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24.5 マーク

コメント、ありがとうございます!


マークによる(ほとんどケインの)昔話です。

書いてるうちに長くなってしまった...。申し訳ありません。また、ある人がある人を殴る描写があります。ちょっとシリアスです。

 昔の話だ。



 僕は、五歳で魔法使いになることを義務付けられた。

 魔法の検査は、大きな水晶玉が用いられる。そこに手をかざして、水晶玉の中に、何かしらの色が見えたら、魔法が使えるとされる。

 僕は、手をかざしたら、水晶玉の中に、青い色が浮かんだ。



 これは後で知ったことだけど、攻撃の魔法を得意とする人は赤色、防御の魔法を得意とする人は青色、回復(支援)の魔法を得意とする人は白色、洗脳や幻覚を見せるなどの、精神への干渉の魔法を得意とする人は黒色と、分けられている。あくまで得意とする魔法なので、他の魔法が使えないという訳ではない。

 僕の師匠は驚くべきことに、魔法の検査の時、赤青白黒、全ての色が同時に浮かんだらしい。化け物だと思う。その師匠に鍛えられた僕も精神への干渉の魔法以外は(どうもそれは苦手なのだ)大抵使える。



 魔法の検査の後、訳も分からないまま、一緒に来ていた父さんと引き離され、研究所というところに連れていかれた。

 そこで色々な質問をされた筈だけど、あまりよく覚えていない。

 その後、僕はお城で生活することと、同い年だった第二王子エイデン様の、側近になることが決まった。

 嫌だった。

 何よりも、家族と離れるのが嫌だった。

 僕の父さんは、小さいけど皆から親しまれている、料理屋を経営していた。母さんはお店の手伝いで、僕と僕より二つ下の妹は、近所に住んでる母さんの弟、つまり僕の叔父さんがよく面倒をみてくれていた。

 父さん、母さん、妹、叔父さん。僕の大切な家族と、離れたくなかった。

 でも、そんな僕のわがままが、許される筈もなかった。

 僕は、一人でお城に行くことになった。



 何度も泣いた。

 何度も、逃げたいと思った。

 お城がこんなに怖い所だと、思っていなかった。

 どこに行っても、どんな人でも、僕の陰口を言っていた。

 何度教えてもすぐにものを忘れる出来損ない。

 平民だから仕方ない、なんて言われたことはなかった。魔法を使える人は、皆能力が高いんだって。僕だけが、出来損ないだった。



 第二王子エイデン様とも会ったけど、最初はエイデン様のペースに付いていけなかった。だんだん単純なだけなんだって気付いたけど。



 僕の魔法の師匠は、厳しい人だった。同じ平民だけど、僕がヘマをするといつも怒鳴られた。

 ただ、僕が師匠の最後の試験に合格した時、初めて褒められた。頭を撫でられた。

 凄く嬉しかったのを覚えている。



 ケイン・ウィリアクト。

 エイデンの左腕と呼ばれている、ウィリアクト侯爵家の三男。

 正直、ケインを差し置いて僕がエイデンの右腕と呼ばれていることに納得がいかない。どう考えてもケインの方が優秀なのに。

 僕がケインと出会ったのは、お城の生活にも慣れ始めた五歳の終わりの頃。

 あの日は、確か空が酷く曇っていた。

 エイデンが、誰かへのお見舞いに、花を買ってきた。

 エイデンがお城を抜け出して(従者は一応一緒にいたそうだ)どこかから花を買ってきたことに驚いたけど、「きれいな花だろう?まえみてずっといいとおもってたんだ!よろこんでくれるだろうか」と嬉しそうで不安そうでもあるエイデンの顔を見たら、驚きも消えて、僕も何だか嬉しくなった。

 エイデンが買ったのは、黄色のカーネーションだった。

 その花を持って、意気揚々と出掛けたエイデンが、しばらく後になって落ち込んで帰って来た。

 一体何があったのか、仰天した僕にエイデンは、らしくない消え入りそうな声を出した。

「花が...」

 聞くと、カーネーションははしゃぎ過ぎていたエイデンの手から離れ、水路に落ちて流されてしまったらしい。

 でも、それならまた買ってくればいいんじゃないかと思ったら、その色のカーネーションは、最後の一本だったそうだ。何てタイミングかと思った。

「...やってしまった...」

 ぽつりとエイデンは呟いた。

 あまりにも可哀想で、僕は町で黄色のカーネーションを売る店を探そうと決心した。


 駄目だった。

 あの色のカーネーションは、珍しいもので、そうやすやすと手に入るものではないそうなのだ。

 エイデンを、いつものように元気にさせることは、僕には出来なかった。

 とぼとぼとお城までの道を、付いてきた師匠と一緒に歩いていると、突然、声をかけられた。

「君、殿下の側近ですよね?」

 驚いて振り向くと、そこには茶髪の男の子がいた。

 そしてその男の子は、一輪の黄色のカーネーションを持っていた。水浸しでしなっとなっていたけど、確かにカーネーションだった。

「な、なんで...」

「これ、拾ったので。殿下に渡していただけますか?」

 男の子はそれだけ言うと、僕にカーネーションを押し付け、走り去っていった。

 僕はただ呆然としていた。



 エイデンは無事にお見舞いでカーネーション(と別の花束。流石にしなっとなったカーネーションだけを渡すのは駄目だと思ったらしい)を渡せた。

 そして、僕と師匠が見た男の子の外見を元に調べると、男の子はケイン・ウィリアクトという侯爵家の息子であることが分かった。

 エイデンはケインをお城へと呼び出した。

 ケインはただひたすら「私が歩いていたら水路にカーネーションが流れてきた。だから拾った」と言った。でも水路には柵が付いていて入れないのに、どうやって拾ったんだろう?

 エイデンはこの一件から、ケインを気に入ってよくお城に来させるようになって、僕もすぐにケインと仲良くなれた。

 ケインは、僕が泣く時、いつも黙ってそばにいてくれた。



 ケインと出会った後の話。

 ケインがあんなに危険だと言っていたマリアンナさんと婚約するとは思っていなかったけど、ケインは僕達よりも付き合いの短いマリアンナさんと一緒にいた方が何だか楽しそうだった。少し悔しかったけど、婚約者同士なら仕方ない。

 僕とエイデンはケインを仲介にしてマリアンナさんとも交流を持った。二週間に一度くらいは、マリアンナさんとノアさん、エリザベスさん、エイデンと僕、そしてケインが、マリアンナさんの家の大きな庭にそろうようになった。

 そんな日常の、ある日。僕が、十歳の時のこと。

 ケインが、マリアンナさんの庭に、腕時計を忘れていった。大人っぽいデザインのそれは、ケインがマリアンナさんに見せて、外したまま置いていってしまったんだ。

 マリアンナさんは、使用人に届けさせると言ったけど、僕がケインに届けると言い張った。

 マリアンナさんは困惑しながらも、僕に腕時計を預けてくれた。

 僕は、どうしてもケインの家に行ってみたかった。だって、どんなところなのか、純粋に知りたかったから。



 腕時計を預かった次の日に、僕はお城からケインの家へと向かう。

 ケインには、二人の兄がいる。長男は頭が良くて、魔法の方ではない研究所に通っている、次男は剣が強くて、騎士団に見習いとして入っているらしい。

 ケインは二人には敵わないけど、それでも十分頭が良くて剣が強い。小さい頃の話だけど、騎士団長の息子に剣で勝ったこともあるくらいだ。それに女の子に優しいからモテる。

 素のケインはマリアンナさん程感情豊かという訳ではないんだけど、予想外の出来事に出くわした時には眉間に皺が寄るし、面白いことがあった時には物凄く笑う。

 だけどケインは自己評価が低いと僕は思う。もっと自分を褒めてほしいのに。ケインの家族はちゃんと、第二王子の左腕と呼ばれるケインを誇っている。

 だから、信じられなかったんだ。

 ケインが、三歳上である彼の兄に、殴られている光景が。



 偶然だった。

 家の中に案内されて、応接室という所でケインを待つように言われたけど、単に腕時計を返す(そしてその後出来れば家を案内してもらう)だけだから、自分でケインを探すと使用人に伝えた。使用人にはウィリアクト侯爵の部屋など以外で探せと言われた。

 そして、見た。見てしまった。

 奥の薄暗い一室で、僅かに開かれたドアから、ケインが大きな人影に、拳を振り下ろされる、姿、が。

 動けなかった。

 大きな人影は、言った。

「何でだ、何でお前なんかが王子の側近になれて、しかも公爵令嬢と、婚約出来るんだよ!おかしいだろ!ろくに努力もしてないくせに!俺は、騎士団に入って、何度も苦汁を嘗めて、それでようやく少しは認めてもらえるようになったのに、家に帰ったら、皆お前のことばっかりだ!父上も母上も、兄上でさえも!」

「...長い反抗期ですね、兄上」

 呆れたようなケインの声がして、僕ははっとしたけど、

「っうるさい!その上から目線が気に入らないんだよ!お前なんか大嫌いだ!!」

「...そうですか。私は、兄上のこと好きですけどね」

「はっ...?な、何でだ、そんなの、嘘に決まってる。こんなことされて、まだ好きなんて、何で...」

「だって家族ですし」

「...っ!も、もうお前なんか知るか!」

 どたどたとこっちに歩いて来たその人に、僕は慌てて近くの物陰に隠れた。

「...ケ、ケイン」

「はーい?」

「...ご、ごめ、ん...ちょっと、待ってろ。今、誰か呼んで来て、お前、治療してもらうから...」

「はーい」

 ケインの兄は「おい!誰かいないか!」と叫びながら、僕に気付くことなく走っていった。

 所々にあざのあるケインは座り込み、ぼーっと宙を見ている。

「ケイン」

「うわっ...あ、マーク?何でここに...?」

「...腕時計、返しに...忘れ物だよ。あの...ケイン」

「んー?」

「何で...あの人に、好きなんて言えるの?」

「んー...あのさ、マーク」

「うん?」

「世の中にはさ、姉に対して百科事典ぶん投げる馬鹿弟がいるんだよ」

「ええっ!?」

 百科事典!?それって、凄く重い筈なのに!

「それに比べたら、殴るくらい大したことないでしょ?お兄ちゃん手加減してくれてたしね。それに、謝ってくれた。家族だもん、反抗期は頑張って乗り越えないと」

「あの...ケイン...口調...?」

「...えへ」

 えへ!?

「まあ...私の素はこんなもんだよ。失望した?ごめんね、何か今お兄ちゃんの優しさに触れてハイになっててさ」

 僕は何も言えなかった。

 何だか、ケインが女の子みたいだ。

「あ、そうだマーク、この怪我治してよ。回復の魔法使えるんでしょ?」

「えっ...でもそんなことしたら、あの人...」

「いいのいいの、お兄ちゃんは反抗期だから素直じゃないだけで、悪人じゃないんだから。お兄ちゃんの未来のために証拠隠滅してよ」

 駄目だ、何か話が通じない気がする。

 結局僕はケインの怪我を治して、腕時計を返しそそくさとケインの家を出た。

 あのあとどうなったかは知らないけど、何だかんだ兄弟とは仲良くしているらしい。



 それにしても、ケインには秘密がある。ケインの素もびっくりしたけど、時々マリアンナさんと、僕には分からない単語が飛び回る会話をしているのを見たことがある。

 ケインとマリアンナさんの間に、何らかの、僕達には言えない繋がりがあったとしても、僕はそれを許すよ。

 ただ、これからも彼らと一緒に過ごせたらいいなと思うのは、僕のわがままだけど、 今度はそれを絶対に貫き通すからね。

ケインがカーネーションを拾った方法:普通に柵の間をすり抜けた。子どもならでは。水路は深くありません。そもそも水路に侵入しようなどと考える人がいる筈ないと思われていたので、そこまでしっかりした柵ではありませんでした。

また、実はケインはエイデンがカーネーションを落とす現場に居合わせており、ひどく落ち込むエイデンを見て(あああもおおお)となりながら走って流れるカーネーションを追いかけ、近道して先回りして水路に降りてカーネーション確保、という流れになります。

よく考えたら新しいの買ってんじゃね?と思いつつもケインはカーネーションを確保しました。

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