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「ノア、お庭に行きましょう(鬼ごっこしようぜ!お前鬼な!)」
「あ...ごめん、ぼくこれから勉強しないと...」
「あら、そう。それなら仕方がないわね(あっ...すいませんでした...)」
...何か最近オリヴィア姉さんもノアも忙しそうだな。
オリヴィア姉さんは王妃になるための教育やらを受けてるらしいし、ノアは家庭教師との勉強の時間が長い。
たまには息抜きも必要だろうに...。
俺だって勉強してない訳じゃないけど、姉弟に比べたらゆるゆるである。
しゃあねぇ、一人で行くか...。
うちの立派過ぎる庭に出ると、庭師のイケメンがいるのが見えた。
畜生、イケメンめ。侍女達がお前の噂してんの俺知ってんだからな!爆発しろばーか!
あれ、イケメンの名前ってなんだっけ...。
まあいいや。イケメンには関わらねぇぞ俺は。
こっちに気付いてないイケメンを置いて、俺は庭の一番奥へ向かった。
そこには大きな木がある。何の木かは知らない。でも初めてここに来た時にはもうあった。
俺はその木によじ登ると、 太い枝に腰かけた。
木登りしてるなんて母親に知られたら俺は庭に出禁になるかもしれないが、それでもここからの景色はそのくらいのリスクを負って然るべきだった。
...公爵家って相当身分がいいらしいけど、その娘が木登りしてるなんて噂が流れたらどうなるんだろうな...。
そういや母親が、俺も婚約者を決めるべきとか言ってるのを聞いたが、どうなるのやら...。
オリヴィア姉さんが、十六歳くらいで王子とどっかの学園に入るらしいが、それって俺もいつかは入るのかな...。
とりとめのないことをぼんやりと考えていると、侍女のエミリが俺を探しに来ているのが見えた。
勉強の時間かね。とりあえず木から下りて、俺は俺を探すエミリの声に答えた。
パーティー!?
おい、今こいつパーティーつったよな!?
パーティーだ祭りだお祝いだ!!
庭から部屋に戻り、「パーティーの予定がある」と聞かされ内心興奮してる俺に、エミリは意気込むように説明する。
何でも、王様主催のパーティーが近々あるらしい。
当然オリヴィア姉さんは招待され、俺とノアも行くことになったのだ。
王子に挨拶?出会いを求める?馬鹿野郎!パーティーつったら豪華な食事とドレスだろうが!可愛いドレス着たい!
出会いは知らね。イケメンは全員禿げれば...いやイケメンは禿げてもイケメンか。ならもげればいいんだ。
美味しいご飯楽しみだなー。
「マリアンナ姉さん、おねがいがあるんだけど...」
夜、俺の部屋にやって来たノアは、真剣な顔をしていた。
「何かしら?(え、何?どうしたお前)」
「...近いうちに、パーティーがあるってこと、知ってるよね?」
「ええ(ま、まさか行くなとか言わねえよな)」
「そこで、エイデン様とお話ししたいんだ!」
「エイ...デン様...(誰だっけ...えーと...あ)」
思い出した。
この王国の第二王子で、オリヴィア姉さんの婚約者である第一王子の弟だ。
「ぼく、エイデン様と年が近いから、なかよくなっておくべきだって...でも、ぼく一人じゃ不安で...いっしょにいてくれないかな...」
ノアは情けない表情で頼んできた。
そうだよな...こいつまだ六歳だし、不安に決まってるよな。
誰だよエイデンと仲良くなれなんて言った奴は!多分パパとママ。
「マリアンナ姉さん、エイデン様と同い年だよね?きっと姉さんもエイデン様となかよくなれるよ!」
おう、調子に乗せようとすんの止めようぜ。
女の子は王子に憧れるもんだと思ってんだろ、残念だが俺は特に興味ねえぞ。
「分かったわ、ノア。エイデン様とお話しする時は、私も一緒にいてあげる(別に断る理由もないしな)」
「ありがとう、マリアンナ姉さん!」
ぱあっと笑ったノアは、そりゃあオリヴィア姉さんに似て可愛かった。こいつの将来大丈夫かな...。早いとこ婚約してもらわねえと俺に、弟紹介して!って友達がわんさか出来そうだ。
ノアはそのまま安心したような顔で退室していった。
それにしても、エイデンか...。
見たことはある。金髪に青い目の、まさしく王子様といったルックスだった。
が、その甘いマスクとは裏腹に、性格は熱血で単純だという。
第一王子は優秀だから大抵一人で何でもこなすのだが、エイデンはいつも腕に支えられてるとか。
腕って何だよ、と思ったら、エイデンの右腕と左腕と呼ばれる二人がいるそうだった。その二人の将来は安泰なんだろうな。
とりあえず、パーティーで美味しいものを食べつつ、ノアのサポート頑張るか...。