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信じられない。
こんなものが、本当に存在するとは。
俺は思いっきり息を吸い、声を張り上げた。
「魔法の力ってすげー!」
「お嬢様!?」
あ、やべっ。
俺の世話をしてくれてる侍女のエミリが耳ざとく俺の声を拾い上げやがった!
「お嬢様、何があったのですか!?」
慌ただしく俺の元にやって来たエミリに、俺は完璧スマイルを贈る。
「何でもないわ、エミリ。ちょっと興奮しただけ(だから戻ってくれな)」
「...何かありましたら、すぐに呼んでくださいね」
「ええ、勿論!(そんなのないって)」
エミリがまた隣の部屋の掃除に戻ったところで、俺は再び手にある本に、視線を落とした。
この本は、魔法について書かれている。
そう、この世界には魔法が存在するのだ!
やっぱり、ファンタジーなんだな。俺はしげしげと本を見た。
俺は今七歳だ。いやこの世界に生まれ変わって七年で、実際の俺の精神年齢は既に二十歳を越えている。
俺の精神がこんな感じであることは、誰も知らない。
仲の良いオリヴィア姉さんと、弟のノアでも、だ。
そう、俺には弟ができた。俺の一つ年下の弟で、しっかり者だ。
大分オリヴィア姉さんになついているきらいはあるが、まあいいじゃないかシスコンでも。顔はいいし。
それで、俺が前世の記憶を持っている、ということなのだが、墓場まで持っていこうと思っている。信じてくれる訳ないし、自分の家族の中身が実は前世の記憶を持つ男みたいな奴なんて嫌だろ。前世の記憶とかお前頭大丈夫か?って当事者じゃなかったら俺だって思うだろうし。
あくまで男みたい、だ。俺は男じゃない。女としてこの世界に生を受けたのだから、俺は女だと思います、ええ。女の子の体に最初は戸惑ったが、まあ慣れた。
オレハオトコジャナイヨー。
智秋のことは心配ではあるが、もし俺みたいに生まれ変わってても、智秋だし大丈夫だろう。
もし智秋が俺と違って、トラックに轢かれて普通に死んだままだとしても、俺には冥福を祈ることしか出来ない。
俺だって最初は智秋を探そうとしたけど、何のヒントもないのに見つけられる訳がなかった。
まあ俺と同じで生まれ変わってたらその内会うかもしれないし、気楽にいこう。
前世に未練がない訳じゃない。でもトラックに轢かれて死んで終わる筈だったのに、せっかく生まれ変われたのだから、楽しまなければ損だと思う。
よって、俺はこの世界で、楽しんで生きることを決めていた。
マリアンナ・ルーシム。それが俺の名前。
公爵家の、次女だ。
長女のオリヴィア姉さんは、この王国の第一王子と、婚約している。正直王子は幸せ者だと思う。だってオリヴィア姉さんは美人だし優しいし、おっとりしてる人だ。滅多に声を荒らげない。王子との婚約が決まるまでは引く手あまただったんだぞ。
ノアもどっちかというと、可愛い系だ。まだ六歳ということもあるが、美少年である。ノアもオリヴィア姉さんと同じ母親似だが、金髪のオリヴィア姉さんに対してノアは父親譲りの銀髪だ。
そして、俺マリアンナは、父親似の顔である。母親譲りの金髪碧眼ではあるのだけど。
垂れ目っぽい母親、オリヴィア姉さん、ノアと違い、俺の目は結構鋭く見える。眉も父親譲りで、キリッとしてる。
俺だって可愛いは可愛いんだが、何か、あれだ。ハブと戦うマングースみたいな顔付きだと思う。
俺とオリヴィア姉さん、ノアとの関係は良好だ。オリヴィア姉さんは俺に色んな話(最近は婚約者である王子の話が多い。おのれ王子、姉さんを幸せにしなかったら許さん)をしてくれる。
ノアは、俺の方から遊びに誘うことが多い。遊びといってもうちの立派過ぎる庭を駆け回るくらいだけど。
ちなみに母親は俺が庭でハッスルするのを好ましく思ってないらしいが、父親は俺の好きにさせてくれるのでありがたいと思う。父親が何考えてんのかよく分からないが、まあオリヴィア姉さんは未来の王妃だし、跡継ぎもノアだし、俺にはそんなに期待してないのかもしれない。俺としては自由に出来るからラッキーとも思うが。
魔法の話だ。
このファンタジーな世界には、魔法が存在する。ただし、魔法を使える人間は非常に少ない。よって、魔法の仕組みとかもまだよく分かってないらしい。
魔法を使えるかどうかを判断する検査を、国民全員が五歳の時に受けることになっている。もしそこで魔法を使えると判断されたら、強制的に研究所に連れて行かれ、見習い魔法使いとして、師匠魔法使いから鍛えられつつ、城で生活することになる。貴重な人材だから、監視下に置きたいんだろう。
魔法を使える人間は、実にランダムだ。王族貴族が使えることもあるし、庶民が使えることもある。何かよく分からんが、遺伝ではないみたいだ。
俺もオリヴィア姉さんもノアも、魔法は使えない。まあ当たり前だな。前世でいう宝くじみたいなもんだし。
俺はまだ魔法を見たことはないが、見てみたいとは思う。
そりゃあな、テンション上がるだろ。魔法だぞ魔法。
ファイアーボール!とか叫んでみたいだろ普通に。
魔法、生きてる間に見れるといいなあ...。
まあとにかく。俺はこのファンタジーな世界を、楽しんで生きるようにしているのだ。