、ヒロインちゃんがこの世界に普通に生まれた人なら意味分かんないだろうし、俺達と同じように生まれ変わってんならもしかしたら知ってる可能性もあるのか。

 え、いいのかこれ。ヒロインちゃんが生まれ変わってる奴だったらどうするよ?和解、和解か、和解するのかケイチー!俺達の事情話して同志として仲良くするのか!?

「僕の恋を叶え...て...」

 ...ヒロインちゃん?

 ヒロインちゃんの様子が変だ。

 目を見開いて、小刻みに体を震わせている。

 そして、ヒロインちゃんは倒れた。

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