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アイザックは、中庭の入口付近をうろうろしていたアリスに話しかけていた。
私とマークは、その二人とはやや離れた所にいるから、アイザックは私達に気付いている様子はない。
ただ、近くの桜の木の下にいるエイデンとエリザベスには気付いてるみたいだ。
「...えっと...アイザック先生だよね?何話してるんだろう」
「何だ、聞こえないのかマーク。耳が悪いな」
「そんなことないさ。ケインがおかしいだけだよ」
おいマーク。
しかし、私は重大なことに気付いた。
アイザックに何か違和感を感じると思ったら、
あいつ、ヅラ被ってやがる。
私は膝から崩れ落ちた。
マークが慌てたように背中をさすってくるけど、別に気分が悪くなったとかじゃないんだよ。
アイザックが原因なんだよ。
やがて、私が震えて笑っていることに気付いたマークは「心配させないでくれないかい!」と叫んだ。
仕方ないじゃん、あんなん笑うしかないよ。
何で?何で今その髪と同じ藍色のヅラ被ってんのアイザック?クラスに自己紹介する時には被ってなかったくせに何で今被ってんの?
私を殺したいのか。私を笑い死にさせたいのか?
「こんな所で、何をしてたんだ?アリス」
「ちょっと、サクラの話をしたらサクラを見たくなって。すごい、綺麗ですよね...!」
「そうか、それならいいんだが...アリス」
「はい?」
「お前は、確かに他の生徒とは境遇が違う。それで辛い思いをすることもあるかもしれない。もし、お前が耐えられないと思ったら、誰でもいい、相談しなさい。中には、お前の思いに応えられない人もいるだろう。だが、誰も信じられないということはないんだ。少なくとも、先生はお前の気持ちを真剣に受け止める。俺に出来ることは少ないかもしれないが、お前の味方でいることは出来るから。だから、絶望は、しないでくれ」
...何だ、いい先生じゃないの。
学園の新入生の中で、庶民なアリスを気にかけてここに来たんだね、アイザックは。
アリスはマークとは違って、貴族に知り合いもいないし、魔法が使える訳でもないから、アイザックはアリスが心配だったんだろう。
アリスの私物を取り上げて、手でアリスの届かない高くに掲げて「ほら、お前のものはここだぞ...?」とか言ってアリスを何回もジャンプさせてた私の知るアイザックはどこにいったんだろうね。
あと、ごめんアイザック。いいこと言ってる風だけど、あんたのヅラのせいで私の笑いがちっとも収まらないんだ。
マークはアイザックの言うことが少しは聞こえたのか、うんうんと頷いている。
その時、強風が吹いた。
桜の花びらが勢いよく散っていく。
それとほとんど同時に、アイザックのヅラが風に飛ばされた。
気付かないアイザック。
ヅラを目で追うアリス。
「ああっ!?」と声を上げたマーク。
桜を見ていた筈なのにヅラが飛んできてぽかんとしているエイデンとエリザベス。
ヅラは桜吹雪と共に、空を舞った。
笑い死んだ。
笑い過ぎて何か全部おかしくなってきた私をよそに、アイザックはアリスに「あまり遅くまで外にいるなよ」と言って中庭を出ようと背を向けた。
アリスが一生懸命に走り出し、桜まみれになって落ちたヅラを拾って、アイザックの元へ駆け寄る。
「アイザック先生、ありがとうございます!先生のこと、たくさん頼ることにします。あと、これ、落としましたよ。それじゃ、失礼します!」
そう、純真無垢に、アリスは元気よく中庭を走り去っていった。
ヅラを手に固まるアイザック。
もう止めて、お願い、これ以上笑ったら私本当に死ぬかもしれない。
アイザックはしばらく固まっていたけど、やがて桜をはらってヅラを被り、お腹をおさえて中庭を出て行った。
多分、胃が痛くなったんだと思う。やっぱアイザックが若ハゲになった理由ってストレスなんだろうね。
「...ケイン、大丈夫?」
「駄目」
待ってねマーク。私にはまだ思い出し笑いという壁が立ちはだかっているから。




