24
中庭には桜の木がある。
その近くは春限定でいいデートスポットになってるんだけど、そこにマリュン達はいた。
「もういいわよ!」
えっ。
「エイデン様も、ベティも知らないわ!!」
ちょっと、マリュン?
マリュンは肩をいからせてこっちに歩いて来て、私とマークに気付いた。
「ちょっとケイチー!聞いてくださいな!エイデン様とベティが...!」
頬を膨らませているマリュン、前世なら「そんなんしても可愛くないから」とか言えるのに今は普通に可愛いから何も言えない。
「どうしたんだマリュン...」
「...そちらこそ何故そんなに見つめてくるんですの?」
「いや...怒ってる君も、可愛いと思ってね」
「ぶっ」
あ、吹いた。
マリュンは俯く。マークは多分マリュンが照れてるとでも思ってるんだと思うけど、違うからね。こいつ笑ってるだけだから。
「...失礼しましたわ、ケイチー(てめえ急にぶっこんでくんじゃねえよ)」
「私は思ったことを言っただけだ(だって怒ってたじゃん)」
「ケイチーと話すと落ち着きますわね(めっちゃキザだったな今の)」
「それは良かった(止めてくんない私も恥ずかしいんだから)」
「ケイン、いいところに...」
エイデンがほっとしたように近寄ってきた。これまでになく不安げなエリザベスも付いて来る。
「...それで、エイデン?何故私の婚約者は怒っているのかな?」
エイデンは困ったように眉を下げた。
「エリザベスの呼び方の話だ」
はあ?
「おかしいとは思いませんの?エイデン様は、ベティに対してだけ呼び捨てをなさるんですのよ?(ベティちゃんにベタベタしやがって馬鹿が!)」
不満そうにマリュンが言うけど、相手王子なのによくそんなんで怒れたね。
「マリュン、落ち着け。別にエイデンがエリザベス嬢を何と呼ぼうと、エリザベス嬢がエリザベス嬢であることに変わりはないだろう?」
「...それも、そう...なの?(あるぇ?確かにベティちゃんはベティちゃんだよな...)」
考え込むマリュン。それで納得するんだからほんとチョロいよね。
「エリザベス嬢も、マリュンを邪険に扱いはしないだろう?」
「当たり前、です!」
エリザベス...。
あんたのこんな大声、初めて聞いたよ。
そっか、そんなにマリュンのこと好きなんだね。
聞いたところによると、エリザベスは箱入り娘だったのに加えて、元々人と話すのが苦手だったらしい。エリザベスはよく考えてから喋るから、結果的に会話がゆっくりになってしまって、幼い頃、他の貴族の子達からつまはじきにされてたそうだ。
あのパーティーの時も、本当は行きたくなかったんだって。
でも、マリュンはエリザベスの話し方なんて気にしなかった。エリザベスが喋るのに合わせて喋ってくれた。
エリザベスにとって、マリュンは、初めての友達なんだ。
「ベティ...そうね、私が間違っていたわ!貴女が誰と話していたとしても、貴女は私の大切な人だもの!(そりゃあちょっとはベティちゃんと話す野郎にむかつくけどさ!)」
「マリアンナ...」
エリザベスははっと息を飲んだ後、微笑む。
「良かった...私、マリアンナの、大切な人になれてたんだ...」
「当たり前よ!!(ええ!?気付いてなかったとかそれどこの鈍感主人公だよ!?)」
まあ確かにマリュンはエリザベスにグイグイいくよね。エリザベスと話してると大抵「ベティは本当に可愛らしいわね(愛してるぜベティちゃん!)」とか言ってるもんね。
「...敵わないな、だが俺は諦めないぞ」
エイデンはどこか清々しそうだけど、あんたどうしたの?燃えてんね。こんなライバルキャラいそう。あんた王道の攻略対象なんだけどね。
「...ねえケイン」
「何だマーク」
小声で聞いてくるマーク。
「マリアンナさんって、親しい人に対してはすごく積極的だよね」
「そうだな...」
というか他の人に対しての興味があんまりないんだと思う。一目見て気に入ったとかじゃなければね。まあ周りに美少女が多いから結局女の子に対しては積極的なんだけどさ。女の子と話してる男に対してはよく相手にバレないようにメンチ切ってるのを見かけるよ。
「ケインはそれでいいのかい?」
「ああ、私は別に構わないぞ」
私はマリュンの婚約者だけど、マリュンが女の子大好きなのを嫌だとは思わないよ。だって婚約自体主人公対策のものなんだし。マリュンがどうしても解消したいってんなら受け入れる。そんなにほいほい解消したら色々迷惑かかるだろうから出来るだけ止めてほしいけどね。
「マリアンナ・ルーシム嬢!私は、諦めないぞ!」
「あら、何のことですの?(はっ、ベティちゃんを俺から奪うとか?やってみろやごらぁ!!)」
火花が散っている。
んー、どうなるかな。エリザベスの気持ち次第だけど、まあ頑張れマリュン。頑張れエイデン。




